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35.レアアイテムが欲しい

 卵の中で微睡む。温かくて穏やかな時間が過ぎて行く。普段は聞かなくても聞こえる同族の声が、遠く感じられた。それだけで眠りが深くなる。


 心配も過ぎるが、あの子達ももう子どもではない。ちゃんと眠る前に言い聞かせたし、大きな騒ぎは起こしていないだろう。アクラシエルは卵の中で欠伸をひとつ。ごろりと向きが変わり、上下が逆転した。


 アザゼルの声が聞こえる。あとはベレトか? 二人の声が柔らかいことに気づき、卵の中で空を見上げた。仰向けの姿勢で、明るい上部に目を凝らす。霊力の膜の向こう側に、ベレトの気配を感じた。


 ベレトが温めているらしい。先程まで接触していたアザゼルの気配が遠ざかる。巣穴の周辺に意識を広げれば、他のドラゴンも集まっているようだ。世話をかけてしまった。目覚めたらしっかり報いてやらなくては。


 だが今は、まだ微睡みが許される。小さな手足を伸ばし、形が作られたばかりの指を動かした。無精卵が手に入ってよかったと思う。もし有精卵なら、宿ることを拒否した。


 魂の情報が優先される竜族にとって、生まれ直しは珍しくない。長寿になる竜ほど、経験者がいた。ここ数万年は起きなかったが、運が良かっただけだろう。


「我が君、早く目覚めてください」


「陛下に霊力を献上したい」


「あ、私も!」


「だったら、僕も差し上げたいな」


 次々と訪れる同族が、卵に霊力を注ぐ。魂を移した器を霊力で覆った今なら、いくらでも歓迎だ。それだけ目覚めが早くなる。水竜の癒しに満ちた冷涼とした霊力、熱く滾る霊力は火竜か。さらに爽やかな風を思わせる霊力が表面を撫でた。


 取り込んだ霊力を捏ねて、ゆっくり吸収する。全属性を持つからこそ、どの霊力も変換可能だった。これが火竜の復活なら、水竜や氷竜の霊力は弾かれてしまう。どの霊力も美味しく頂いて、アクラシエルは膨らんだ腹を叩いた。


 再び向きが変わる。満遍なく温めるため、気を使ってくれたようだ。目を閉じてアクラシエルは眠りについた。すべての霊力を己の力に変換しながら、うつ伏せの姿勢で手足を縮める。自分を抱きしめるようにして、大きく息を吐いた。







「今、陛下が動かなかったか?」


「わからん、だが霊力は受け取ってもらえた」


 喜ぶ周囲は、卵に触れて撫でる。一度にたくさん送り込むと、逆に負荷になってしまう。卵の様子を見ながら、何回にも分けて霊力を送るのが最適だった。


 白かった卵の表面は、ややくすんでいる。灰色に近くなり、これから輝きを増すのだ。割れる頃には完全な銀色になるだろう。ドラゴンの卵は、生まれる子の鱗の色に染まるのだから。


「我が君がお生まれになったら、卵の殻を分けていただこう」


 うっとりと水竜が呟けば、周囲が「私も」「俺も」と続いた。竜王の鱗や卵の欠片は、特別な役割を果たすものではない。ただ普段は手に入らないレアアイテムだった。


 今回の遺体は、時間が経って消滅してしまった。誰の手にも渡さないと、強硬にアザゼル達が反対したのだ。さすがに遺体から引っぺがして保管する気はない同族は、遺体の消滅に対して素直に同意した。


 だが今回はお祝いだ。誕生した後の霊力に満ちた卵の殻なら、不謹慎でもないだろう。期待する彼らに、ベレトは「いいんじゃないか」と頷いた。食事を終えて戻ったアザゼルも、今度は反対しない。


 卵が孵るまであと少し……交代で温めることが決まり、ドラゴン達は順番を決めて並んだ。たくさんの同族の愛を受けて、卵は徐々に銀色を帯びていく。襲って来る人族やちょっかいを出す神もいない。警戒しながらも、竜族は穏やかに過ごしていた。

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