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32.一回は一回、順番です

 卵に完全に膜が張って二日、ようやくアザゼルは張り詰めていた気を緩め、肩の力を抜いた。ここまで霊力が浸透すれば、尻尾で叩いてもヒビも入らないはず。安心して姿勢を変える。


 一度卵を置いて、転がらないのを確認してから、右巻きの体を左巻きにした。


「体が凝ってしまいました」


 苦笑いして解すが、すぐに左巻きの中央に卵を置いた。ナベルスやベレトを呼んで、安全に運びましょう。緊急時の護衛は必要です……ん?


 アザゼルは目を凝らす。憎き勇者が燃えた辺りに、きらりと光る物を発見した。人が好んで身につける貴金属なら、とっくに溶けているだろう。首を傾げたが、卵があることを思い出して踏みとどまる。


「ナベルス、ベレト」


 霊力を込めて名を呼び、卵が安定したと連絡する。彼らが到着したら、移動するとしましょう。その時に光る物も回収したらいい。どうせ炎の中にあるのだから、紛失の心配もない。


 あふっと欠伸をして目を閉じる。少しだけ寝よう。卵を温め始めてから、目を閉じても熟睡はしなかった。卵の安全を守るために結界を張り、それ以上に気持ちを張り詰めていたのだ。


 うっかり眠ると、あの日の夢を見る。大好きな養い親であり、主君と定めた人の首がゆっくりと落ちていく様子。あの悪夢を見るくらいなら、起きている方がマシだった。今度こそ守り抜く、その意思は強くなる一方だ。


「卵が安定したって?」


「良かった、さすが陛下だ」


 飛んできた二匹に卵を預け、炎の中に足を突っ込む。ベレトが卵を守る間、ナベルスが不要になった炎を消火した。森に延焼しないよう、炎は魔法で管理している。その管理を解くことで、一気に勢いが衰えた。


 陽炎が出るほど熱せられていた空気が冷え、ほんのり肌寒い。黒い炭ではなく白い灰が積もる一角を、ごそごそと爪で探った。すぐに光る金属を発見する。炎の中でも溶けず、焼けて黒く(くす)むこともなかった。長細いそれを掴んで持ち上げる。


「っ! これはいい拾い物をしました」


 にやりと笑うアザゼルは、それをナベルスに渡した。氷の中に閉じ込めるよう頼み、運搬も彼に任せる。卵を掴んで飛ぶつもりのベレトへ囁いた。


「ナベルスが持っているアレ、勇者の剣ですよ。我が君を傷つけた……女神の武器です」


 興味と怒りでそちらに意識が逸れた隙に、アザゼルは卵を奪い返した。


「ちょ! お前はずっと温めてたじゃないか! 次は俺の番だろ」


「順番ですか? 温めた私が一回、いま守っていたあなたが一回、ならば次は私の番でしょう」


 一回は一回、たとえ数日と数分の違いがあったとしても。そう説教され、ベレトは一瞬「そうかな?」と騙された。アザゼルは卵を確保し、悠然と空に舞い上がる。こうなってしまえば、アザゼルの勝ちだった。


 空中戦を行って、万が一にでも破ったり落としたら……想像するのも恐ろしい。ベレトはぶつぶつ文句を言いながら、後ろを守って飛び始めた。その姿を見ながら、ナベルスは溜め息をつく。


長男(ベレト)末っ子(アザゼル)に甘すぎる」


 いつものことながら、ちゃっかりした末っ子にしてやられた。そんな二人の間で、ナベルスは次男ポジションだ。


 どうせ卵を温める役は回ってこない。氷竜は冷たい上、寝床も凍りついているからだ。ならば、他の面で役に立って、アクラシエルに褒めてもらおう。父親のような竜王の復活を願う一団は、新しく定めた巣穴へ向かって飛び去った。






 残された勇者がじわじわと気味悪い復活をする場面に、またもや遭遇してしまった魔王ゲーデと側近バアル。運の悪さと見た目の気味悪さに、ドン引きして逃げる。逆再生で復活する呪いをかけた女神を罵りながら。

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