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23.幼子から卵へ移動成功

 大地が割れ、火山から噴き出し、川は大きく揺れて溢れ出した。天変地異に人族は怯える。シエル救出に向かう騎士団や兵士も同様だった。


 その時間稼ぎを利用して、アザゼルは主君の魂の移動を待つ。半分ほど移動したところで、アクラシエルが口を開いた。


「アザゼル、移動が終わり次第……この子を治癒して魂を繋ぎ直せ。よいか? 我が魂を宿した器だ。粗末に扱うなよ」


「はい」


 嫌だけど仕方ない。そんな溜め息まじりの返答に、アクラシエルはさらに要望を付け加えた。


 無事送り届けること、母レイラの治癒、騒動を大きくしないために人に化けること。並べるたびに、アザゼルの返事のキレが良くなっていく。気づいたのだ。おざなりに返事をするほど、心配になったアクラシエルが留まろうとする。


 幼子から出て卵に入れば、一時的に眠ってしまう。そのラグで何か仕出かさないか、心配で進めないらしい。養い親であり主君でもあるアクラシエルのために、アザゼルは真剣に話を聞いて目を見て頷いた。ようやく笑顔を見せたシエルから、竜王が抜け出る。


 卵の中に無事、吸収された。無精卵は成長しない。体を作る情報が足りないからだ。片親の情報しか持たない卵の中で、魂が持つ情報を利用して過去の己を再形成する。アクラシエルは温かな卵の中で、あふっと欠伸を漏らした。


 母竜に温めてもらった記憶が、ほんのりと蘇る。忘れたと思った過去が、輪郭をぼんやりと浮かび上がらせた。


 アザゼルは卵を大切に拾い上げ、そっと腹の下に隠す。このまま温めてもいいが、やはり安全な巣穴に運ぶのがいいだろう。心話で、同族に竜王の無事を伝えた。新しく生まれるため卵に宿った主君を、しばらく守るとも。


 宿ったばかりの卵は不安定なので、数日動かせない。だが人族の子は脆く、数日放置したら死んでしまうだろう。アザゼルにとってシエルに価値はないが、主君が気にかけた子を命令に反して殺す気はなかった。


「誰が適任でしょう」


 言いつけられた用事を片付けるには、ベレトがいいか。ナベルスは向いていない。卵を温める役を譲りたくないアザゼルは、真剣に頭を捻った。


『ベレト、我が君の命令を伝えます』


 心話で呼びかけた瞬間、聞き耳を立てていた他の竜が不満を訴える。自分達だって役に立ちたい。真剣にそう訴えられれば、アザゼルも無視できなかった。


「わかりました。目立たないよう、人の姿で集まってください」


 人族の街の近くなのだから、人の姿なら平気だろう。森に木を隠すように、同じ格好なら潜り込めるはず。そう伝えてぐるりと丸まった。冷えた地面に触れないよう、卵をやや浮かせて下に足を差し込む。


 すぐ傍で寝転がるシエルの細い魂を、ぐいと引っ張って押し込んだ。体に残る竜王の霊力に弾かれたのか。ふわりと出てきたところを、強引に結び直した。このまま数日すれば、落ち着くはず。元の持ち主ですし。アザゼルは一仕事終わった満足感で、喉を鳴らして卵に頬を寄せた。


 早く生まれてきてください、アクラシエル様。アザゼルの願いは霊力に宿り、優しく卵に注がれた。

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