18.うっかり殺したが結果オーライ
勇者一行は消し炭になった……。冗談や比喩ではなく、文字通りの意味だ。叩きつけた魔王ゲーデの魔力は雷となり、勇者と魔法使い、神官を直撃した。
「うわぁ……ぐろい」
自分で攻撃したくせに、ぐちゃぐちゃの死体を見るゲーデの視線は、ちょっと逸らされてる。まあ積極的に見たい光景でもないでしょう。バアルはそう締め括ろうとした。だが、遅すぎる事実に気づく。
「魔王陛下……その……竜族の皆様にどう言い訳すれば」
「あ! しまった、殺してしまった。ならば、仕方ない。お前が失敗したことにせよ。私は知らぬ」
「いや、それは無理です。私が粛清されるではありませんか! そもそも陛下が雷をぶっ放すからこんなことに!!」
竜王の仇である勇者一行を、うっかり滅ぼした責任をなすりつけ合う主従。魔王と側近の言い争いは徐々にヒートアップした。
「バアル、命じても良いのだぞ」
「拒否します、そんな命令……え? あれは……うわぁあ!」
バアルが突然、地面を指差す。抱っこされたままの幼女は、促されるまま地面を見た。思いがけぬ光景に固まる。
「気持ち悪ぅ」
心底嫌そうに吐き捨てた。徐々に元へ戻ろうとする死体を前に、魔王ゲーデは本気で顔をしかめた。見苦しい以前に、何かがおかしい。
最初に戻っていくのは勇者だ。その隣にいる神官、一番離れた位置にいる魔法使いの復活が遅い。
「勇者にそんな機能あった?」
「ありませんね」
バアルは否定しながらも、じっくり観察を始める。グールは動く死体と呼ばれる種族だが、実際は死んでいない。アンデッドと呼ぶ人族もいるようだが、本来は「不死」の意味で使用する単語だった。一番近いのは、特定の手順を踏まないと復活する魔王や吸血種である。
魔王自身がアンデッドの一種だが、こんな気持ち悪い復活は知らない。しかも相手は人族だ。ぞわりと背筋に怖気が走った。
「吐きそう」
「抱っこの腕がお腹に入りました?」
「そうじゃない」
物理じゃなくて。幼女魔王は、そっと目を逸らした。最初の頃は黒焦げだから、ある程度我慢できたが……今は完全に半生状態だ。目に優しい映像ではなかった。
「この情報は竜族の皆様に流しておきます」
「ああ、折角だから戻る時間なども共有しておいてくれ」
バアルの申し出に、ついでの情報を指示する。ずっと浮いていると魔力を無駄に使用するため、二人は村で一番高い櫓の上に降り立った。おそらく見張り台なのだろう。
下で起きた騒動に駆け寄った村人は、死体ができた時点で家に逃げ帰っている。この薄気味悪い光景は見ていないようだった。まあ、見られても構わない。復活した勇者一行が、同族に殺される可能性が高まるだけだ。
「全員、意識が戻っていませんね」
冷静に観察するバアルは、詳細を細かくメモし始めた。細かな字で並べた情報を複写し、呼び寄せた蝙蝠に持たせる。観察は結局、夜まで続き……様子を見に来た村人によって、復元した勇者一行は連れ去られた。
夜の暗闇をものともしない二人は、顔を見合わせる。この時点で、まだ勇者の意識は戻っていない。外見は人の姿になっていたが……。
「あれは復活なのか?」
「復元、復活、どちらにしても厄介ですね。いえ……竜族の皆様にとっては朗報でしょうか」
「なぜだ?」
「あの方々が一度殺したくらいで満足すると思いますか? 無理ですよ。千々に引き裂いても蘇るなら、何度も死の苦痛を与えるでしょう」
「なるほど。ならば余も遠慮なく殺せるというもの」
くくっと笑うが、先程の光景を思い出したのか。うっと口を押さえる。幼女姿以前に、イマイチ締まらない魔王陛下であった。