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隣の席の転校生が異世界の言葉でデレてくる!  作者: そらちあき
追加エピソード

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19.8:調理実習でもデレてくる③

 調理実習、当日――。

 先週の家庭科の授業で無事に予定通りの班分けを終え、献立も決めた俺達は遂にその日を迎えていた。


 家庭科室にクラスメイト全員が集まり、それぞれエプロンを着用し手洗いも済ませ準備万端といった感じである。


 その中でクラスメイトの目を引くのは学校のアイドルである姫月の珍しいエプロン姿なのだが、俺はというと隣に座るメアの方に目が向いてしまっていた。


 水玉模様のエプロン姿、長い髪を後ろに束ねたポニーテール、可愛らしい白いリボンでそれを結っている姿を見るのは新鮮でつい見惚れてしまう。それに彼女は一緒に料理の本を買ったあの日から、今までずっと料理を覚える為に家で特訓に励んでいたのだ。


 指にいくつもの絆創膏を貼って登校してきた時は驚いたものだ。


その様子が心配で声をかけたら、彼女は絆創膏が貼られた指をさすりながら『あおいくん、だいじょうぶ。わたし、料理上手くなるから』と笑顔を見せてくれた。それからどんどん減っていく絆創膏と料理の練習が上手く行っているのか顔にも自信が満ちていく。


 そして迎えた今日この日、ついにその成果を見せる時が来たのだ。


 俺もメアと一緒に料理出来るのが楽しみで仕方ない、絶対に美味しい料理を作ってクラスの皆を驚かせたいと思っている。


「雨宮、今日は一緒に頑張ろうな」

「うん……! 美味しいのを作ろうね、絶対ね……!」


 俺が話しかけるとメアは元気よく返事をして、それから俺の腕をぎゅっと掴んできた。その小さな手に込められた力はとても強くて、それだけ今日の料理に気合いが入っている事が伝わってくる。


 そんな俺とメアの姿を見ながら、翔太もやる気を出したのか腕まくりして親指を立てた。


「よっしゃ、オレにも任せてくれよな! 皿とか箸とか鍋とか包丁とかよ、なんでも洗ってやるぜ!」

「あくまでも洗う担当を貫くんだな……翔太」

「おう、料理の腕は見て盗めって言うじゃん? 葵の活躍をこの目に焼き付けておくぜ!」


 そう言ってニッと笑みを浮かべる翔太を眺めながら、姫月も調理実習を始める為の号令をかける。


「それじゃあ、あたし達も始めちゃいましょ。みんなで最高の調理実習にしましょうね!」


 こうして俺達の調理実習が始まった。


 事前に決めていた献立はカレーライスに、色とりどりの野菜を使ったサラダ。それにデザートにはフルーツポンチ、そしてメアのリクエストでいつも俺が弁当に入れているだし巻き卵を作る予定となっている。

 

 俺にとってはどれも作り慣れているメニューだがメアにとってはそうではない。なので一つ一つ丁寧に教えながら進めていくつもりだ。


「雨宮、それじゃあ一緒にカレーに使う具材を切り揃えていこうか」

「う、うん……!」

「それじゃあ、あたしはお米研いだりサラダとフルーツポンチを翔太くんとやっていくわね!」

「お、オレもか!? 皿洗い以外にも仕事があるなんて……でも姫月との共同作業なら、オレ頑張っちゃうぜ!」


 俺とメア、姫月と翔太のそれぞれで役割分担して早速調理に取り掛かっていく。


 まな板の前にメアと一緒に並んで立って、まず最初に玉ねぎから切る事にした。


「雨宮、カレーを作る時の玉ねぎの切り方は繊維にそって、くし型に切るのが基本なんだ。こうすると繊維が残って加熱しても形が崩れにくい」

「わ、分かった。やってみる……」


 緊張しているのか包丁を持つ手が震えていて、それでも一生懸命に言われた通りに切ろうとするメア。彼女が怪我しないように隣に立つ俺は手取り足取り指導していく。


 初めは緊張していたメアも段々と落ち着いてきたのか、包丁の扱い方も玉ねぎの切り方も丁寧で家での練習の成果が表れていた。


「上手だよ、雨宮。ついこの前まで料理をした事がなかったなんて思えないくらいだ」

「毎日練習してたから、最初は指を切っちゃったりして……たくさん失敗したけど、今はちゃんと出来てる?」


「ああ、ばっちりさ。この調子で他の材料も切って行こうな」

「が、がんばる……!」


 二人で協力して玉ねぎを切り終えたら次はニンジン、ジャガイモ、豚肉と順番に調理を進めていく。


 その間に姫月と翔太の方はというと――。


「翔太くん、お米研ぐの乱暴すぎるわ。もっと優しくしてあげて」

「駄目なのか? かき混ぜるの面白くてよー、じゃらじゃらしてて」

「もぅっ、ほら貸してみて。お手本を見せてあげるから」


 姫月に言われて、素直に翔太が炊飯器を渡すと彼女は慣れた様子で米を研いでいく。その様子を見ながら感心する翔太と丁寧に教えていく姫月の二人も中々に良いコンビに見える。


 そんな風に和気あいあいと調理を進めていく俺達。


 俺とメアが切った具材を鍋に入れて火にかけ、煮込んでいる間に姫月と翔太はサラダの準備を進める。


 野菜は瑞々しいレタスやきゅうり、それにトマトといった定番の野菜からエビや卵などの食材まで様々な種類を使っており、盛り付けにも工夫が凝らされていた。更にはドレッシングも手作りという力の入れようで流石は姫月、盛り付けにもセンスの良さを感じる。


 一方で俺達が作っているカレーも順調に進んでおり、ルウを入れて溶かしてから少し経ち次第に良い匂いが漂ってきた。


周りの班はどうだろうかと実習室を見回すと……俺達のように和気あいあいと順調に料理を進める班や、予定通りに行かなかったのか調理に失敗して意気消沈している班、周囲の様子に目もくれずに黙々と作業を続けて淡々と料理を進めている班などなど。


 どこの班も調理は終盤でもうすぐ完成しそうな気配だった。


「なあ葵~。周りがわちゃわちゃし始める前に皿の用意とかして来て良いか? 遅くなるとちょうど良い皿とかなくなっちまうかもだしよ」

「ああ、それが良いな翔太。俺は鍋から離れられないし任せたぞ」


 そう言って翔太に皿運びを任せる事にしたのだが。


「あおいくん、わたしも手が空いているからお皿持ってくる」


 やる気に満ち溢れているメアも手伝いを名乗り出てくれた。こうして俺達の為に頑張ってくれる姿はとても微笑ましい。


「そうか、じゃあ頼むよ。翔太は多分カレーライスに使う大皿を持ってくるだろうから、雨宮はサラダやデザートを盛り付ける小皿を用意してくれないか?」

「うん、任せて」


 メアは柔らかく微笑むと翔太に続いて食器棚へと歩いていく。


 彼女の後ろ姿を見守りながら、後は持ってきた皿にご飯とカレーを盛り付けて、それをテーブルの上に並べれば完成――のはずだった。


 ちょうどメアが他の班の間を抜けていこうとした時、料理に集中し黙々と作業していたグループの男子が湯気の立つスープの入った鍋を持ち上げる。そして鍋を持った男子が振り向こうとした瞬間――彼は足をもつれさせてしまった。


 そう、ただでさえ熱された鍋を運んでいるというのに、彼は足元に注意を払っていなかった。


 バランスを崩した彼の手は持っていた鍋を放してしまい、それは宙を舞った。

 一瞬の出来事に何が起きたのか分からずメアは呆然と立ち尽くす。


「え?」


 次の瞬間、熱されたスープの入った鍋が勢い良くメアの顔に向かって飛んでいった。このままではメアが大火傷を負ってしまう。その光景を目にした俺が咄嵯に取った行動と言えば――。


 ガシャンッ! という大きな音を立てて鍋が落ちる。


 辺りには熱いスープが飛び散ってクラスメイト達の悲鳴が響いた。さっきまで鍋を持っていた男子も顔面蒼白になって尻餅をつく。


 だけどメアが火傷する事はなかった。だってそうだろう、異世界を救った勇者がすぐそこにいて、彼女を守らないはずがないじゃないか。


「あ、あおいくん……?」


 俺の胸に顔を埋めるように抱きしめられているメアは、恐る恐るといった様子で俺の名前を呼ぶ。きっと自分が今どういう状況になっているか分かっていないのかもしれない。周りで見ていた生徒達ですら何が起こったのか分からず、唖然として固まってしまっているのだから。


 俺はメアを守る為に勇者としての力を使った。身体中の細胞一つ一つに魔力を行き渡らせて、俺は爆発的な速度で動いたのだ。


 その速さは時間を置き去りにする程のもの。俺の世界では宙を舞う鍋は空中で静止し、立ち尽くしていたメアを庇うようにして抱き上げた俺は咄嗟にその場から距離を取った。


 そうしてようやく時間が動き出して皆が騒ぎ始めたのだ。床に落ちた鍋、こぼれたスープ、だが怪我人はいない。それを確認した後に俺は腕の中にいるメアを見下ろした。


 彼女が無事で良かった。その思いで胸がいっぱいになる。だが俺は今、勇者としての力を使ってしまった。今のでメアが俺の正体に気付いてしまったら……その不安が押し寄せてくる――だが。


「たゆ……あおい」


 柔らかな笑みを浮かべてメアはぎゅっと俺を抱きしめる。ありがとう、と異世界の言葉で感謝を口にして。


 彼女は気付かなかった。気付こうともしなかった。どうやって自分の事を助けたのかなんて些細な事だと感じるくらいに思えたのかもしれない。俺に助けられた事が嬉しくて、彼女は決して俺からその手を離さそうとはしなかった。


 それから少しして生徒達が落ち着きを取り戻した後、俺とメアは姫月と翔太の所に戻っていく。


 椅子に腰を下ろした後も、メアは俺の袖をぎゅっとつまんだまま離そうとしなかった。


 そんな俺とメアを心配して姫月と翔太が声をかけてくる。


「大丈夫だった、葵くん、雨宮さん?」

「びっくりしたぜ、急に鍋がひっくり返ってよ」


「ああ、雨宮は無事だ。良かったな、火傷しなくて」

「うん、あおいくんが助けてくれたおかげ」


 頬を赤く染めながらメアは青と翠の瞳で俺を見つめる。柔らかな笑みで、それでいてどこか恥ずかしそうにしている彼女を見て――俺は思わず顔を逸らしてしまった。


『あおいくん、かっこいい。大好き』


 クラスメイトの前でも異世界の言葉だからと平気でデレてくるメアを前にして、俺の心臓はバクバクと激しく脈打っていた。

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