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魔獣討伐依頼(3)

「幻獣が船を襲うとは考えにくいな……。退治したところで仲間が報復ほうふくにくることもないが」


 放っておけ、ってのがロアの意見だろうな。幻獣がいる水域すいいきけて航海すればいいだけの話だし。


「提案がある。その幻獣の対処、俺が引き受けてやってもいいぞ」


「えっ!?」


「ほ、本当ですか!?」


「ロア様が!?」


 僧侶たちがざわつく。

 俺も意外だった。ロアは古代エルフ族で高度な魔法の使い手。でも基本、人族のトラブルには関係ないって立ち位置だ。


 そんなロアが、自分から人族の土地でおきてるトラブルを解決することを提案してくるなんて。


「幻獣が街に近づかないようにすればいいのだろう?ならば魔法で近寄らないようにすればいい」

 

 確かに。魔獣を寄せ付けないが魔法あるね。

 川に張るとなると結構広範囲で大掛かりな魔法だけどロアならたぶんできる。



「その代わり条件がある」


 提案から条件とロアは淡々と話すけど、場の空気が凍ったのが部屋の外からでもわかった。

 ロアの条件の提案に注目が集まる。



「フィルを俺の故郷に連れていく」



 ——ん?


 ざわざわ。



「フィル?」


「フィルってさっきいた……」


 俺を知ってるノエルとノーキンのひそひそ声が聞こえる。


「まだそこに居るだろう?フィル」



「ふぃっ……!?」


「……しっ!!」


 俺を振り向き何か言おうとしたアルミラの口をふさぐ。



 バレてる。盗み聞きバレてるっ!

 アルミラの気配消しの魔法は完璧だ。もちろん俺の盗聴魔法も。



 アルミラを見ると顔面蒼白のまま固まっていた。大司教の部屋の話し合いを魔法使って盗み聞きしてたことがバレるのはまずい。


「アルミラはそこで待ってろ。動くなよ」


 魔法を使っていたのがバレているのはたぶんロアだけだ。

 アルミラに小声で言うと俺はドアを開けた。


「忘れ物して取りに来てさ。話し合い終わるの待って……」


「話は聞いていたな?」


 言い訳しようとしたらロアにさえぎられた。

 部屋を見回すと、ロアの提案の意図の方が気になって誰も盗み聞きの方は気にしてない。


「聞いてたけどなんで俺がロアの故郷に?」


 俺は言い訳はやめて話しを合わせた。

 ロアは貴族の爵位しゃくいを持つ珍しいエルフだ。北の土地に領地があるって前に聞いたことがある。


「前々からさそっていたろう。だがお前は面倒だと言って聞く耳を持たなかった」


「そうだっけ。あんまり覚えてないけど、北の土地って寒そうだし、楽しそうなイメージなかったから興味なかったかもな」


 みんなが不思議そうな顔で俺とロアのやり取りを見ている。


 顔見知り以外は俺がフィリエルだって知らない僧侶だから、ロアとタメ口で話すとはどういう関係だ?って視線が突き刺さってくる。


「シュトーレンに行く用事があるんじゃないのか。渡りに舟だろう?」


 え、なんでそれを……。って心臓がねあがったけど顔には出さなかった。


 そういやあれだけ魔力の強いロアが近くにくるまで俺は気づかなかった。

 さてはロア、俺らと同じように気配を隠す魔法と盗聴魔法を使って俺らの話しを聞いてたな。


 他の僧侶たちはロアの言った意味がわからず今度はいぶかる目をロアに向ける。


「えっと、俺は幻獣退治には参加しなくていいんだよな。ロアの故郷に行くだけで」


「ああ、そうだ」


 ロアの提案だと家出って感じじゃなくなるけど、シュトーレンやチェダールには行ける。

 

「自由にしていいなら……悪くない話だな」



「反対です!」


 びっくりした。

 急に大声で割り込んだのはノーキンだ。


「お言葉ながらロア様。フィルはラリエット教会の僧侶ではなく、今はラシール教会の僧侶。支部から依頼が来た今回の件にフィルは無関係です」


 ラリエット教会もラシール教会も似たようなものだろ。なにノーキンムキになってんだ。


「いくらロア様のご提案とはいえ、幻獣退治とフィルを引き換えなんて。そのような取り引きには応じられません」


「心配するな。フィルに我が故郷を見せたいだけだ。フィルは私の大事な弟子だからな。行く行かないは本人の意思に任せるつもりだが」


 弟子になった覚えはない。でも前々から誘われてはいたし、ちょっと行くくらいなら別にいい。どうせ北の方にいくならついでみたいなもんだ。

 俺は頭の中で一気にシュトーレン計画を組み立てた。

 うん。冒険者の同行者はクロスよりロアの方が都合がいい。



「ロア、故郷に行くだけで俺、帰ってこれるんだろ?そのままそこに住むことが条件とかじゃないよな?」


「帰りたければ帰ればいい、住みたければ住めばいい。お前次第だ」



 みんなが黙る。


「しかし、ウィンタル地方にはあの噂が……」


 ノーキンが小声で何か言いかけて口に手を当てた。


「あの噂?」


 俺が聞くと、ノーキンは俺から目をそらし首を横に振った。


「なんでもない……」


「じゃあこの教会で一番偉い人に決めてもらおうぜ。なあ、サントノーレじいちゃん!俺、シュトーレン行ってくるな?」


 微動びどうだにしなかったサントーレ大司教が俺の声にびくりと反応した。


「んごっ?……ああ……」


「ほら、いいって!」


 ナターシャはどこに、とブツブツ言って寝ぼけているじいちゃんを隠し俺はノーキンたちを見回す。


『アルミラ、決まりだ、シュトーレンに行くぞ』


 俺は部屋の外のアルミラに念話をとばした。





 

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