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奇跡のチーズケーキ(3)

「とりあえず食べてみるか、このチーズケーキ」


 ケーキを切り分け試食会。

 俺はまずテリーヌをフォークで切る。ねっとりとした手応てごたえ。断面になんもないし、わりと普通のチーズケーキ……って思ったけど!


 口に入れた瞬間。


 ものすごく濃厚でなめらかな口当たりに凝縮ぎょうしゅくされたチーズの味。すんごく優しい。今まで食べたチーズケーキの中で一番うんまい!



「チーズケーキにはミルクティーじゃのう」


 そう言って暖炉だんろから小鍋を持ってきたサンじいが、俺のティーカップに温かいミルクを注ぐ。


「ウィンタル地方の中心都市シュトーレンはここ王都より北の地にあってな。冬は雪が降り寒い地域じゃが、古い街並みが美しい所でのう。街中に古くて小さな教会もたくさんあって『白い美術館』とも呼ばれておる。ワシも機会があればまた行きたいと思っておるが中々忙しくてのう」


 サンじいが窓の外に思いをせる。



 窓の外は寒風かんぷうが吹いている。


 ぜる暖炉の火。

 温かいミルクティー。

 濃厚なチーズケーキ。



 古い街並みが美しい街か……。



「なあ、アルミラ。シュトーレンに行けばその三つ目のチーズケーキ食べれんの?」



「いえ、それはどうでしょう。シュトーレンの貴族でも三つ全部食べるのは難しいらしいですよ。今回二つも食べれるのは奇跡です」


 アルミラが苦笑する。



「ふふん。情報が古いわね、アルミラ。最近、シュトーレンの近くに色んなチーズが集まった街ができたのよ。正確に言うと街自体は前からあって、そこにチーズのお店が集結した感じね。確かチェダールって名前の街なんだけど、街中どこもかしこもチーズのお店でいっぱいなんですって。そこならもしかしたらフレッシュスノーチーズケーキがあるかもしれないわ」


「ジルヴァ、詳しいですね」


「当然よ、王都の貴族の娘の間じゃこの話で持ちきりだもの」


「え、ジルヴァって貴族の娘なのか!?」


「なによ、フィル。そんな驚くことじゃないでしょ。どっからどう見てもそうじゃない」


 見えないから驚いてるんだけども。

 貴族の娘は夜中に出歩いたりしないんだけども。まあ、西区域に住んでるって時点でちょっとは考えたけど。


「三人兄弟の末っ子なのよ。兄のどっちかが家継げば家は安泰あんたいだから、私はまあ冒険者にでもなろうかなって」



 貴族家の三男なら確かに冒険者とかになるって話しは聞いたことあるけど。末娘もそんな感じなのか?ジルヴァが男兄弟ってのはめちゃくちゃ納得。


「私の話はいいから、それよりチーズケーキよ。三つのチーズケーキを制覇せいはしたとなれば古代ドラゴン倒したなみに友達に自慢できるわ」


 三つのチーズケーキ制覇せいはと古代ドラゴン退治は評価の世界線が違うだろうというツッコミはさておき、北の街にチーズケーキ食べに行くってのは悪くない。


「そのシュトーレンって街はここから近いのか?」


「そうね、片道五日くらいかしら」


「え、それ徒歩?」


「馬に決まってるでしょ」


 うーん、ちょっと遠い。でもいいな。歴史ある北の街とチーズケーキ。行きたくなってきた。


「次の旅の目的地、シュトーレンでいいんじゃないかな。シュトーレンからチェダールに行って三つ目の奇跡のチーズケーキを制覇するってので」


「私も今それ言おうとした」


「じゃあ冒険の目的地はシュトーレンに決まりでいいな」


「賛成!」


 盛り上がる俺とジルヴァの横でアルミラが「ちょっと待ってください」と手を挙げる。


「なによ。アルミラは乗り気じゃないの?」


「いやそうではなくて……。旅の目的はいいとして、どうやって王都を出ますか?僕たちってFランク冒険者なので、出張するような依頼は受けられないんですよ……」


 俺とジルヴァが顔を見合わせる。



 ……確かに。忘れてた。



「旅行として行くなら僕たちの年齢では同伴してくれる庇護者ひごしゃが必要です。あ、いや冒険者でも庇護者は必要ですからそうなるとクロスさんに一緒に行ってもらわないと」


 クロスはダメだ。

 クロスは聖騎士、マリアンナ様の部下だ。

 俺たちの家出はクロスからマリアンナ様、マリアンナ様からネリルじいちゃんにって感じて筒抜けになる。


「俺じゃダメ?」


 俺、見た目若いけど実年齢十九だ。


「フィルが目覚めたことが世間に知れてもいいなら」


「あんたじゃダメよ。どっからどう見ても子供だもの」



 ……確かに。



 ちなみにジルヴァに俺の過去は話していない。そもそも本当の正体言ったところで知らないかも。


 四人で腕を組んで黙り込んだ。

 てか、サントーレ大司教が居るのすっかり忘れてた。こいつ後で口止めしとこ。

 秘密にするように神にちかわせよ。





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