99補給
デミ・ゴッドにより天界から人界へ転移した王国軍は消費した弾薬や軽油などを補充していた。
「弾薬、特に特殊弾の補給を急げ! 車両の給油も忘れるなよ」
「了解!」
兵站は重要である。
軍が戦闘を行う上で補給、輸送、整備、情報、管理が重要だ。
今回の天人戦争では補給に難があった。
特殊弾の製造は人界で行なっている為、資材運搬車に乗せている特殊弾が唯一の補給先である。
輸送に関してはデミ・ゴッドで行なっているため問題はない。
一方戦闘部隊は自分の使ったアサルトライフルを整備していた。
戦闘部隊は整備をしながらも圧倒的な力で天使達を圧倒した武勇伝話題で盛り上がっている。
しかし廊下の奥から足音が聞こえてくると皆黙り、黙々と作業をしている体を見せていた。
「しっかりやれよ。いくらガブリーラ女王陛下の援護があっても銃が動作不良起こしたら戦えないのだからな」
「了解であります」
「よろしい」
上官が部屋から姿を消し、足音が聞こえなくなると再び武勇伝を語り始めたのだった。
★
王城では参謀本部が天界の略地図を広げていた。
基本的にサーチ・アンド・デストロイがガブリーラの方針で参謀本部もそれに従って作戦を立てていた。
「やはり魔界も同じ作戦で行くのか?」
「ガブリーラ女王陛下のご意向だ。せざる負えないだろう?」
「たしかにな。デミ・ゴッドの力は強大だ。多少荒くても問題はなかろう」
「なんたって神の力だ。忌々しい天使、悪魔の力など道端の小石に過ぎん。誰の力でもかなうはずがない」
「嫌がらせもしてやろう。早朝進軍だ」
参謀本部は強大な力にものを言わせ進軍する作戦に決めたのだった。
ガブリーラもそれを聞き何も言わなかった。
その夜、ガブリーラは再び記者達を集めていた。
今回の目的は戦争のプロパガンダ映像を放映するためである。
収められていたビデオテープには天使達を寄せ付けない強力無慈悲な進軍、王宮を一瞬で破壊したシーンなどが写っていた。
それを見た記者や報道関係者からはどよめきが上がっていた。
もちろん一般家庭にも放映されている。
「私の率いる王国軍は彼の地にて強力的無慈悲に過去の侵略者達に鉄槌を下した。これで許されるか、否! 根絶やしだ! 1人残らず殺し過去の因縁に終止符を打つのだ」
記者達から拍手が起こる。
プロパガンダ映像は予定通り世論の誘導に成功したのであった。
ガブリーラは自室のベッドに戻ると腰を下ろした。
クスクスと笑い声が漏れる。
「ふふふ……。天使と悪魔共を根絶やしにして世界を手に入れる。世界は私の物。そこに存在する命ももちろん私の物。どう扱おうが私の勝手。神の力で私だけに従う従者を作り、私もまた人間を辞め不老不死に……。アハハハ!」
寝具に着替えるとそのまま眠りにつくのであった。
★
気配を殺し、王城東側に潜んでいたアリスは深夜侵入を試みた。
(深夜になりましたね。時間は2時。足音は……しない。開けてみますか)
ゆっくりとドアノブを回す。
しかし扉は押しても引いても開かなかった。
鍵がかかっているのだ。
アリスは力を込め無理やり扉を引っ張る。
蝶番が壊れる音が小さく響く。
「扉はここにおいておきましょう。人影は……無いですね。監視カメラの部類も無さそうですね」
アリスは王城に侵入すると、見つからないように魔力探知で兵士や侍女達を避けながら王城を探索する。
王城は車で移動するほどの広さが有り、入り組んだ作りになっている。
敵を玉座の間に簡単に通させない為だ。
そんな中を進むアリス。
魔力波探知には2人の魔力は引っかからないが、僅かに気分が高揚する。
(おそらく何かしらの聖遺物かそれに近いものがあるのでしょうか。そちらに行ってみましょう)
王城内を進むにつれて兵士や侍女が増えてきた。
魔力探知で鉢合わせしないように進むが、それには無理がある。
前方の曲がり角と後方の曲がり角から反応がある。
(挟まれましたか。この部屋には誰もいませんね。隠れさせてもらいましょうか)
アリスは薄暗い部屋に入り込む。
その部屋は埃が薄っすら積もっており、最近使われた様子がない倉庫のようだった。
念のため倉庫の奥に隠れていると魔力探知で探知した人がアリスの入った倉庫の前を通り過ぎていく。
完全に居なくなった事を確認した後倉庫から出る。
王城のさらに奥に進むほどアリスの高揚感は高くなっていた。
アリスは通路の先に大勢の反応を探知していた。
扉の小窓から覗くと、車両に給油や弾薬を載せている王国軍兵士の姿があった。
(……! 後ろの角から5人ほど来てますね。扉を出た先の天井は窪んで死角になっているので出るときに気を付ければ見つかりませんね)
見つかる前に扉を開け天井に張り付く。
身体強化やスーパーアリス状態である今の状態では容易である。
天井を進み反対側の通路まで移動すると魔力探知で人がいないか調べ扉を潜る。
足早にその場から離れると高揚感に続き体の発光現象まで起きたのだ。
何らかの神の力に近づいている証である。
更に奥に進むと警備が厳しくなってきた。
(この先に行きたいのですが……。警備が厳しいですね。それに見張りが居て通れませんね)
この先に何かあることは確かなのだが、何せ警備が厳重で通れそうにないのだ。
手頃な部屋に忍び込むと、隠れ思考する。
警備や人の出入りなどを魔力探知で確認し、侵入できるか思考するが隙がない。
更に奥には多数の反応もある。
1時間ほど様子を窺ていたが緩むどころか逆に厳しくなっていくのが分かった。
(これは待てば待つほど悪手ですね。一体どうすれば……。ん? 声が聞こえますね)
声がしたほうを向くと換気用のダクトが壁に備え付けられていた。
試しに格子を引っ張ってみると簡単に外れた。
アリスの体形であればダクトに入れる。
ダクトに入り込むと匍匐前進で前に進む。
どうやらこのダクトは目的の部屋の天井につながっているようだ。
この時点ですでに2時間は経過している。
目的の天井裏ダクトまで到着すると格子の間から部屋を見渡す。
銃を持った王国軍兵士達と巨大ゴーレムを整備する兵士の姿があった。
(あれがエルシアさんとファルトさんが捕らえられているゴーレムですか。大きいですね。それにあの魔方陣読めませんね)
アリスは様子を窺っていると、どこかで聞いた声が聞こえてきた。
それはガブリーラだった。
王国軍兵士達は敬礼で迎えている。
「デミ・ゴッドの整備は済んだかしら?」
「はい。薬品と栄養剤の補給、動作各部異常ありません。いつでもいけます」
「では魔界に攻め込みましょうか。各員に告げる。戦争の時間よ。目にものを見せてやりなさい! 転移開始!」
アリスは高揚感と共にこれはまずいと感じダクトの格子を叩き壊し飛び出した。
しかしそこにいた王国軍兵士とガブリーラ、ゴーレムも何処かへ消え去ってしまったのだった。
ガブリーラが来た時点で出ていれば間に合っていただろ。
「魔界、転移と言ってましたね。魔界に転移したのでしょう。また戻ってくるはず。ここで待たせてもらいましょうか」
アリスは堂々とど真ん中で待つことにしたのだった。
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