95運命が軋む時
エルシアとファルトを乗せたトラックはエデルガーデン港外の廃材施設前に止まった。
助手席から1人の男が出てくるとトラックの荷台を開けた。
中からは4人の男が出てくる。
その腕には麻袋が2つ抱えられていた。
廃材施設の扉を開けると中にはホームレスと思われる男女6人が屯していた。
トラックから降りてきた男たちは屯している男女に麻袋を投げつけるとそそくさと帰っていく。
その速さに呆気にとられた男女だったが麻袋を開けてみると中には片翼の2人が入っていた。
男女の中のひとりが奥にある地下への入口を通りレジスタンスエデルガーデン支部に入っていく。
「何!? 片翼が手に入っただと!?」
「はい。 変な奴らが投げ込んでいきました」
「変な奴ら? そいつらはどこに行った?」
「わかりません。片翼を投げ込んで追う暇もなく行ってしまいました」
ルーファスは考える。
これはレジスタンスに撒かれた餌なのかと。
(片翼2人の誘拐計画は立てていたことは確かだ。これを貰う貰わないと考えれば貰うに限る。だが一体誰が?)
「ルーファスさん?」
「ああ。その2人をこっちに運んでこい。新型に組み込む」
「はい」
2人は内部に運び込まれ早速ルビーの元へと運び込まれた。
ルビーは生で見る片翼に興奮していると、ルーファスに抑えられた。
まずは発信機や怪しい魔道具を持って居ないかのチェックである。
2人の服を脱がし、服は魔法で焼却する。
体には生活魔法のボディーカルテを実行する。
「なるほど。薬物で眠らされているんですねー。それは好都合ですー。麻酔の準備をお願いしますねー」
2人を体重計に乗せると、適切な量の薬を準備する。
それを2人に注射した。
そしてカプセルのような物の中に入れる。
「エントリーカプセル準備出来ました」
「気道確保。チューブ入れます。成功しましたマスク被せます」
「生理食塩水注水開始……完了」
「エントリーカプセルフルダイブ」
エルシアとファルトが入ったエントリーカプセルが機械の中に入り込む。
そして次の段階へシフトした。
「APU始動」
「主エネルギー炉禍津日ノ神起動シーケンス開始」
「魔法外部補助術八式対神格能力減退魔法起動」
魔法外部補助術八式対神格能力減退魔法が起動すると機械の体を覆うように魔法陣が展開された。
魔法陣からは神々しい光が発せられ漆黒の禍々しい鎖が穿たれた。
鎖は魔法陣を背面に固定させると機械の体が立ち上がる。
「魔法外部補助術八式対神格能力減退魔法起動完了。主エネルギー炉禍津日ノ神起動確認。すべて正常値です」
「ふふ。あはは! 遂に私はやりましたねー! これで技術革命が起きますよ! この軌跡の瞬間に立ち会えたことに感謝を! さあ、皆で仕上げと行きましょう!!」
「了解!」
ルビーがモニター室で計器を見る。
すべてが正常値になっていることをもう一度確認し指示を出す。
「各部動作確認」
機械に動作命令を出す。
腕が上がり、頭が左右に振られる。
「各部動作確認完了」
「各部異常なし」
「デミ・ゴッドの完成だよ!」
モニター室に拍手が上がった。
ルビーはそれを静めると次のテストに移った。
次は神力を使った魔法のテストである。
ファルトは龍神の神力を魔力に変換していたが、今回はそのまま神力で魔法を行使することである。
「次は神格防御魔法テスト」
「主エネルギー炉禍津日ノ神出力上昇。規定値以内です」
「リフレクション・フォールン発動します」
神代文字で構成された魔法陣がデミ・ゴッドを包む。
実験場に居る戦闘員10人がキャストブレイクをデミ・ゴッドに行使する。
しかし、デミ・ゴッドに付与されている神格魔法は定義破綻しなかった。
計器にもリフレクション・フォールンと魔法外部補助術八式対神格能力減退魔法に影響を及ぼす兆候は無かった。
「成功よ!」
「おおお!」
「やりましたね!」
「では次に神格攻撃魔法を試しましょうかー! ターゲットは……エデルガーデン憲兵署で良いですかねー」
「民間人まで巻き込むが大丈夫か?」
横で見ていたルーファスがルビーに聞く。
だが当たり前のように答え返した。
「技術の革命には犠牲は付き物ですよー。その程度超えられない時点で2流、いえ3流ですねえー! 目標エデルガーデン憲兵署! 神格攻撃魔法ミーティアライト照準合わせ!」
「神格攻撃魔法ミーティアライト照準合わせ開始。長距離照準システム起動確認。デミ・ゴッドとのリンク1番から5番まで接続。アンカー射出します」
廃材施設から30センチほどの筒が空に打ち上げられた。
空中でパラシュートが開くと中央が開きセンサーが露出する。
センサーは上空からエデルガーデン憲兵署をロックオンし、場所のデータを転送した。
「照準合わせ完了。いつでもいけます」
「ミーティアライト発動!」
センサーから送られてくる映像が突如光に包まれる。
そして遅れて衝撃波がアンカーを揺らす。
映像にノイズが入り不鮮明になる。
★
その日の夜、エデルガーデン憲兵署ではロビンからの通報があった片翼の捜索司令室が置かれていた。
何名もの熟練の憲兵達が司令室に集まっている。
「誘拐されたと見られる片翼の2人ですが、学園から10キロ程離れた裏路地にこの写真。とある高級ブランドのアクセサリーが破壊され捨てられていました。これは個人を識別する物で7月に発生した事件後に購入した物です」
ホワイトボードに壊れたアクセサリーの写真が貼られる。
それを見ていた憲兵の1人が声を出す。
「このブランドには識別機能が無い物とある物の2種類が売られているようだが犯人はそれを知っていて、わざわざ証拠となる物を破棄したのか?」
「おそらくそうでしょう。でなければわざわざ証拠を残さない。しかし、この商品は多少の破損では機能を停止しないように作られているのを知らなかったのだろう」
「やはりレジスタンスか?」
「いや、これは手際が良すぎる。もっと組織的な集団ではないか?」
「そんな集団どこに居る?」
憲兵達が悩む中、非常事態を知らせるサイレンが署内にけたたましく響き渡る。
エデルガーデン憲兵署に敷かれた高級魔道具イージスを起動させた。
防御魔法が署を包む。
憲兵が窓を開け、空を見ると神々しい光が降ってきた。
防御魔法はまるで紙細工の様に破壊され全てが光に消える。
光は車道や近隣のビルを巻き込みながら拡大していき突如光が衝撃波に変わった。
付近一帯の窓ガラスは全て割れ、街にガラスの破片が舞う。
外を歩くものは皆飛んできたガラスの破片で切り傷を負う。
そうしてエデルガーデン憲兵署は消滅したのであった。
★
「やった! やりましたねー! 成功ですよ大成功! 今の威力何パーセントですかー?」
「1パーセントです」
「たった1パーセントで憲兵が保有するイージスを砕くなんて最高ですねー!」
「ほう。1パーセントでこの威力か」
「おや~? フレドリックさんではないですかー。どうです私の最高傑作はー」
ルビーは子供のような目でフレドリックを見つめる。
それに答えるように見つめ返した。
「そうだな。これでこの国を変えられる。革命だ!」
「うおおおお!」
「レジスタンスバンザイ!」
「さあ! 進撃準備だ! 戦闘員に通達、剣を持ち王宮へと進軍するのだ!」
戦闘員50人がデミ・ゴッドのハンガーへと集まり、進撃の指示を待つ。
ハンガーにフレドリックの声が響き渡る。
デミ・ゴッドと戦闘員50人は技術的に不可能だった長距離転移で王宮のある都市アヴァロンへと転移する。
魔法陣が広がり一瞬で全員が消えたのだった。
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