94捨てられたアクセサリー
文化祭2日目昼休み。
アリス達は部室にて昼食を食べていた。
「エルシアさん帰ってきませんね」
「えるえる教室で食べてるのかな?」
「エルシア君は少しおっとりしてるからね。もしかするとファルト君と逢引してるんじゃないかな?」
「なかなかロマンチストですね。リンネ部長には彼氏とか居ないのですか? その眼鏡を取ればなかなかの美人なのですからモテるはずでは?」
「ふっ。オカルト研究部にいる時点で残念美女と言わざるを得ないと思わないかね?」
「……たしかにそうですね」
リンネは箸を握りしめ涙を流していた。
それを見て見ぬ振りをして流す。
そこにゲルトラウドがやってきた。
「お? アリス、ファルトしらねぇ?」
「教室に居ないのですか?」
「あぁ。さっき女子から手紙受け取って出て行ったきり帰ってこなくてよ~」
「女子?」
「そうだな。途中まで追いかけてたんだけどさぁ、道聞かれて案内してたら見失った」
「怪しいですね。ちょっとまっててください」
アリスは魔力波探知を行使し、場所の特定を開始する。
学園全体に魔力の網を張り巡らせるが反応がない。
更に探索範囲を広げ学園から1キロまで拡大する。
だがしかし反応はない。
「あれ? おかしいですね。アクセサリーの反応が……」
「アクセ? あぁ、エルシアとファルトに渡したっていうやつかぁ」
「そうですね。朝身につけているのを確認したのですが……。もう少し探索範囲広げてみます」
魔力波探知を2キロ、4キロ、10キロと広げやっと見つける。
それは学園からかなり遠く、家からも離れている場所だった。
流石におかしいと感じたアリスは昼食を切り上げるとゲルトラウドを風紀委員に向かわせることにした。
アリス自身は反応がある地点へと急行する。
「我の威を示せ、フィジカルブースト=リコネクト。我の威を示せ、フォースバーストエレメント=リコネクト。我の威を示せ、シュプリームフィジカルバースト!」
身体強化を掛け車道を車より早く走る。
2人の反応は動いていない。
12分程で反応のあった裏路地に到着した。
辺りを見渡すと物陰に光るものを見た。
近づいて見てみると、それは2人に渡したアクセサリーだった。
「これは……! 急いでお父さんに知らせないと! エルシアさん、ファルトさん。一体どこに行ってしまったのですか」
アリスは学園に戻らず家へと直帰する。
ルルは驚いていたがエルシアとファルトが連れ去られた事を伝えると更に驚いていた。
直ぐにアンソニーに連絡をしようと受話器を取る。
公共生活省執務室直通電話番号をダイヤルする。
数秒の呼び出し音の後電話が繋がった。
『はい、公共生活省代表アンソニーです』
「お父さん大変!」
『アリスか? 学園はどうしたんだい?』
「そんなことより聞いて! エルシアさんとファルトさんが誘拐されたの!」
『何だって!? それは本当か!?』
「はい。学園から約10キロの路地裏に私が渡したアクセサリーが壊されて捨てられていました」
『直ぐに調べさせる。アリスは学園に戻って裏取りをしてきてくれないか?』
「わかりました」
アリスは受話器を置くと、ルルに留守は気をつけるように言うと学園に戻る。
学園に戻り、ゲルトラウドを探す。
途中で生徒総会の副会長に話しかけられた。
「シルヒハッセさん。話しがあります。生徒会室まで来てください」
「はい」
生徒会室へ行くと生徒会長のロビンが待っていた。
「掛けたまえ」
「失礼します」
「A組生徒から片翼が行方不明になったと聞いた。校門の出入りを監視している風紀委員に聞いたが片翼の2人は出ていないと言う」
「しかしエルシアさんとファルトさんの身につけていたアクセサリーは外に落ちていました」
「出入り口は校門だけではない。搬入口がある。今日そこにはトラックが止まっていたようだ」
ロビンはそこから運び出されたのではないかと推測する。
推測するに当たっての理由として人通りが少ない、学園専属の業者しか来ないため警備が薄いなどの点が挙げられた。
そして決定的な証拠も提示した。
「普通の生徒には分からないほどの魔法が行使された痕跡があった。おそらく認識阻害の結界魔法だろう。業者に混じって曲者が入り込んだのだろうな」
「そこからどこに行ったのでしょうか……」
「分からない。今憲兵が調べている」
「そう言えばロビン生徒会長は憲兵の家でしたね」
「そうだ。これだけ早く憲兵を動かせるのは息子としての特権みたいなものだな。……ちょっと待て」
ロビンは片耳に着けているイヤホンから何か報告を聞いている。
聞き終わったのかプレスボタンを押し、返答していた。
「今報告があった。片翼の男子。1年のアーノルドの取り巻きが手紙をお渡したそうだ。本人は覚えがないようだが、取り調べをしてみればわかると思う」
「私も同伴しても?」
「どうぞ」
ロビンとアリスは生徒指導室へと移動するとそこにはいつか見たアーノルトの取り巻きの女子と風紀委員が机を挟んだ対面に座っていた。
ロビンが来たのを見た風紀委員が取り調べを始める。
「片翼の男子生徒、ファルト・ニールに手紙を渡したのは誘拐を煽動するためか?」
「そんなの知らないわ! なんで私が片翼なんかに手紙なんて送らなきゃいけないのよ!」
「だが手紙を預かった生徒は君が渡したと証言していたが? 君たちのグループは校内で何度も問題を起こしているそうだな。その度にアーノルドの親が圧力を掛けて黙らせているな」
「アーノルドさんは関係ないでしょ! 大体私はクラスで当番してたんだから行けるわけ無いでしょ!」
女子生徒はそう言いはるが風紀委員は更に追求を続ける。
他の風紀委員が収集した女子生徒の行動記録がある。
それを渡し女子生徒に空白の10分があることを示す。
だがそれを見ても反論するが、少し様子がおかしくなる。
「なにこれ? なんで私10分も教室から離れてるの? え? 私は何をしていたの?」
「何やら事情があるようだな」
「私知りません。この10分の事覚えが……記憶が無いのよ!」
「これはやられたな。ロビン生徒会長、この女子生徒は魔法によって操られていた可能性があります。しかも丁寧に記憶まで消して」
「その様だな。かなりの手練だ。おそらく学生では太刀打ち出来ない程の、な」
「それではエルシアさんとファルトさんは……」
アリスは拳を握る。
それを察したのかロビンは一言かける。
「学生では無理だが憲兵なら希望はあるだろ?」
「……今回は初動が早いです。私の時とは違う。きっと見つけてくれますよね?」
「約束するよ」
「ありがとうございます」
「本当は文化祭を行なっている場合ではないが、ここ立て続けに事件が学園で起きるのは世間体が悪いと複数の教員から言われてね。申し訳ないが文化祭はもう少し続く」
アリスはわかりましたと言うと生徒指導室を退室した。
部室に居たゲルトラウドにだけ事情を話し、残りの時間を憂鬱なまま過ごし夕方、教室、家庭科室、洋服などを片付けた。
そしてホームルーム。
「はい。文化祭2日目お疲れさまでした」
「せんせー、委員長はどうしたんですかー? 居ないみたいですけど」
「諸事情あって自宅に戻られてます。気にしないように」
一瞬アリスの事をシルフィーは見た。
察しろと言うことだろう。
ホームルームが終わりリュドミラが尋ねてくる。
「えるえるとファルトどうしちゃったの~? 体調不良~?」
「ええ。そんなところです」
「2人して体調不良なんて偶然もあるんだね~」
「リュドミラ帰ろうぜぇ~」
「うん~。アリスさんまた来週~」
アリスは2人のことをどう誤魔化すか悩む。
学園も事を荒立てたくないと言う方針である以上アリスの意見は多少は通るだろう。
帰る前に職員室に寄ってシルフィーに折れてもらうことにしたのだった。
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