89魔法創造と言う原理
次の日。
学園の授業が開始された。
そして現在、午後の授業は魔法基礎応用である。
「皆さん夏休みだからと言って魔法の練習をしていましたか? 魔法技術も日進月歩、たえず進んでいます。そして今日は魔法創造の授業です。教科書の38ページを開いてください」
全員が教科書を開く。
そのページには複雑な魔法陣や魔力操作のコツ、魔法書庫への一時的なインポートなど書かれていた。
「魔法とは一学期に教えた通り初唱から始まり魔法書庫を経由し、終唱で発動します。魔法創造でもこの流れは変わらずに通ります。魔法を行使する際必ず”我の威を示せ”と言いますが、魔法創造の始動キーではありません」
教員が魔法創造の仕組みを黒板へと書いていく。
「魔法創造では魔法書庫内の魔法を使わないため自分が創造する魔法の魔力消費量、精神的負荷、肉体的負荷も考えなければなりません。1つ間違えば自分の魔法で自分が怪我をすることになります。来週のこの時間で実際に魔法創造を行使してもらいます」
「げっ。そんなに早く思いつかないって」
1人の生徒が思わず呟く。
それに気がついたのか教員が答える。
「思いつかなかった生徒の為の練習用魔法もあるので心配いりません。しかし、練習用魔法とはいえ魔法創造なので舐めていると怪我をする事がありますが」
ファルトは魔法創造を成し遂げているが、それは八咫鏡を触媒に龍神の力を燃やす事で超高出力を得ている。
無闇に使う魔法ではない。
授業用に新しく魔法を創造するしかない。
(どうすっかな。八咫鏡使わない方法で劣化させるか。それなら授業には使えるな)
元々超高出力ゆえ上げるのは楽だが下げるのは慎重な調整が必要だ。
調整箇所を間違えれば魔力をあっという間に魔法に持ってかれる恐れがある。
(めんどくせー)
その後も授業は続き5限目が終わった。
次の授業は攻撃魔法の訓練だ。
エルシアは使えないのでファルトが受けることとなる。
「は~。眠いな……」
「ファルトさん、夏休みは終わっていますよ」
「分かってるけどさ、眠いものは眠い」
「なんだぁ? 実技で俺に負けるのが怖いんだろぉ?」
「は?」
「は?」
「2人とも~落ち着いて~」
リュドミラが仲裁に入るが既に遅い。
2人は完全に火が付いており次の攻撃魔法訓練で勝負をするようだ。
A組が魔法演習場に集まると既に教員が来ていた。
「よし! 集まったな。今日は攻撃魔法の実技の時間だ。向こうにある魔法で強化された的に攻撃魔法を放て。種類は何でも良いぞ、的に当てさえすれば数値が出る。それが今の実力の目安として使え」
クラスメイト達は7つの的に並ぶと各々の得意魔法で的に向かって攻撃魔法を放ち始めた。
ファルトとゲルトラウドはお互い同時に出来るように違う列に並んでいた。
エルシアは端で待機している。
暇と言えば暇であるが、怪我人が出た時の応急手当をするポジションである。
教員も応急手当ては出来るが、複数人怪我人が出た場合のみエルシアは動く。
「暇だなぁ~。私も攻撃魔法使えたら良かったのに。一応エモート防御魔法で攻撃は出来るけど」
そんなエルシアの事はお構いなしにファルトとゲルトラウドの勝負は始まろうとしていた。
お互いの最強の魔法で勝負をつけるのだ。
その点ファルトには有利であった。
5限目の授業中に魔法創造の調整を行なっていたのだ。
サボりは否めないが今役に立つ時が来たのだ。
「よっしゃぁ! 行かせてもらうぜ! 我の威を示せ、アイスエレメント=リコネクト、我の威を示せ、コキュートス!」
的は一瞬で凍りつき数値が表示される。
ゲルトラウドが出した数値は上限最大1000中756だった。
隣を見るとファルトも詠唱を始めていた。
「壊れなければ良いが……。我の威を示せ、イノセンスアビリティ=リコネクト。我の威を示せ、アントニムビースト=リコネクト。我の威を示せ! ビーストフォームアクティベート!」
「前見たやつかぁ! だがそれで俺に勝てるかなぁ~?」
ゲルトラウドは調子に乗っているが、ファルトの次の一言で度肝を抜かれる。
「リロード。ビーストフォームアクティベート!」
「何ぃ!? まさか魔法創造だと!?」
「ディスチャージ。イノセンスアビリティ、アントニムビースト!」
「な、ななな、なぁ!?」
「インパクト。龍偽神降臨」
ファルトの体から魔力が溢れ出る。
それは他の生徒、教員にもビリビリと体で感じるほどだ。
その異常さに教員は直ぐに止めようとしたが、ファルトの方が早かった。
「我の威を示せ、キャスト――」
「ドラコスペル、龍惶砲撃!」」
的に向かって魔砲が放たれた。
着弾するとプラズマを発生させながら大爆発を起こした。
シルヒハッセ邸で使った時とは威力に差はあるが、魔法の調整が甘かったのか魔力切れを起こしてしまった。
当然のごとく金属製の的は融解し壊れてしまった。
周りへの被害は端で見ていたエルシアが咄嗟に防御魔法で防いでいた。
「ふう。俺の勝ちだ……」
ファルトに拳骨が落ちる。
「こら! ニール! 何が勝ちだ。的が壊れたじゃないか! やりすぎだ。手加減を知らんのか」
「いってえ……。実力を知るために全力を出したまでだが、何かいけなかったか?」
「……確かにそれはそうだ……。壊れるとは思ってなかった……。俺の給料大丈夫か……?」
「とりあえず……魔力の回復をしないとな……」
「な、ななな、なぁ!」
「ゲルトラウドが壊れてる~。おもしろ~い」
リュドミラに笑われながらゲルトラウドはファルトに近づく。
「お、お前さっきの授業聞いてもう作ったのか……?」
「ああ。夏休み中に作ってたんだ。すまんな。ハハハ」
「く、くそぅ……今回は負けたが次は負けないぞ!」
「俺の本気を出させてみろよ」
備品が1つ壊れたが全員計測が終わり6限が終わった。
教室に戻りしばらくするとシルフィーが教室に来た。
ホームルームが始まり注意事項だけ説明されると、シルフィーはそそくさと教室から出ていってしまった。
「今回の担任。グルルト先生と比べて暗いよねー。根暗なのかな?」
「そうなんじゃね?」
「いやいや、グルルトがハイテンション過ぎて俺たちおかしくなってるって!」
「それもそっかー」
などとクラスメイトが口々に言っている。
エルシア自身も今の担任はどこかやる気がなさそうとはおもっているのだが。
「うーん。帰ろうか」
「その前に学級日誌だすんだろ?」
「そうだった。みらみらとゲルトラウドじゃあね~」
「えるえるまた明日~」
「おぅ! また明日な!」
エルシアの挨拶を返すと2人は教室から出ていった。
教室にはまだクラスメイトが残っている。
その間に学級日誌に今日のことを記入していく。
「ファルトが備品を破壊っと」
「おい! なんか俺が悪いことしたみたいになってんじゃねえか!」
「ファルトが思わず備品を破壊」
「……さっきよりマシになったな」
「お二人共仲がいいですね」
学級日誌を書き終えると教室にはエルシア、ファルト、アリスだけの3人だけになっていた。
3人は廊下に出ると教室の鍵を締める。
「じゃあ、アリスちゃんいつもの場所でいい?」
「ええ。大丈夫です。今日は早く来てくださいね?」
「分かってるって! じゃ、行ってくる!」
「おい! 廊下は走るな!」
そういうファルトも走ってエルシアを追いかけていく。
その背中を微笑ましく見ていたアリスだった。
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