88二学期始め
夏休みは終わり新学期が始まった。
この後始業式が控えている。
「夏休み色々あったな」
「あったねー」
「濃い夏休みでした。」
エルシア達が話しているとリュドミラとゲルトラウドが登校してきた。
3人を見るやいなや声を掛けてくる。
「おっす! 久しぶりだな」
「久しぶり~」
「お二人共登校が遅いですよ。もうホームルームが始まります」
「久しぶりの登校で寝坊しちまってよぉ」
「私も~」
「貴方達……」
話していると教員が入ってきた。
いつもどおりハイテンションのグルルト……ではなく、違う教員だった。
どういうことかと思いながら席に着く。
「えー。新任のシルフィー・レモードです。前任のグルルト先生は家の都合で退職なされました。今学期から私が担当させてもらいます。よろしくおねがいします」
「レモせんせー、家の事情ってなんですかー」
「詳しくはしりません。体育館で始業式があるので移動してください」
「えー! 教えて下さいよー」
女子生徒が食い下がる。
だがシルフィーはそれを受け流し、教室から出ていった。
グルルトとは対照的でテンションは低めだ。
体育館に移動すると既に他のクラスは来ていた。
A組全員が体育館に揃うと始業式が始まった。
そして相変わらず学園長は姿を見せず、副学園長が挨拶をした。
その次に生徒指導の教員からの新学期にあたっての指導が行われた。
始業式が終わり、全クラスが教室に戻ると改めてホームルームが始まった。
エルシア達も新しい教員との距離を図りながらホームルームを受けていた。
「明日から授業が始まります。教科書を忘れないように注意してください」
「小学生じゃないんだからわすれねーよ!」
「そうですね。では1ヶ月後に控えた文化祭について話し合いましょう」
「文化祭キター!」
「私この学園の文化祭に惚れて入ったのよね」
「ワクワクしてきたぞ!」
「静かに。このクラスで文化祭に何を出すか多数決を取りましょう。委員長、よろしくおねがいします」
エルシアとファルトが黒板の前に立つ。
ファルトが板書、エルシアは司会だ。
「文化祭で出したい出し物を決めます! 案がある人は挙手してください!」
「はい! メイド喫茶が良いと思います!」
「メイド喫茶っと」
男子の発言に女子からブーイングが上がった。
提案した本人はなんのその。
女子は対案として執事喫茶を提案したのだった。
「執事喫茶っと」
「他にありますか?」
「……クレープ」
「クレープっと」
出たのはその3案だった。
次に決を取る。
「メイド喫茶がいい人は挙手してください」
男子生徒の大半が手を挙げる。
一部女子も混ざっているようだ。
「執事喫茶がいい人」
今度は女子から手が挙がる。
「クレープがいい人」
案を出した本人だけが手を上げた。
ファルトは黒板に書かれた案に赤色チョークで丸を付けた。
選ばれたのはメイド喫茶だった。
「女子の中に裏切り者がいるわ!」
「やっぱりメイドなんだよなぁ~」
「私……メイド服着てみたかったの」
「裏切り者~!」
「ではメイド喫茶に決まりました」
無事? メイド喫茶になり男子生徒達は大いに歓声を上げた。
「ではメイド服のレンタル数は何着にしますか?」
「10着でいいんじゃね? Mサイズの」
「それは駄目! Lサイズ10着も用意して! 男子にも着させるの!」
「はぁ!? お前何言ってんだ!? メイド服は女子が来てこその服だぞ!」
「それだけじゃ悔しいの! 男子にも同じ恥ずかしさ味わってもらうんだから!」
「メイド服Mサイズ10着、Lサイズ10着っと」
出し物が決まり次は飲食に関してだ。
飲食に関しては保健所に申請をする必要がある。
「飲食の提供は何にしますか?」
「メイドったらやっぱりオムライスだろ!」
「オムライスっと」
「簡単なジャガバターとかどうだ?」
「じゃがバターっと」
「ポテトとカレーライスもどうだ!」
ここでシルフィーが口を挟んだ。
まだ季節的には夏で暑い時期なのでジャガイモをカレーに入れたのでは一日持たないのだ。
カレーにはジャガイモを抜いた素材で作るようにとシルフィーから指導があった。
「焼きそば!」
「ポテト、カレーライス、焼きそばっと」
「飲み物はオレンジジュースとかコーラが良いと思う」
「アイスコーヒーもいいわね」
「オレンジジュース、コーラ、コーヒーっと」
ここでチャイムが鳴った。
今日のホームルームはここまでとシルフィーが言う。
「委員長、黒板の内容をまとめて私の机に提出しに来てください。ああ、そうだ。夏休み前にグルルト先生から渡された書類も提出するように。じゃ、帰って良いですよ」
「はい。皆かいさーん!」
それだけ言うと出ていってしまった。
エルシアは学級日誌に文化祭の出し物をまとめる。
全員が出ていったことを確認すると教室の鍵を閉めた。
アリスには校門で待ってもらうことにしたのだった。
「失礼します」
エルシアとファルトはそう言いながら職員室へ入った。
辺りを見渡しシルフィーを探し出し元へ行く。
エルシアが持ってきた学級日誌と生徒総会資料を差し出した。
学級日誌と生徒総会資料に目を通す。
「うん、大丈夫。学級日誌と生徒総会資料は預かります。下校は気をつけて帰ってください」
「はい。失礼します」
頭を下げるとシルフィーの元を後にする。
「失礼しました」
職員室を出ると校門へと向かう。
夏休み前のグルルトよりかは時間がかかっていないが、なるべく急ぐ。
だが職員室近くに有る談話室からノイズ掛かった声が聞こえてきた。
「ん?誰か話してるね~。しかも認識阻害の結界まで張って~。ここをこうして~」
「おい、エルシア。お前何してんだ?」
「ん~? 結界弄ってる~。……よし! これで聞こえるはず!」
エルシアが結界を弄り終えると中から声が鮮明に聞こえてきた。
「それでグルルト先生はレジスタンスの協力者だったのですか?」
「はい。夏休みの間に起きたアリス・シルヒハッセ誘拐、傷害事件で使われたオートマタに学校の個人情報を横流ししていました。とかげの尻尾切りでしょうね。殺されていたのは」
「この事が生徒に漏れれば保護者からの追求を受けるでしょう。学園長の事は何かわかりましたか?」
「はい。家の中を調べたところカーペットの裏から拭き取られた大量の血痕の反応が有りました。遺体は見つかっていませんが、あの出血量では確実に死んでいます。それと何かを持ち去った形跡も有りました」
ガタっと扉に足が当たってしまった。
談話室からは声が上がった。
「誰だ!」
「やっべ!」
「ど、どどど、どうしよう!?」
「この声は……」
扉が開かれ、狼狽しているエルシアとファルトの姿があった。
「あはは……。もしかして聞いちゃいけないやつだったかな~?」
「エルシアさんとファルトさん。結界を弄りましたね? ここで聞いたことは誰にも言わないでくださいね」
副学園長の顔は笑顔だが、背中に冷や汗が流れる。
「わ、わかりました……」
「わかった……」
談話室を離れ校門へと行く。
アリスは待ちくたびれたと言わんばかりに2人に詰め寄ってきた。
学級日誌と生徒総会資料の提出は早く終わったがその後が長かったのだ。
それを言うことは出来ず適当にごまかすのであった。
「まったく。それでは帰りましょうか」
「ああ」
「お腹へったー!」
「食い意地ばっかりだな」
エルシア達3人は帰り道にスイーツ店に寄って帰ったのだった。
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