87アリスとの手合わせ
アリスは小手調べに魔法による身体強化を使わずにファルトへと迫る。
ここで1つ予想外だったことが起きた。
八咫鏡の影響により強化されたスーパーアリスだったがそれは適切な表現ではない。
言うなればハイパーアリスだった。
「うお! 早――」
「せい!」
ファルトはアリスの正拳突きを防ぐことが出来ずまともに受けてしまった。
体制が崩れよろけた所に足払いが素早く入れられた。
完全に倒れる直前にファルトも体を捻り、回し蹴りをアリスへと繰り出す。
反射神経も強化されているのかそれを容易く受け止めると、体格では上のファルトを投げ飛ばしたのだ。
受け身を取りつつ起き上がると、再びアリスが向かってくる。
同じ失敗はしないように高速で詠唱を済ませる。
使う魔法は身体強化だ。
「我の威を示せ、アルティメットフィジカルブースト!」
「それで私の姿を追えますか? ギアを上げさせていただきます!」
「おいおい、まじかよっ!」
魔法により身体強化されたファルトを生身で軽々と凌駕する。
アリスの連撃を防ぐが、どうしても防げない打拳が有り、体にダメージが蓄積していく。
この状態をどうにかすべくファルトは攻撃魔法を近距離で炸裂させることだった。
「我の威を示せ、ファイアボルト!」
比較的小さな爆発が起こりアリスは後ろに飛び退く。
そして完全に近距離で爆発した攻撃魔法によりファルトはダメージを受けていた。
「まじかよ! 超人じゃねーか!」
「ここからは魔法も使わせていただきますよ」
「ウッソだろお前!」
「我の威を示せ、フィジカルブースト=リコネクト。我の威を示せ、フォースバーストエレメント=リコネクト。我の威を示せ、シュプリームフィジカルバースト!」
「ヤバ! 八咫鏡!」
ファルトの正面に八咫鏡が回り込み光を放った。
アリスはそのまま踵落としを仕掛けてくるが、身体強化をしている状態は悪意ある魔法に該当したのか、アリスは踵落としの威力がそのまま反射され壁際まで吹き飛んでいった。
「あっぶね……」
「……やられましたね。八咫鏡にそんな能力があるなんて」
「だよな。あれだけで沈むわけないよな……。どうすれば良いんだ……」
「それがいつまで発動させ続けられるか試させてもらいますよ!」
アリスはそう言うと魔法を解除せず殴りかかってくる。
殴れば殴るほどアリスは吹き飛ぶ。
だが徐々にアリスの吹き飛ぶ距離が短くなっている。
(もしかしてアリスのやつ八咫鏡の効果範囲を見定めてるだと!? なんてタフネス!)
顔が引き攣っていたのかアリスが微笑む。
ピタリとアリスの拳が八咫鏡の目の前で止まる。
「ここですね」
「っ!!」
「さて、私はいつでも攻撃出来ます。いつまで持ちますかね?」
(……正直魔力がキツイ。八咫鏡は燃費が悪すぎる)
八咫鏡から光が消え待機状態へと移行する。
それを見たアリスは攻撃を再開した。
「迷ってる場合じゃねえ! 我の威を示せ、イノセンスアビリティ=リコネクト。我の威を示せ、アントニムビースト=リコネクト。我の威を示せ! ビーストフォームアクティベート!」
魔法によりファルトのギアが1段上がった。
ファルトが持つ現在最強の魔法である。
しかしアリスにはまだ再接続の攻撃魔法、カドルエレメントフォームが残っているのだ。
「チートも良いところだなあ! オラア!」
魔力の爪とアリスの拳がぶつかり合う。
ビリビリと大気が震える。
均衡を破ったのはアリスだった。
ファルトの魔力の爪を砕きながらアリスの拳がファルトへと打ち込まれる。
「ぐはっ!」
今度はファルトが壁際まで吹き飛ばされる。
受け身を取ることが出来ず転がりながら無様に地面に這いつくばる。
「終わりですかね。今回復魔法を掛けますよ」
「……まだだ!」
「ファルトさん、負けを認めることもあるのですよ。勇気と無謀を履き違える事は無いのです」
「へっ! どうせアリスのカドルエレメントフォームには勝てないんだ。どうせならそれを引き出させて負けてやる!」
「……良いでしょう。その覚悟受け取りました」
ファルトは立ち上がると魔法を詠唱する。
「こいつはエルシアだけにつらい思いをしてほしくない思いから開発した魔法だ。そう簡単に打ち破れると思うなよ! リロード! ビーストフォームアクティベート!」
ビーストフォームアクティベートを魔法構築前に戻す。
更に新たな魔法を発動させる。
「ディスチャージ! イノセンスアビリティ、アントニムビースト!」
「一体何を……」
「インパクト! うおおおおおおぉぉぉぉ! 龍神降臨!」
「!! 我の威を示せ、ライトニングバーストエレメント=リコネクト。我の威を示せ、エレクトロン=リコネクト。我の威を示せ、カドルエレメントフォーム!」
八咫鏡を触媒に龍神の力を燃やす。
そしてそこから発生する膨大な魔力を自身の体に宿らせる
龍神降臨とはその名の通り疑似的に龍神の力を下ろすのだ。
古来より森羅万象に神は宿ると言われ人もその例外ではない。
「う、ぐ、おおおおおお! ドラコスペル、龍惶砲撃!」
究極まで圧縮された魔力が攻勢の向きを持ち放たれた。
アリスはカドルエレメントフォームを維持出来るだけの魔力を残し、全魔力を拳に込めた。
2つの魔法が衝突した瞬間、衝撃波によりトレーニング施設は崩壊し、周囲に轟音が轟いた。
苦しい表情を浮かべつつ、ファルトが放った攻撃魔法をどう反らすか考えていた。
この瞬間にも魔力で保護されているはずの拳から血が迸る。
「くっ! はあああぁぁぁ!」
なんとか崩れたトレーニング施設の上空にパリングすることが出来た。
パリングされたそれは上空300メートルで魔力爆発を起こし次元を歪曲させながら消滅していった。
「はぁはぁ。さすがファルトさんです。あの状態の私に手傷を負わせるなんて」
アリスの拳から肩にかけて裂傷が走っていた。
ファルトはと言うと満身創痍で倒れていたのだった。
回復魔法を自分に掛けているとトレーニング施設の入り口だった場所からエルシア、ルル、ロナルドが驚いた顔を見せていた。
「ちょ、ちょっと! アリス何をしたの!?」
「ファルト大丈夫!?」
「アリスや。もしかして手合わせしてたのかい? それにしてもちょっとやりすぎだよ」
エルシアは直ぐにファルトへ回復魔法を掛ける。
傷はたちまち癒えて行き目を覚ます。
「う……ぐ……。ああ、俺は負けたのか……わかっていたけど悔しいな」
「2人とも! 話があります。そこに正座しなさい」
「……はい」
「わかった……」
アリスとファルトがルルに怒られている中近所からは大勢何があったのかシルヒハッセ邸へと見に来ていた。
更には轟音により憲兵まで出勤する始末となっていた。
「……なるほど。個人間同意の手合わせでこうなったと。何者かに爆破されたのではなくて」
「はい。申し訳有りません。うちの子がやりました」
「ご近所さんから苦情来てるからほどほどにしてくださいよ」
「はい。金輪際こんな事をさせません。厳重に注意させていただきます」
「気をつけてくださいよ。では失礼します」
そう言うと憲兵は帰っていった。
そしてルルは崩れ去ったトレーニング施設を見ながら呟いた。
「今月の生活費抑えないと……」
それだけが風にのって消えていったのだった。
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