85八咫鏡
2人は時計塔の下、黒い扉の前に立っていた。
「ここか。さて何が一体待ち受けてるのやら」
「いざ! たんけーん!」
ファルトがドアノブを触った瞬間、バチっと火花が飛んだ。
思わず手を引っ込めてしまった。
「な、なんだ?」
「今火花飛んだよ!?」
痛みはなかった為もう一度触ってみるとやはり火花が飛び弾かれる。
再度身体強化を限界まで使った状態で無理やりこじ開けようとしたファルトだったが、黒い扉はピクリともせず入る者を拒んでいた。
「あかねーな」
「なんで封印されてるんだろうねー」
「封印か……どうにかして解除できないか?」
「うーん。結界魔法の部類だから解除できるかやってみるね。我の威を示せ! アン・シィーマ・バンダ!」
エルシアが行使した結界魔法は封印されている扉に作用するどころか跳ね返ってきたのだ。
それに驚き一歩後退する。
「び、びっくりした……。ファルト、攻撃魔法はダメだよ」
「ああ、今ので分かった。こいつは物理、魔法的にも受け付けないってことだな」
「どうしよっか」
「何かヒントがないか調べてみよう」
2人は辺りを調べ始める。
二手に分かれ10分程時計塔の周りを探したが何も見つからなかった。
成果も無く2人は黒い扉の前に戻ってきていた。
「なんもねー」
「暑いー」
「暑い言うな……。俺まで暑くなる」
「そうだ! 氷属性の魔法で涼もう! 我の威を示せ、フリーズ」
エルシアは探すのを完全に辞め黒い扉の前で完全に涼んでいた。
そんな中ファルトは何かヒントがないか探し回っている。
「ふい~。涼しいー」
「おい、エルシアも手伝えよ」
「えー、あと少し休憩させ――ひゃわ!?」
生活魔法のフリーズで涼んでいた時だった。
ふと黒い扉に寄りかかってしまった。
その時首元に冷たい水滴がついたのだ。
思わず黒い扉へ振り返ると扉の一部が結露していた。
「ファルト! これって!」
「なんだなんだ? ……これ鏡か。黒いから気が付かなかったぜ」
「しかも文字になってるよ。何々? 神の加護を示せ、さすれば扉は開かれん?」
「髪の加護?」
「髪じゃなくて神じゃない?」
「ボケただけだよ。それにしてもどうやって示せばいいんだ?」
2人は悩んだ結果神の権能を使い、あらゆる奇跡を起こす神の使い渡守を呼ぶ魔法を行使することにした。
「我らの威を世界の軛から解き放て」
「呼び奉る神威御霊」
だが魔法は発動せず門も現れない。
当然のことながら黒い扉も何も変化がない。
「なんで発動しないんだ?」
「なんでだろー。この異空間と関係あるのかな」
ああだこうだと話し合うこと15分。
一向に問題は解決せずに時間だけが過ぎていく。
ここでファルトが不意に思い出した。
「おい、エルシア。お前って確かなんとか様の加護受けてるって言ってたよな?」
「うん。あっ!」
エルシアも思い出したのか、早速浄化の聖歌を行使することにした。
「〈聖なる言霊よ、我が歌を以って浄化の聖歌となれ。私は貴方の悲しみを感じ、大切なあなたを救いたい。穢れし魂よ、原初の海へとおかえりなさい。そして全てに救いを与えられん〉」
聖歌が黒い扉に掛かると眩い光を放つ。
2人が手を目の前からどけると黒い扉はどこかに消え、下へと下る階段が姿を表していた。
それと同時に今まで黒い扉で封じられていたのか最近発生していた巨大な魔力爆発より大きな魔力が階段下から放たれる。
流石にそれを浴びた2人は気分を悪くしてしまう。
「吐きそう……」
「これは……魔力酔いか……」
滅多に無いことだが魔道具などの道具や巨大魔法の行使時に魔力に当てられる事がある。
この状態になると吐き気や多汗、寒気などが身体症状に出てくるのだ。
原因となった発生源から遠ざかれば治る為あまり気にされる事はないが、今回2人が直面している状態では直ぐには離れる事はできない。
魔力酔いは当たっている時間が長いほど症状が進行する。
長く居れば居るほど身体症状は顕著に出る。
「行くぞ」
「うん」
2人は手を握り階段を下っていく。
1分ほど下ると広間があった。
その中心には暗くてよくわからないが、何か丸い物が置かれていた。
「我の威を示せ、ライト」
ファルトが生活魔法のライトを使う。
だが魔力が濃すぎるのか身体症状が進行しているのかわからないが、ライトの生活魔法の光量が安定しなかった。
今にも切れそうな電球状態だ。
「これは鏡? どうして鏡がここに?」
「――」
「お、おい、エルシアどうした?」
エルシアはフラフラと体を揺らしながら鏡へと歩み寄っていく。
尋常じゃない姿から手を離してしまう。
そしてエルシアは鏡に手をかけた。
「……」
「……エルシアどうした?」
「神の加護を受けたのは人ではなく天使、いやハーフだったか」
「っ! お前誰だ! エルシアじゃないな!」
ファルトが声を上げる。
すると鏡を抱えたエルシアが振り返った。
「心配されるな。今この娘の体を借りているだけです。お主にもこの世界とこの場の説明が必要でしょう?」
「それはそうだが……」
「とりあえず名乗っておこうか。私は**。*****と呼ばれている」
「なんだって?」
「そうか。君は加護を受けてないんだね。では君には私から加護を授けよう」
「うっ!?」
立ち眩みを覚えたがそれは一瞬だけのこと。
瞬時に治っていた。
それどころか魔力酔いまで治っているのだ。
「一体何が……」
「お主に加護を授けた。これで私の名前も認識できるでしょう。私の名前は天照。天照大御神と呼ばれている」
「神……か。それで、神が俺に何を?」
「お主に授けた加護は八咫鏡。すべての悪意ある魔法を反射する加護よ。伊邪那岐の様な加護を与えられませんがこの程度ならお主に授けられるというもの」
天照はこの程度と言ったがファルトにとっては弱点だった防御面の無さが克服されるものだった。
しかし天照はこうも言った。
「八咫鏡はその性質上魔力を大量に消費する加護である。場を見極めて行使しなさい」
「わかった」
「では本題に移ろうか。まずはこの世界の事よ」
話が本題に入った所で天照が指を鳴らした。
すると部屋の中がまるで太陽が差し込んでいるかのように明るくなったのだ。
ファルトは生活魔法のライトを解除する。
「この世界は高天原の一部、神の住まう世界。町並みはすべて人間の想像が生み出した幻の姿。わかりやすく説明したんだけど、分かったかな?」
「今まで見ていた物はすべて幻だって言うのか? だが食べ物は味もあったし腹も膨れたぞ?」
「お主は食べ物を食べたらどうなるか想像したことはあるか? 答えてみなさい」
「いや、当たり前すぎて想像したことないが食べたら腹が膨れるだろ」
「自分が言っていることに気が付かない? そう想像したことが反映される世界なんだよ」
「めちゃくちゃだな」
天照が説明するこの世界は人が想像するものはすべてあるということだ。
まだ聞きたいこともある。
この世界での精神体の加齢速度だ。
それのせいで何人もの人間が命を落としている。
「聞きたいんだが、なんでこの世界だと人はとんでもない速さで精神体が加齢するんだ?」
「その事か。人間はこの世界に適応できない。適応できない生物は死ぬ。それだけの事だよ」
「それだけの事? お前! 神だろ、望んでやってきた訳じゃない人を助けなかったのか?」
「私はその……んで」
「なんだって?」
「だからその……たんで……」
肝心なところが声が小さく聞き取れない。
ファルトはもう一度聞き返した。
「だから何だって!?」
「私は! 外に出るのが怖いから引きこもってたのよ!」
「……は?」
その言葉に呆気にとられたのであった。
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