84深部へ
ファルトが風呂から上がるとエルシアが少し早い夕食の準備をしていた。
夏場はじゃがいもの足が早いため昼と夜の分しか作っていなかったため量は少ない。
はずだった。
「ファルト~ご飯だよ~」
「おう。ん? 肉じゃがのスープ増えてないか?」
パット見でも量が多いことがわかる。
ハッと頭が回り直ぐに肉じゃがの味見をする。
「ブッ!?」
案の定エルシアは肉じゃがにも黒胡椒を入れていた。
しかも鍋に。
自分のに入れるのならば良いが元に入れている辺りエルシアには悪気があって入れているわけではない。
だが食べさせられる身にもなってほしいとファルトは心の中でこぼしたのだった。
「いただきまーす!」
「……いただきます」
お茶を手前に持ってくると肉じゃがを一気に口の中に入れ、スープもそのまま飲み干す。
そしてお茶を直様飲む。
辛味は一瞬で済んだが主食が無くなってしまった。
残るは白米とトマトの半カットだけになった。
「ファルト、一気に食べるとお腹いっぱいにならないよ~。よく噛んでたべるんだよ」
「(誰のせいだ誰の)はいはい」
あっという間に終わってしまった夕食に味気なさを感じつつ地図と向き合っていた。
エルシアが食器を洗っている途中、巨大な魔力爆発が発生したのだ。
ファルトは直ぐに赤ペンで地図に丸を付ける。
丸を付けた場所は先程鉛筆で予測円を書いた中だった。
「よし、次はこの辺だな。まだまだ時間はある。じっくり分析していこう」
地図を畳み自室へと戻った。
いつでも巨大な魔力爆発が起こっても良いように寝てる最中にも魔力波探知を発動させっぱなしにする。
これはとても難しい魔法技術だが、この際難しいから出来ないとは言ってられない。
ファルトはカーテンを閉めベッドのサイドテーブルに地図を赤ペンを置き眠りについたのだった。
エルシアはと言うと食器を洗い終わった後は洗濯物をしていた。
洗濯機に汗で汚れた服を入れ、洗剤を適量いれる。
後は電源を入れタイマーをセットする。
「これで洗濯物は明日の朝には干せるかな」
やることを終えたエルシアは自室へと移動する。
「あー! ファルトったらもう寝てる! 私も寝よ!」
ベッドに横になるとそのまま目をつむる。
脳裏には微かな罪悪感と手には人を刺した感触が残っていた。
「……ごめんね」
「……」
エルシアの小さな呟きを聞いていたファルトであった。
翌朝ファルトは地図を見ていた。
昨晩から今朝までに3回巨大な魔力爆発が観測されたのだ。
地図には半円を描くように赤い丸が付けられている。
「中心に何かあるのか……? 今日はそっちに行ってみるか。そういや、エルシアが白衣とか持ち帰ってきてたな。何か持ってないか見てみるのも有りだな」
寝間着から普段着に着替えるとエルシアが持ち帰ってきた白衣と衣服を調べた。
衣服からは何も見つからなかったが、白衣からは時計、ペン、紙が見つかった。
それには丸印が15印、その横には数字が書かれていた。
「これは時刻か。発生間隔も徐々に早くなってきてるな」
紙に印されている丸は徐々に収縮している。
ファルトが得た情報とも比較すると、ある一点に向っているのだ。
アンソニーの部屋から定規を探し出し円の中心を割り出す。
割り出された場所はシルヒハッセ邸から南東にあるエデルガーデン記念公園だった。
歩いて12キロの距離がある場所だ。
「よし、謎の核心に迫れそうだな。これも魔法科学者のおっさんのおかげだな」
「おはよ……」
「おはよう。よく眠れたか?」
「うん。朝ごはんは?」
「これ」
ファルトが指差したのは昨日少女にと持ってきた缶詰だった。
結局意味もなく持ち帰ってきてしまったのだ。
「缶詰かー」
「白米はあまりがあるし、いいだろ。サバ缶うまいぞ」
「そうかな~。ま、いただきまーす」
有り合わせの朝食を済ますと、エルシアに今日の予定を話した。
ついでに魔法科学者の白衣に入っていた物も言う。
「へー。持ち帰ってきてた白衣にそんな物が入ってたんだね。褒めてくれてもいいんだよ?」
「で、だ。うまく行けば今日中にこの世界の謎に迫れるかもしれないんだ」
「ほ、褒めてくれても……」
「謎を解けば帰れる可能性もある」
「無視するのね……。トイレ行ってくる」
「おう、行って来い。終わったら出かけるぞ」
現在時刻は朝の8時。
今からエデルガーデン記念公園へ行けば10時半には到着できる。
だが、ファルト達は歩いては行かない。
車が有るからだ。
「誰も居ないし免許とか関係ないアンソニーの個人車で一気に行くぞ」
アンソニーの部屋を探すと引き出しの中に車の鍵と思われる物が見つかった。
それを拝借するとエントランスでエルシアを待つ。
「ただいまー。行こっか」
「行くぞ」
「歩いて3時間かー。汗かくの嫌だな~」
「歩かないぞ」
「え?」
ファルトは車庫を開けると車に鍵を差し込みドアを開けた。
どやっているファルトを見ながらエルシアは少し不安を覚えた。
何故なら2人とも車の運転など初めてだからだ。
いくら人が居ないとは言えども事故を起こしたら大変なことになる。
「さあ行くぞ。乗れ」
「安全運転でよろしく……」
★
「ひゃっはああああああ! 飛ばすの楽しすぎだろ! うおおおおお!」
「ひえ~! ファルトやめてよ~!」
ドンと鈍い音と共にぶつかった標識がなぎ倒された。
「ああ! 標識が!」
「標識がどんなもんじゃーい! オラオラオラ!」
「ひゃわあああああ!」
15分あまりでエルデガーデン記念公園に到着した。
一般道を時速80キロで走ったのだ。
車は既に色々な場所にぶつかりフレームが歪んでいた。
「し、死ぬかと思った……」
「いやー! 楽しかったな! もう乗れないのが悔やまれるが」
2人はエデルガーデン記念公園に入ると、巨大な魔力爆発の起点を探すのであった。
この公園はエデルガーデン最大の大きさを誇り、探すだけでも一苦労だ。
公園の構成としては5区に分けられる。
子供が遊ぶ遊戯区画。
一面に芝が広がる緑地区画。
薔薇などが咲き誇る植物区画。
食事を摂取する出店区画。
最後に中心にある初代国王の銅像がある時計塔区画だ。
「ここのどこかに何かあるかもしれん」
「ここ凄く広そうなんだけど……」
「俺たちが使える魔力波探知は家1個分だからな。この公園を探索するのは大変そうだ」
予め時間を決め二手に分かれ探索することになった。
「2時間後に時計塔区画に集合な」
「りょーかい」
エルシアは植物区画から始め、ファルトは遊戯区画から始める事になる。
一区画だけでも一軒家10軒もあるため隅から隅まで探すのは骨が折れる。
2人が端から端まで魔力波探知を使い探索していると、別の場所で巨大な魔力爆発が発生する。
2人は一瞬ここが発生起点だと思ったが次の瞬間には遠くで発生したものだと理解したのだった。
「うーん。期待したんだけどな~」
「ここじゃないか」
一区画探すだけでも40分もかかり次の区画への移動も時間に足すと約1時間かかった。
そして2時間後。
2人は何の成果もなく集合場所の時計塔区画へと移動していた。
エルシアは時計塔の時計を見ると集合時間の2時間を過ぎていることがわかった。
少し急ぎ足で時計塔区画へと急ぐ。
「遅れちゃったなー。あ、ファルト~見つかった~?」
エルシアは声を張ってファルトへ話しかける。
その間も歩き続けお互いに近づく。
時計塔が魔力波探知の領域に入った瞬間これまで感じなかった魔力反応を観測したのだ。
「!」
「これは!」
エルシアとファルトが時計塔を見る。
そこには黒い扉があった。
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