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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
4沈黙の夕焼け
83/113

83真相





 2人が少女の元へと戻っている途中、公園で昼飯を食べていた。


「この肉じゃがおいしーい!」

「だろ? 俺にしては良い出来だ」

「あ、聞いてなかった事があった!」

「ん?」

「私のサンドイッチどうだった?」


 ファルトにとって非常に答えづらい質問が来た。

 あのサンドイッチは黒胡椒のかけすぎで辛味が凄いことになっていた。

 エルシアになんと伝えたら良いか迷っていると、質問への答えの催促が来た。


「ねーねー、答えは~?」

「あーっとだな……。個性的な味がしたぞ!」


 内心良い答えだと自負していた。

 だがエルシアはその答えに満足していなかった。


「個性的な味って何? 美味しかったの? 不味かったの?」

「う……。個性的な味だって言っただろ」

「……つまり不味いってこと?」

「そんな事は言ってないだろ」

「だったら美味しかったんだね! また作るよ!」

「それはやめろ」


 昼飯を食べ終わると公園を後にした。

 帰り道は来たときと違って道を覚えているため早く戻ることができる。

 その分途中でこの区画のデパートに寄り缶詰を袋に詰めると少女への土産とした。


「あの女の子も1人なんて大変だよね~」

「だな。それにしてもここは一体どこなんだ? 人は居ないしいつになっても夕方のままだし。普通じゃないよな」

「そうだね。この前小説で読んだよ! こういうの平行世界って言うんでしょ?」

「いらん知識だけ増えていくな。だがそう言うもんなんだろうな」


 そんな話をしつつ少女の家へと戻ったのだった。


「ただいまー! ……あれ?」

「返事がないな」


 2階に上がり少女のいる部屋へと入る。

 布団が膨らんでいる。

 なかにくるまっているのだろう。


「たーだいま! って、え?」

「お、おい!」


 布団を剥がしたエルシア達2人が見たのは体が半分崩れている少女の姿だった。

 エルシアは直ぐに回復魔法を行使する。

 だが一向に良くなることはなくただただ悪化していくだけだ。


「……お、お姉、ちゃん」

「今治すからね! すぐ治るからね!」

「それ、は、無理。これ、渡す、よ」


 回復魔法の行使を止め手紙を受け取ると封を開けた。

 手紙にはこの世界のことと、世界が体と精神に与える影響が書き連ねていた。

 書いたのは少女ではなく他の人物だ。


「読、んで……」

「え、えっと。この世界は通常空間とは異なり、いわゆる格が違う。この異空間では我々の精神体は1日で約76000倍のスピードで加齢する。魔法に詳しい者なら生活魔法のボディーセンテンスを使え。ここからが重要だ、私達人の精神体の寿命は個人差もあるが最新の魔法研究では平均800歳だ。つまり4日この異空間に居るだけで死ぬ。ただ死ぬだけなら良いが厄介なことに肉体より精神体が先に死ぬと体が崩れ魔物もどきになる……」

「魔物もどきってまさか……」

「そのまさかみたいだね……」


 手紙に書かれていたことは少なからずエルシア達に衝撃を与えた。

 魔物が人間に擬態していたのではなく、人間が魔物になっていたのだ。

 そしてそれを聞いていた少女にも新ためて現実を突きつけられたのだった。


「……お姉、ちゃん。私、を殺し、てぇ。魔、物にな、り、たくな、い」

「で、でも! まだ諦めちゃ駄目だよ! だってまだ試してない回復魔法あるもん!」

「……エルシア」

「我の威を示せ、ハイフリートヒール! これも駄目!」

「エルシア」

「魔力消費が激しいけどこれしか無い! 我の威を示せ、リバースザクロック!」

「エルシア!」


 肩を引っ張られパチンと頬に平手打ちをファルトから貰う。

 それでエルシアは我に返った。


「もうどうしようもないことなんだ。俺たちに出来ることはこれ以上苦しめないようにしてやることなんだ! そうだろ!?」

「……そうだけど……」


 エルシアは今にも泣きそうだ。

 だがそれをぐっと堪える。


「俺が変わりにやろうか?」

「……私がやる。頼まれたから」

「そうか」

「今私が……私が楽にしてあげるからね……」

「おねが、いしま、す……」


 エルシアは右太もものベルトから一本ダガーナイフを引き抜く。

 それを崩れかけた少女の体、心臓の真上に持ってきた。


「せめて楽に……。我の威を示せ、アネステジア」


 麻酔と同じ効果がある回復魔法を少女に行使する。

 ほんの数十秒で意識が落ち眠りについた。

 それを確認したエルシアは全体重を掛けダガーナイフを心臓へ深々と突き刺したのだった。

 血が溢れ出しエルシアの洋服を汚し血溜まりを作る。

 突き刺したダガーナイフを抜き取る時には既に少女は息をしていなかった。


「元気でね……」


 ファルトは遺体を布団にくるみ持ち上げる。

 2人は少女が居た家の庭に移動した。

 庭の倉庫からスコップを拝借すると穴を掘った。

 そこに遺体を入れると生活魔法で火を付ける。

 ネルガンの時と同じく何をするでもなく、ただただ燃えゆく遺体を凝視するしかなかった。


 火が消えたことを確認すると土を戻し墓石の代わりに石を置いた。

 

「帰ろっか」

「ああ」


 帰り際に2人はクリーンアップで洋服に付いた血を落とし、シルヒハッセ邸へと戻るのであった。


 帰り道の途中魔力波探知を行使中だったファルトが巨大な魔力爆発を観測した。

 直ぐに地図を広げると観測地点に赤ペンで丸を付ける。

 これでシルヒハッセ邸と行きと帰りで3回発生したこととなる。

 地図に付けられた赤丸は弧を描いていることに気がついた。


「次の発生予測はこの辺か? ま、発生してみればわかるか」


 地図を畳みポケットにしまう。

 改めてシルヒハッセ邸へと帰る。

 

 家に戻るとエルシアは一直線に風呂場へと向かっていった。

 この夏場の暑い時間に外を歩いたのだ、汗だって掻く。


「あ! ファルトー! 着替え出しておいてー」

「自分で出せよ!」

「もう脱いじゃったからお願いねー」


 そう言うと微かに開いていた扉が閉まった。


「ったく! 風呂に直行する前に着替えぐらい出しておけってんだ」


 2階の自分たちの部屋へと移動するとクローゼットからエルシアの着替えを取り出す。


「っ!」


 ファルトの手が止まった。

 そこにあった物とは、下着だ。


「これは着替えを取りに行くと言う任務の報酬だ。だから触ったり嗅いだりしても問題はない」


 ピンク色の下着も持つと1階洗面所に着替えを置く。


「置いておくぞ」

「ありがとー」


 リビングに移動するとテーブルに地図を広げ、鉛筆で次の発生場所の予測円を描く。

 ファルトはそれから巨大な魔力爆発が起こるのを待った。

 30分が経過しそれより早くエルシアが風呂から出てきた。


「ふぅ……汗流せてサッパリした」


 生活魔法のクリーンアップは自分由来の体液などには作用しない。

 それ故に汗などを掻いたら自分で洗い流さないといけない。


「私がお風呂入ってる時に何かあった?」

「いや、何もなかったぞ」

「そう? 我の威を示せ、ボディーセンテンス」

「どうだ?」

「すっごい勢いで加齢してる」


 約200歳ほど精神体が加齢していた。

 だがエルシアとファルトは人ではない。

 精神体の寿命も人よりかは遥かに長い。


「ファルトもお風呂入ってきなよ~」

「わかった。そうするか」


 自分の着替えを取りに自室へ戻り、クローゼットから着替えを取る。

 洗面所へ移動し汗ばんだ服を脱ぎ風呂に入った。

 この時は気がついていなかった。

 キッチンでエルシアが肉じゃがに調味料を足していることを。





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