81落ちた先
唐突の出来事にルルは言葉を失っていた。
「あ、アリス……」
「エルシアさん、ファルトさん一体何が起きたのですか……。そして一体どこに消えてしまったのですか……」
ルルはやっとの思いで言葉を絞りだした。
「憲兵まだ近くにいるわよね。すぐに伝えないと!」
そう言うとルルは外にいる憲兵を追いかけて行く。
「お二人共ご無事でありますように……」
★
「ん……。ここは?」
エルシアは目を覚ました。
周りを見渡すとどうやらシルヒハッセ邸のようだ。
隣にはファルトが倒れていた。
「ファルト起きて。ファルトったら!」
「なんだ……あ?」
ファルトは起き上がるとエルシアと同様に周りを見渡す。
「家だな。俺たちはどうなったんだ?」
「わかんない。アリスちゃんは……居ないみたい」
まだはっきりと使えない魔力波探知でアリスを探した。
エルシア達に使える距離はシルヒハッセ邸ぐらいだ。
家の中を2人で探すと、先程まで昼間だったが窓ガラスから見える外は夕焼けに染まっていた。
「ルルも爺さんも居ないみたいだな」
「外に行ってみよ。魔力探知なら広い範囲探せるからね」
2人は外に出ると魔力探知を行使した。
アリスほどの練度は無いが半径1キロであれば広げる事ができる。
しかし魔力探知には人はおろか動物すら引っかからなかった。
「誰も居ない?」
「どうなってるんだ? 俺たち意外皆失踪したわけじゃあるまいに」
「街を探索してみよ」
「そうだな。一応用心しておけよ」
シルヒハッセ邸から歩いて10分の所にある公園まで移動した。
いつもは子供が遊び、犬を散歩させたりしている人が居るがその姿はどこにもない。
風が吹く音のみが世界を支配していた。
更に街の中を移動する。
商店街まで来た2人は声を出した。
「すみませーん! 誰か居ませんかー!」
「誰か居たら返事してくれー」
商店街に虚しく響く声。
人も居ないのにショーウインドウの中には腐っていない食べ物が並べられていた。
「人がいる痕跡はあるのに誰も居ない……。不気味だね~」
「ああ」
ファルトがトマトを手に取っていた。
何をしているのかと見ていればそれを一口食べたのだ。
エルシアは咄嗟に辺りを見渡すがやはり人の気配はない。
「うまいな。腐ったり食品サンプルでもなさそうだ」
「でもでも勝手に食べるのは駄目だよ! いきなり食べるんだからびっくりしちゃった」
「いざとなったら食うしかないぞ」
「それはそうだけどさー」
「もう少し探してみるぞ。学園方面に行ってみよう」
学園方面まで移動する。
途中大通りを通ったが、先程の商店街の様に人っ子一人居なかった。
学園の周囲には住宅街も有り、誰か人が居ないか希望を持って来てみたのである。
「誰かいないかー!」
声が虚しく響くだけで、ここも誰一人として居なかったのである。
「相変わらず誰も居ないな。どうなってんだ?」
「魔力探知使ってみるね」
「おう」
エルシアは魔力探知を使う。
すると何かの反応を見つけたのだ。
反応は動いていない事から家の中に居るのであろうと考えた。
それをファルトに伝えると一緒に移動を始める。
700メートルほど曲がり角を何度も曲がった家の前に到着した。
「ここか。鍵は……開いてるな。入るぞ」
「おじゃましまーす! 誰か居ませんかー! ……寝てるのかな?」
ファルトとエルシアは家に上がり込み1階を探索した。
しかし人は居ない。
残るは階段を上がった先の部屋である。
「2階で寝てるのかな~。起こしちゃ悪いけど非常事態だししょうがないよね」
「そうだな。失礼する――」
扉を開けて中を見た時だった。部屋の奥には床に落ちた服と半透明で不定形の魔物が居たのだ。
一瞬で2人は攻撃態勢に入った。
半透明で不定形の魔物はそれと同じ奥して2人に迫る。
「我の威を示せ――」
「それじゃ間に合わない!」
半透明で不定形の魔物はすでに2人の間合いに入っていた。
今から詠唱していたのでは間に合わないのだ。
エルシアは左太もものベルトに収められていた機械式魔道具を取り出しトリガーを引いた。
薬莢が排出し攻撃魔法が即時展開され半透明で不定形の魔物は部屋の端まで吹き飛ばされた。
「我の威を示せ、フレアブラスト!」
「わー! 家の中で炎は駄目ー! 我の威を示せ、アイギス=エモートハンマー!」
ファルトの攻撃魔法により飛び火した場所を半透明で不定形の魔物ごと叩き潰す。
一度では倒せず火も消えなかったため何度も振り下ろした。
結果、ファルトの攻撃魔法で半分以上体……と言ってもいいものか吹き飛ばされた半透明で不定形の魔物はエルシアのエモート防御魔法により体を飛び散らさせ動きが止まったのだった。
「またこいつか。下水道にも居たな」
「反応は魔物だったみたい。でも服があったっていうことは持ち主は食べられちゃったのかな?」
「血は無いな。丸呑みの消化なら服も残らないはずだが」
エルシアは薬莢を拾うと魔力を込めつつ近づいた。
何か異常は無いか見るがファルト以上の事は見つからなかった。
家を出るとシルヒハッセ邸へと足を向けていた。
その際に魔力を込めきった薬莢をマガジンに戻し機械式魔道具を左太もものベルトへしまった。
4時間を掛け町中を探索した2人は昼飯を食べていなかったことを思い出した。
冷蔵庫に閉まってあった材料を使い昼飯兼夕食を作った。
「そう言えば夜にならないね」
「ああ、ずっと夕方のままだ。時計がなかったら時間がわからないところだった」
「ハンバーグ美味しい」
「明日は反対側を探索してみるか」
「そうだね~。人がいるかも知れないし」
2人は明日の探索の予定を立てつつ食事を済ませたのであった。
食後少しでも情報を得ようとテレビの電源を入れたが、画面は砂嵐のままでチャンネルを回しても駄目だった。
アリスが持っていたラジオも同様にどの周波数でもザーと言う音だけが聞こえてくる。
「駄目か~」
「考えてみれば人が居ないのに誰が番組を放送するんだ」
「ですよねー」
「アンソニーの部屋に行くぞ。地図くらいあるだろ」
2人は普段近寄ることのないアンソニーの部屋へと向かった。
鍵が掛かっていたが身体強化で無理やり抉じ開けたのだった。
部屋の中には黒電話や本などが置かれており、エデルガーデンの地図も飾られていた。
ファルトはそれを取ると机の上に広げた。
そして机の上にあった赤ペンでシルヒハッセ邸を丸をつける。
「ここが現在地だ。で、今日行った場所はここだ」
「ふむふむ」
「魔物が居た場所はここら辺だ」
ファルトは地図に丸を着けていく。
「明日から探索した場所に丸を着けていこう」
「さんせー!」
「そんじゃ外は夕方のままだが寝るとするか」
2人の部屋に戻るとカーテンを閉め床に就くのだった。
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