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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
4沈黙の夕焼け
80/113

80空間歪曲




 夏休み終盤、エルシア達は魔力波探知の練習を行なっていた。

 相変わらず魔力波を識別出来ず練習は困難を極めている。


「難しいな。体では魔力を感じられるんだが」

「魔力操作の練習をこなしても駄目ですか。私はすんなりと物にできたのですが……」

「アリスちゃんみたいに天才じゃないからね~」


 エルシアはスクワットをしながら魔力波探知の練習をしていた。

 ダイエットは継続中である。

 早朝から練習をしていたためまだ朝食を食べていなかった事に気がついたアリスは2人に朝食を取る様にすすめる。


「お、そうだな。朝食にするか」

「食べたらダイエットするぞー!」


 トレーニング施設から本館に戻るとリビングへ直行する。

 テーブルの上にはすでに朝食が用意されておりルルが待っていた。


「練習終わったの? ご飯待ってたわよ」

「おまたせしました~。食べよ~」


 4人が朝食を取り始めるとニュースが始まった。


『朝8時のニュースの時間です。エデルガーデン冒険者ギルドに行方不明者の捜索依頼が舞い込んでいるとの事です。ギルドへの取材では詳しい事は言えないようですが例年の10倍以上の依頼が舞い込んでいるそうです。憲兵はこの件については黙秘を貫いています』

「そう言えば海の時に行方不明者が増えているとリンネ部長から聞きましたね」

「夜逃げとか家出じゃないのか?」

「それがどうも幼い子どもも含まれているそうで、それは無いとおっしゃっていました」

「なるほどわからん」


 2人がそんな話をしている中エルシアとルルは世間話に花を咲かせていたのだった。


 朝食を食べ終えて3人はトレーニング施設へと戻った。

 エルシア、ファルト共に体では魔法行使時のアリスの魔力を感じ取れるがアクセサリーの魔力を、魔力を使って感じ取ることが出来ない。

 アクセサリーの発する魔力は微量な為、体で感じ取る事はできないのだ。


「魔力探知の応用……。魔力を探知……」


 ファルトはブツブツと独り言を呟きながらアクセサリーの魔力を広げ探知をしようとしていた。

 ここでエルシアは昨晩の事を思い出した。


(昨日の魔力の爆発なんだったんだろ~。気にな……ん?)


 そこまで思い出しとある事に気がついた。

 あの時空白ではなく魔力を探知したのだ。

 そしてその後アリスは魔力波探知と言っていた。

 つまり昨日魔力探知の練習中に無自覚に魔力波探知をしていたのだ。


(昨日の感覚を思い出せ……あの魔力爆発……)


 エルシアは一瞬力むとカッと目を見開いた。

 その瞬間エルシアの魔力波探知に魔力が引っかかる。


「魔力キター!」

「俺もきたぞおお!」

「お二人共! 今のは何ですか!? もしかしてエルシアさんが昨日言っていた魔力の爆発って今のですか?」

「え? ああ! そうだよ! 昨日のと同じ。 しかも近い」

「この感じ近所ですね。何が起きたのでしょうか」

「兎に角! 今の感じで魔力波探知をすればいいんだな!」


 ファルトは今ので感覚を掴んだようだ。

 昼頃には魔力を微量だが掴むことができるようになっていた。


 そして夜。

 今日の練習は終わり、各自の部屋で体を休めていた。

 そんな時インターホンが鳴り響いた。


(こんな時間に誰か来た? 念の為私も行きましょうか)


 アリスは部屋を出るとエントランスへと降りた。

 ちょうどルルがエントランスに出てきたところだった。


「お母さん、念の為だけど私も出ます」

「そうね……。近所の人だけどあの事があったからね」


 あの事とは先月のレジスタンスが関わったオートマタ入れ替えである。

 エントランスの扉を開けると、見るからに焦っている主婦の姿があった。

 夜にも関わらず大きな声で話しかけてきた。


「シルヒハッセさん! うちの子、ホムラを見ませんでしたか! 昼頃から姿が見えなくなって……。憲兵にも連絡したのですが、年頃の子供の家出はよくあることと言われ相手にしてくれなくて」

「まぁ! 最近行方不明者が多いみたいですよ! もしかして集団誘拐かしら。兎に角、今日は夜遅いです。家に戻って待ちましょう」

「そうします……。誘拐されてたらどうしましょう……」


 肩を落としながらとぼとぼと家へと帰っていく。

 ルルにはわからないことだが、アリスには朝起きた魔力の爆発の様な現象と何か関係があるのではないのかと考えていた。


 翌朝、朝食の時間にニュースが流れていた。


『次のニュースです。またしても失踪。エデルガーデンで何が起こっているのでしょうか。現場と中継が繋がっています。』

『はい現場です! 閑静な住宅街のこの家で長女のホムラさんが失踪したとのことです! 奥様に話を聞いてみましょう。失踪前は何をしていましたか?』

『私はいつもどおり家事をしていました。ちょうど外で洗濯物を干していました。娘は自室に居るのかと思い、声を掛けていませんでした。お昼になり部屋に行くと娘は居ませんでした』

『ありがとうございます。この様に何の前触れも無く失踪する事件がこのエデルガーデンで相次いでおり住民の不安も爆発しかけています。憲兵の早急な対応が望まれます。現場からは以上です』

『ありがとうございました。できる限り自分の身は自分で守りましょう。不審な人、荷物は見つけ次第憲兵に通報。家の鍵はしっかりと閉め、2人以上で行動しましょう。では次のニュースです』


 ルルはテレビのチャンネルを回した。

 朝食時に暗いニュースを流したままにはしたくなかったからだ。


「さあ! 朝ごはん食べちゃって!」


 朝食を取り終えると各自の部屋に戻った。

 エルシアはダイエットに励んでいる。

 ファルトはその手伝いだ。


「腹筋きつい~」

「太るからだぞ」

「太い言わないでよ! 傷つく~!」


 文句を言いつつも腹筋をこなす。

 12時頃インターホンが鳴った。

 それにルルが対応する。


「はい。え? 憲兵さん? 今開けます」


 外門を開けるとルルもエントランスへと向かった。

 エントランスを出ると憲兵が2人立っていた。


「すみません。この州で多発している失踪事件を調査しています。何か知りませんか?」

「あら? 憲兵は沈黙を貫いてるんじゃなかったのかしら?」

「我々も立場と言うものが有りまして……」

「そうね……アリスー! ちょっと来て頂戴!」


 アリスがエントランスに降りてくると直ぐに憲兵が来ていることがわかった。


「なんでしょうかお母さん」

「失踪事件調べてるんだって。何か知らない?」

「そうですね……。そのホムラさんが居なく鳴った時間帯に巨大な魔力の爆発が起きていました。知っているのはそれだけです」

「ご協力ありがとうございました。では我々はここで」


 そう言うと憲兵達は帰っていった。

 ルルは少し不安気な表情を浮かべていた。

 それを読み取ったアリスはフォローの言葉を掛ける。


「大丈夫です。私は居なくなりません」

「そう言っても心配よ。また前みたいな事になったらと考えると……」

「何弱気になっているのですか。お母さんらしくありません」

「そ、そうね。お昼にしましょうか! アリス、2人を呼んできてくれる?」


 アリスは2人を呼びに階段を上がろうとした時だった。

 巨大な魔力が突如目の前で発生したのだ。

 空間が巨大な魔力によって歪みだしアリスは足を止めた。


「なっ――」

「何ぼさっとしてるんだ! 逃げろ!」

「逃げてアリスちゃん!」


 階段から飛び降りてきたエルシアとファルトに突き飛ばされ、アリスは空間が歪んでいる場所から少し離れた。


「我の威を示せ、アブソリュートディフェンス!」


 アリスを防御魔法が囲う。

 その瞬間空間に亀裂が入り2人は飲み込まれていったのだった。


「エルシアさん! ファルトさん!」


 亀裂は時間を巻き戻しているかのように元に戻る。

 空間が正常に戻った時エルシアが残した防御魔法もまた消滅した。

 アリスは急いで魔力波探知を全開で広げる。

 1キロ、5キロ、10キロ。

 限界まで広げるがアリスが渡したアクセサリーの反応はどこにもなかった。







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