79ロナルドの感謝の言葉
場所を離れブザーが鳴り止み先程の魔物についてファルトと話す。
「さっきの半透明な不定形の魔物? みたいの何だったんだろうね」
「わからん。生物のようには見えなかったな。エルシアはなにか感じたか?」
「ううん、何も」
そんな事を話しながら薄暗い下水道の道を引き返していく。
今回は長い時間掃除をしていたため施設に戻るのが遅くなった。
下水処理施設に戻ると長靴を脱ぎ、マスクをゴミ箱に捨てる。
ついでに自分の体や服に付いた臭いなどをクリーンアップで落とす。
担当者が待っている事務所へ向かった。
「すみませーん。終わりまし……あれ? 誰も居ない」
「どこ行ったんだ? すみません! 誰か居ませんか!」
下水処理施設はただ淡々と下水を処理している音だけが聞こえてくるだけだった。
人の声も足音も聞こえない。
報告に迷ったエルシアとファルトだったが、警備員に報告を伝えることにした。
下水処理施設の入り口まで戻ると守衛室の窓を叩いた。
「はい。なんだ君たちか。仕事はおわったのかい?」
「終わりました。途中硫化水素検知器が反応したので切り上げて来ました。後魔物が居たので報告しておきます」
「そうか。うん? なんで私に報告してるんだい?」
「それが……」
エルシアは下水処理施設内に担当者を含め職員が誰も居ないことを話した。
警備員は入り口から誰も出ていないと言う。
3人は頭を悩ませたが分からないものはわからない。
「仕事の事は上に話しておくよ。ギルドへ報告しにいきなさい」
「わかりました。失礼します」
下水処理施設を後にしギルドへ向かう。
ギルドに到着すると相変わらず一般人が多く、受付が混雑していた。
前回は下水処理施設の方から報告が入れられていたが今回は自分たちで報告しに来たのだ。
「依頼の報告に来ました」
「ギルドカードの提示をお願いします」
「2人分な」
ギルドカードを機械に入れて情報を読み込む。
ブラウン管ディスプレイに情報が映し出された。
「下水処理施設での依頼とのことですが、国からの依頼は依頼先から報告されることになっています。まだ報告が来ていないようですが?」
「それがだな。報告する人間が誰1人として居なかったんだ。警備員以外な」
「状況がよくわかりませんが確認致しますので報酬は後日になります」
「わかった。後下水道で魔物を見た。それだけ報告しておく」
「情報提供ありがとうございます。では後日連絡いたします」
報告が終わると受付から離れる。
その際に横で依頼を出していた一般人の声が聞こえてきた。
「うちの旦那が戻らないんです。憲兵も相手にしてくれなくて……探してください! おねがいします!」
(人探しか。浮気はねーのか?)
2人はギルドから出るとエルシアの要望によりレストランへ行くことになった。
5分程歩いた場所にウサギのしっぽ亭と言うレストランがあった。
そこに入ると座席に座る。
「オムライス~オムライス~」
「オムライス好きだな」
「だってこんなに美味しい食べ物他にないよ!」
「そ、そうか」
テーブルの端においてあった店員呼び出しボタンを押すと、すぐに店員がやって来た。
「ご注文はお聞きします」
「オムライス1つとロースステーキ焼き加減レア1つで」
「お飲み物はどういたしますか?」
「俺はアイスコーヒー。エルシアはどうする?」
「私はバナナジュース!」
「かしこまりました。オムライス1つ、ロースステーキ焼き加減レア1つ、アイスコーヒー1つ、バナナジュース1つで承りました」
料理が来る前にお冷が配膳される。
夏場の暑い時間に歩いてきたため喉が乾いていた2人はお冷を一気飲みした。
7分経った頃注文の品が運ばれてきた。
「おまたせしました。オムライス1つ、ロースステーキ1つ、アイスコーヒー1つ、バナナジュース1つです。ごゆっくりどうぞ」
「いただきまーす! あむ……おいしい」
「前も言ったがおかわり禁止だぞ」
「えー! なんで!?」
「お前……少し太ったぞ」
「え……」
エルシアはさり気なく脇腹を摘んでみた。
「!!」
少し摘めてしまったのだ。
思わず顔が青ざめる。
「す、少しぐらいふっくらしてたほうが健康そうでいいじゃない……」
「俺は痩せてるほうが好きだぞ」
「!?」
突然のファルトの自覚していない告白にエルシアは顔を真赤にした。
動揺しきっているエルシアは思わずバナナジュースを一気飲みするのであった。
「……ぷは! い、いいい、いきなりな、ななな、何言ってるの!?」
「? 俺は別に何も行ってないが」
この後エルシアはドキドキしてオムライスを味わって食べれなかった。
家に変えると汗を掻いたので風呂に入っていた。
エルシアは先程のファルトの発言が頭から離れず悶々としていた。
シャンプーを泡立て頭を一心不乱に掻きむしっている。
「ふわわわあああ!! 私どうしちゃったの~! あんな言葉が気になるなんて!」
体も一心不乱に洗うとタオルで体を拭き、洗面所にでた。
洗面所に置いてあった体重計に目が行く。
涎を飲み込み、そっと足を乗せる。
がちゃんと音を立て針が動く。
「!!」
体重計から降りるとエルシアは1つ決意する。
「明日からダイエットだ!」
ダイエットを決めたのだった。
その後夕食時になりリビングへ集まる。
アリスは夕食も外で食べてくるとの事で今日食卓にはルルとロナルド、エルシア、ファルトの4人である。
アリスと言うストッパーが居ない食卓に2人はどうなるかと思っていた。
食事が始まる前にロナルドが口を開いた。
「……片翼。いや、エルシアとファルトだったか。事情は息子から聞いた。アリスを救ってくれて礼を言う。ありがとう……。今までの非礼も謝る。この通りだ」
「え? え?」
「爺さんどうした?」
2人は突然のことに戸惑っていた。
いつも片翼を迫害してきたロナルドが突然感謝の言葉と今までの非礼を謝ってきたのだ。
あまり関わりがない3人だがロナルドが嘘を言っているとは思えなかった。
頭を下げ続けているロナルドにルルが声を掛ける。
「2人が混乱しています。お祖父様頭を上げてください」
そう言うとロナルドは頭を上げた。
そこからは2人に変わってルルが話し始めた。
ロナルドいわく、アリスがレジスタンスに四肢を切り落とされ、更には毒殺されると言った行為に心を痛めていたらしい。
不思議にもアリスが蘇り、四肢も復元されておりアンソニーに聞いた結果、エルシアとファルトが関わっている事を聞いたのだ。
「あの奇跡に代償が必要だったなんて当時の俺には知らなかった」
一呼吸置くと言葉を絞り出した。
「だからこそ礼と謝罪が必要なのだ」
「私はロナルドさんの言葉を受け入れます。その言葉に嘘偽りはありません」
「俺もそうだな。嘘言ってないみたいだしな」
「ありがとう……!」
「さて! お互い仲直りした所でご飯にしましょう! 冷めちゃう前にたべましょ」
「あ、ルルさん。明日からダイエットするので少なめでお願いします」
さり気なく皆の前でダイエット宣言をするのであった。
「☆☆☆☆☆」を押して応援していただけると嬉しいです!




