78魔力波探知の練習と下水掃除
「ぐぬぬ……これ以上薄くできなーい!」
「エルシアうるさいぞ」
エルシアは魔力探知にどん詰まりしていた。
ファルトの様に魔力を薄く広げる事ができないのだ。
精密な魔力操作を必要とする回復魔法が使えるエルシアの方が習得が早そうだとアリスは踏んでいたが、実際は大雑把でも問題ない攻撃魔法しか使えないファルトが魔力探知を習得してしまった。
アリスにとっても少し予想外だった。
(まあエルシアさんも習得まで時間の問題でしょう。今はファルトさんに魔力波探知を教え込みましょうか)
アリスはファルトの練習に熱を入れて取り組んだ。
魔力波探知は魔力探知の応用なので、魔力探知が使えるようになったファルトには後相手の魔力を正確に感じ取る力を付けさせればいいのだ。
「ファルトさん。戦いの中で魔力を感じ取る事は有りましたよね? それってどんな感じでしたか?」
「そうだな……。アリスの場合は猛々しい鬼神の様な魔力だったな」
「それを体ではなく魔力で感じ取ってください」
「簡単に言ってくれるな……」
目を閉じ、意識を集中させる。
魔力を薄く広げアリスの魔力を探る。
「だあー! さっぱりわかんねえ!」
「もしかすると魔力操作がやっぱり雑なのがいけないのかもしれませんね」
「雑で困ったことはないからな」
「では魔力波探知は置いておいて魔力操作の練習をしましょうか。はい、魔力水平器」
「これは?」
「魔力が一定の値を保つと中にある気泡がこの2本の線の中央に来ます。それを一時間キープしてください」
ファルトはいかにもめんどくさそうな顔をするが、無言の圧力がアリスから掛かる。
黙って魔道具を受け取ると魔力を流し込んだ。
気泡は一瞬にして端に移動し、上下逆さまにしたりしたがピタリと動かない。
流し込む魔力を少し落とすと今度は反対側へピタリと張り付いた。
「意外と難しいな」
何度も魔力を上げたり下げたりするが、気泡は左右にピタリと張り付く。
一方エルシアは魔力探知の精度を上げようと必死になっていた。
そして1つの秘策を思いついた。
(もしかして回復魔法が突破の鍵になるかも……!)
回復魔法は体の損傷など空白になった場所を補填する魔法だ。
それを利用する。
魔力で空白の場所を探し出せるのだ。
(よしよし、後は薄く広く……)
エルシアがそれを実践していると、ファルトに付きっきりだったアリスがふとエルシアの変化に気がついたのか振り返った。
「エルシアさん出来ているではないですか。おめでとうございます」
「やったー! ありがとー!」
2人とも魔力波探知の練習に入ることが出来た。
その後も夜までトレーニングを続けた。
明日は気分転換にギルドへ行くことになった。
アリスは社交界があるため同行しない。
「久しぶりのギルドだー」
「と言っても下水掃除しか選択肢は無いがな」
「仕事した後のオムライスは美味しいからいいのー!」
「そうか~? 飯ならいつ食べても変わらんが」
「かーわーるーのー!」
他愛もない話をしながら眠りに落ちるのであった。
次の日、朝食を食べ早速ギルドへ向かっていた。
ギルドは相変わらず人で溢れかえっていた。
だが、一般人も以前来たときよりギルド内に居る。
「なんか今日は騒がしいね~」
「そうだな。民間のファイルっと」
パラパラとページを捲っていくと最近になって行方不明者の捜索の依頼が数多く綴じられていた。
ファルトは不思議に思ったが、行方不明者の捜索は空振りになる可能性を考え下水掃除の依頼書をファイルから取り出し受付に持っていく。
「この依頼を受けたいんだが」
「かしこまりました。ギルドカードの確認をしますのでギルドカードを提示してください」
「2人分よろしく」
「はい、受け取りました。コンピューターで照会をかけますのでお待ち下さい」
ギルドカードを機械に入れ、カード情報から照会をかける。
この機械では1人30秒の時間がかかる。
エルシアとファルトで60秒かかったが、紙媒体の物を1から探すよりかは早いだろう。
「ハンドセンサーに魔力を流し込んでください」
2人がセンサーに手をかざし魔力を流し込んだ。
ピっと言う音がなるとギルドカードに登録された魔力パターンと照合し、本人確認が終了したのだった。
次に依頼書に印字されているバーコードをバーコードリーダーで読み込む。
後はコンピューターが依頼書とギルドカードを自動で紐付けしてくれる。
「これで依頼の受付は完了です。依頼には硫化水素検知器を貸し出ししています。腰に着け、警告音が鳴ったら直ちに作業を終了してください。ギルドカードをお返しします」
ギルドカードと硫化水素検知器を受け取ると下水処理施設へと向かう。
移動中に腰に硫化水素検知器を着けた。
下水処理施設に到着すると警備員に話しかける。
警備員は前回のことを覚えており、依頼書を見せなくても奥へ通された。
警備員から下水処理施設の担当者に変わると下水入り口まで行く。
「前回どうように警告音が鳴ったらしゃがまないで帰ってきてください。長靴はそこのロッカーです」
「はーい」
「ではよろしくおねがいします」
エルシア達はマスクを着け、長靴に履き替えると下水道へ入っていった。
下水道を進み、生活魔法のクリーンアップで綺麗にしていく。
前回から時間が立っている為か下水道はヘドロで汚れていた。
下水道掃除の依頼を受けるものが居ないためだ。
「ほいほいほ~い」
手当たり次第にクリーンアップをかけて行く。
今日は朝から来ているため時間に余裕がある。
以前来た時より長い時間掃除することができる。
「魔力が続く限りやり続けるぞー!」
「がんばるな」
「終わったらレストラン行くんだ~」
ファルトはどうせオムライスだろうと予想したのであった。
「それにしても汚れてるよね~」
「だな。今回は前回より汚れてるよな」
「うんうん。綺麗にしがいがあるね」
しばらく2人でクリーンアップをかけて行くと途中からヘドロが何かに引きずられた後を見つけた。
下水道にホームレスでも入ったのかと思い、後で下水処理施設の担当者に報告をしておこうと思ったのだった。
「こっちに続いてるね~」
「そうだな。下水の中に落ちて引きずったのか?」
引きずった後ごと綺麗にしていくと腰に着けていた硫化水素検知器が音を鳴らした。
「わわ! 硫化水素検知器が反応してる!」
「これは危ないな。ここまでにして帰るか」
硫化水素検知器のブザーが鳴り響く中、何か引きずる様な音が聞こえてきた。
最初は聞き間違いだと思ったが確かに聞こえてくる音だった。
「何この音?」
「ホームレスか? おーい! 誰か居るのか!」
ファルトが叫ぶと下水道の曲がり角から何かが出てきた。
それは半透明の不定形をした魔物の様なものだ。
「な、何こいつ……魔物?」
「そんな事言ってる場合じゃないぞ! 来るぞ! 我の威を示せ、フレアブラスト!」
「我の威を示せ、アイギス=エモートアーチャー!」
迫りくる半透明の不定形をした魔物のようなものに魔法を撃ち込んでいく。
撃ち込まれた魔法により体を辺りに散らしながら迫ってくる。
それでも魔法を撃ち込み続けた結果、体を完全に散らし跡形もなく魔法で吹き飛ばされたのであった。
「倒した……?」
「おそらくな」
「これも担当者さんに報告しておこう?」
「ああ。まちなかに魔物が居るなんて危なすぎるからな」
硫化水素検知器のブザーが鳴り響くその場を後にするのであった。
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