76真・肝試し(下)
インビジブルゴースト討伐に向けたエルシア達が動き始めた。
別荘を出ると内側から鍵がかかる音がした。
それを確認した4人は先程魔物達が現れた雑木林へと移動していく。
アリスには今回の戦いで一番の敵であるカレンを相手にするにあたって自分のフィールドで戦い優位性を保つ方法を思いついていた。
それは剣の達人であるカレンに剣を持たせないことだ。
現在のカレンはインビジブルゴーストに憑依された際に剣を落としている。
その剣は鍵がかかった別荘の中だ。
「っ! 魔物だ! 聖なる言霊よ――」
「攻撃開始ぃ!! 我の威を示せ、ファイアランス!」
「あまり触りたくは有りませんね。我の威を示せ、アブソリュートゼロ」
「同感です。我の威を示せ、グランドクラッシュ」
エルシアの聖歌の時間を稼ぐべく各自が攻撃を開始した。
ゲルトラウドはファイアランスの連弾で燃やし、アリスはゾンビを凍らせ、ミルキーはそれを砕いていく。
「我が歌を以って浄化の聖歌となれ。私は貴方の悲しみを感じ――」
「数が多いな。我の威を示せ、フレアブラスト」
「臭い始めしたね。我の威を示せ、ニブルヘイム」
「それはゾンビですから。我の威を示せ、ラグナロク」
ゾンビは弱い魔物だが数が多い。
だが範囲攻撃魔法の行使で一気に数が減る。
しかし際限なく地面から這い出てくる。
「大切なあなたを救いたい。穢れし魂よ、原初の海へとおかえりなさい。そして全てに救いを与えられん」
エルシアの浄化の聖歌が発動し辺り一帯を包んだ。
インビジブルゴーストにより穢された土地が浄化され大気に含まれていた邪気も浄化された。
結果ゾンビ達アンデット系の魔物は浄化され存在を維持できなくなった。
「ヒュー! あんだけ居た魔物が一瞬かよぉ! すげーな!」
「流石私のエルシアさんです」
「相変わらず不思議な力ですね」
「ねえ、アリスちゃん? 今私のって言わなかった?」
「奥行こうぜぇ!」
「そうですね」
「ねーえ! 私のって言ったでしょ! ねーえ!」
先程ファルトが倒れていた場所に着くと、大量のゾンビの中にカレンが立っていた。
両者が見合うとしばしばにらみ合いが続いた。
月光が木々で再び遮られた時ゾンビ達が走り出した。
それと同時にエルシアが浄化の聖歌を詠い始める。
アリス達は遠距離から攻撃魔法で応戦するが先程より魔物の数が多く、更には憑依されたカレンが肉薄して来ているため直ぐに近距離戦闘に切り替わった。
カレンの相手にはアリスが対応し、魔物にはゲルトラウドとミルキーが対応している。
「聖なる言霊よ。我が歌を以って浄化の聖歌となれ。私は貴方の悲しみを感じ――」
その言葉にアリスと身体強化でやり合っていたインビジブルゴーストはエルシアを集中して魔物に狙わせた。
「こいつらエルシアを!?」
「人に憑依して知能を得ましたか……!」
「直ぐにカレンさんをノックアウトさせます。しばらく耐えてください」
「って、言われてもよぉ!」
「バラバラだった敵が一箇所に!」
「大切なあなたを救いたい。穢れし魂よ、原初の海へ――きゃ!」
インビジブルゴーストの命令により魔物が一点集中した結果、攻撃魔法では対応しきれず押し倒されてしまった。
エルシアは直ぐにエモート防御魔法を行使する。
「わ、我の威を示せ、アイギス=エモートセイバー!」
エルシアに乗りかかってきた魔物を左腕に展開したエモート防御魔法で頭を斬り落とす。
すぐに立ち上がるとゲルトラウドとミルキーに伸し掛っている魔物も斬り伏せた。
「サンキュー!」
「ありがとうございます。我の威を示せ、スフィアシールド」
ミルキーがエルシアとゲルトラウドを囲う防御魔法を展開した。
魔物たちは防御魔法に押し寄せバンバンと防御魔法を叩く。
ものの10秒もしない間にミルキーの防御魔法は魔物に包まれてしまった。
魔物の力は一体一体は大したことはないが、数が多いためミルキーに掛かる負荷も大きい。
「エルシアさん、長くは持ちません。聖歌を」
「はい! 聖なる言霊よ――」
エルシアが再び聖歌を詠い始めた時にはすでにアリスはカレンをノックアウトしていた。
剣を持たせれば右に出る者はいないが、体術でならアリスの右に出る者はいない。
「我の威を示せ、マナバインド」
アリスは結界魔法を用いてカレンを拘束した。
気絶はさせているがいつ起き出すかわからない為だ。
エルシアが浄化の聖歌を詠い切る直前、カレンからインビジブルゴーストが抜け出した。
アリスは瞬時に距離を取り神聖属性攻撃魔法の詠唱に入る。
「我が歌を以って浄化の聖歌となれ。私は貴方の悲しみを感じ――」
「我の威を示せ、ジャッジメントインパクト!」
インビジブルゴーストに強烈な一撃が入り動きが止まる。
それだけあれば十分な時間であった。
「大切なあなたを救いたい。穢れし魂よ、原初の海へとおかえりなさい。そして全てに救いを与えられん」
エルシアの浄化の聖歌が発動したのである。
ミルキーの防御魔法を包んでいた魔物たちは一瞬にて浄化され、インビジブルゴーストも例外ではない。
体の白い靄は強風に吹き飛ばされる埃の様に飛散する。
かくして夏の幽霊騒ぎは幕を閉じたのであった。
★
明かりが点いた別荘では改めて行われたリンネ達の説教が始まっていた。
その横にはカレンも正座をし、頭を垂れていた。
「アリスお嬢様。この度は誠に申し訳有りませんでした。死ねと申されれば何時でも剣にて切腹する所存であります」
「カレンさん、頭を上げてください。カレンさんはインビジブルゴーストと戦ってくれたではないですか。憑依されたことは否めませんが私達の為によくやってくれました」
「しかし、憑依されたことも事実。アリスお嬢様に拳を向けてしまった罰を与えてください」
「では……1ヶ月給料半額で許しましょう」
「ありがたきお言葉。このカレン、一生かけて償います」
「1ヶ月でいいですって」
「カレンさん頑固だねー」
カレンの話が終わり、リンネ達の話が始まった。
リュドミラが言いたいことがあると、よほどのことがない限り自己主張しないリュドミラがである。
リュドミラからはトイレに入りパンツを脱ぎかけたときにミルキーが変装して転移してきたためちょっぴり漏らしてしまったらしい事を聞かされ、本人は怒っているのか恥ずかしがっているのかわからないが顔を赤くしていた。
「まぁまぁ、リュドミラちゃんそんなに怒んないで……」
「そ、そうだぞ! 俺たちだってわざとやったわけではない」
「(ここは何も言わないほうが良さそうですね。BLの妄想でもしてましょう)」
リュドミラの説教は1時間に渡り続き、3人とも足がしびれてしまっていた。
いつの間にかアリスが3人の後ろに回り込んでおり説教が終わり足のしびれが最高潮に達したところにアリスは足を叩いた。
「ひぎぃ!」
「あぎゃ!」
「ひゃふん!」
「お仕置きです。これに懲りたらもう悪さをしないでくださいね」
そんなこんなで2日目の夜は終わったのであった。
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