75真・肝試し(中)
「ど、どういうことだい!? 白い靄も停電もヒューズが無くなってるのもミルキーがやったんじゃないのか!?」
「いえ。私は短距離転移でリュドミラさんを襲って拉致しただけですよ。白い靄なんて知りませんし、停電もたまたま起きただけなんじゃないのですか?」
「リンネ、これはもしかすると」
「うむ。トラヴィスもそう思ったのだね」
「オカルトだー!」
「キター!」
ミルキーを置き去りに2人で騒いでいると後ろに気配を感じ振り返った。
そこには笑顔のアリスが居た。
ピタっと動きを止めるリンネとトラヴィス。
「え、ええと、いつから居たのだね?」
「ミルキーがやったんじゃないのか。あたりです」
「そ、それは我々が何かやったんじゃないかと疑っている目かね?」
「ええ。詳しく聞かせてもらいますよ。リンネ部長?」
リンネ、ミルキー、トラヴィスが正座をさせられている。
目の前には笑顔だが目が笑ってないアリスが立っていた。
アリスがリンネ達から聞き出した内容は夏休みの思い出つくりの為の肝試し計画だった。
しかし、自分たちが始める前に不可思議な事象が起こり始めつい興奮してしまったという事だ。
「まあぶっちゃけ、我々を置いていった腹いせも含んでいるがな!」
「リンネ部長、炭鉱奴隷と銃殺どちらがいいでしょうか?」
「こ、怖いこと言わないでおくれよ」
「冗談です」
とても冗談に思えない声質に心底震え上がったリンネだった。
ファルトが出ていってから20分が経った。
流石に遅すぎるとエルシアが言い出した。
それに賛同するアリスとゲルトラウド。
「ファルトさん探しに行きましょうか」
「でも場所なんてわかるのかぁ?」
「ファルトさんは識別のアクセサリーを着けています。それを頼りに探しに行きます」
「そんなもん持ってたのか……」
リンネ達はリュドミラを別荘に戻すのとフローレンスの看病で残ることになった。
エルシア達はファルトを探しに行く。
別荘を出るとアリスが魔力波探知を行使した。
「ファルトさんは雑木林の方に居るようです」
「早速行こう! 我の威を示せ、スフィアシールド」
エルシアはもしも白い靄が襲ってきたときに備え防御魔法を行使し、3人分の大きさに展開した。
雑木林に入ると蝉の鳴き声がうるさいほど聞こえ始めた。
木々に月明かりが阻まれ辺りが一層暗くなる。
アリスが言うにはファルトはこの先から動いていないとのことだ。
雑木林の中を進んでいくと木の陰に足が出ているのが見えた。
「ファルト?」
声を掛けるが反応がない。
3人は近寄って足の主を確かめる。
それは木に背を預けたまま気絶しているファルトだった。
「ファルト大丈夫!?」
「ファルトさん!? 何がありましたか!」
「……どうやらファルトの事を構っている暇ァなさそうだな」
「え?」
エルシアが後ろを向くと何やら見た目はファイアボルトのような魔法が浮かんでいた。
それはどんどんと増えていき、あっという間に囲まれたのだった。
「なにこれ? なんか囲まれちゃった」
「なんでしょうか。ゲルトラウドさん見覚えは?」
「いや、無いな」
様子を見ていると何かを掘り返すかのような音が辺りから聞こえてきた。
エルシア達はその音が何なのだかわからなかったが、徐々に大きくなる音と一緒にあることに気がついた。
「これは邪気!」
それと同時に地面の中から腕が生えてきた。
いつぞやに見た物が出てくる。
腐った肉、飛び出た骨、生気のない目。
いわゆるゾンビである。
「こんなところに魔物ですか……。幸いまだ上半身しか出ていません。戻りましょう」
そう言うとアリスはファルトを背負う。
2人と別荘へと帰還するのであった。
別荘には外に隠していたリュドミラが戻されており、フローレンスの隣に寝かされていた。
ファルトもその隣に寝かすと直ぐに生活魔法ボディーカルテを行使した。
「我の威を示せ、ボディーカルテ……え? 異常なし?」
「異常なしですか? ではなぜ倒れていたのでしょうか」
そこまで調べているとインターホンが鳴った。
アリスとゲルトラウドが2人で玄関へと向かう。
いつでも攻撃できる状態で扉を開けた。
「よう。アリスお嬢さん、カレン戻ってねーか?」
「アレスさんでしたか。カレンさんならヒューズを買ってきてもらうために買い物に行っているはずですが」
「ん~? じゃあこの剣はなんだ?」
アレスはそう言うとカレンの剣を差し出した。
それを見たアリスはまだカレンの魔力が剣に残されていることがわかった。
すなわち近い時間にカレンが剣を使って戦闘した事実がある。
「この剣をどこで?」
「どこって、車庫の前だが……シャッター上げたままでどこほっつき歩いてるんだ?」
「アレスさんは今すぐゲート建屋に戻って建屋から出ないでください」
「何を言って……あぁ。あれだな! よし! 若人達よせいぜい楽しめよ!」
(なにか勘違いをしているような……)
玄関の扉を閉め皆が待つ床の間へと移動する。
「アリスちゃん、カレンさん帰ってきたの?」
「いえ、アレスさんでした。ヒューズの代わりにこれを」
そう言うと剣を見せる。
エルシアには見覚えがあった。
「カレンさんの剣? なんでそれがここに?」
「何者かと戦闘した痕跡があります。おそらくは敗北したのでしょう」
「そんな……」
エルシア自身もカレンの強さはわかっていた。
汽車での戦闘を見たからである。
「もう! 魔物は出るし、ファルトも倒れてるし、カレンさんも居なくなっちゃうなんてなんて日!」
「魔物?」
トラヴィスがエルシアの言葉に反応した。
「さっきファルトを助けに行った時、ファイアボルトみたいな火の玉とゾンビみたいな魔物が出てきたんです」
「オカルト!」
「キター!」
「リンネ部長、トラヴィス先輩」
「ひっ」
「ひえ」
底冷えた笑顔に怯えミルキーの後ろに隠れる2人。
ミルキーは魔導書を開くとページをめくり始めた。
「部長が言っていた白い靄、火の玉、ゾンビの様な魔物。情報から照らし合わせるに……これじゃないかと思います」
ミルキーはそう言うと魔導書のとあるページを開いた。
そこにはインビジブルゴーストと書かれている。
「この魔物は姿が見えない魔物になります。戦闘力はさほど高くないのですがインビジブルゴーストは憑依という固有能力が有り、憑依した対象の能力をそのまま行使することができます。強ければ強いほど、弱ければ弱いほど能力がかわります」
「では何故白い靄……インビジブルゴーストを追いかけたファルトさんは敗北してしまったのでしょうか?」
「インビジブルゴーストは神聖属性のエンチャントか魔法を使う必要があります。ファルトさんはそれを知らなかったのでしょう。憑依されなかったのは片翼だからとしか言えませんね」
「しかしカレンさんは……」
片翼であるがゆえに憑依されずに済んだが、純粋の人であるカレンは憑依されてしまったのだ。
しかもカレンは王国屈指の剣士である。
強さは折り紙付きだ。
「ゾンビの様な魔物に関してはインビジブルゴーストが召喚した魔物の可能性が高いです。そしてその場所にインビジブルゴーストは居ると思われます」
「リンネ部長とトラヴィス先輩は3人を見ていてください。エルシアさんとゲルトラウドさん、ミルキー先輩は付いてきてください」
「私とトラヴィスは行かなくても大丈夫なのかい?」
リンネの問いにアリスは答える。
「魔物が来るかもしれません。最悪の場合立て籠もりも有りえます。その時動けない3人を運ぶ人と応戦する人が必要です」
「なるほどな。力当番ってことだな」
「トラヴィスならファルト君も運べるね。いい人選だね」
アンデット特攻エルシアを守るゲルトラウドとアリス。
最悪の場合にミルキーを加えたパーティー。
ビーチボールの際に露呈したエルシアが使う浄化の聖歌の弱点。
時間がかかる聖歌を歌う時間稼ぎをするためのゲルトラウドとアリスだ。
今、夏の戦いが幕を上げる。
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