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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
4沈黙の夕焼け
73/113

73スキューバーダイビングの後は宿題




 午後スキューバーダイビングのインストラクターがやって来た。

 この後予定通りにダイビングをしようとするが2つ予想外な事が起きた。


「申し訳有りません。ダイビングスーツは通常の物しかなく、そちらのおふた方用ダイビングスーツが有りません。それと予約では5人ですのでそれ以上のご用意はありません」

「えー! 私達出来ないんですかー!」

「俺は出来なくてもいいけどな」

「ファルトも抗議して!」

「ダイビングスーツ無しで潜るのは低体温症の可能性や怪我などの可能性があるため出来ません」

「アリス君! スキューバーダイビングの計画までしてたのかい!? 我々は留守番か!?」


 インストラクターがそれを許してしまうとライセンスを剥奪される可能性がある。

 だが、それは一般人相手の場合だ。


「……ここだけのお話。生活魔法と防御魔法の組み合わせで何とかなります」

「本当ですか!」

「はい。お得意様だけのサービスですよ」

「インストラクターさんありがとうございます。私も事前に詳しく話しておらず、すみませんでした。リンネ部長達はいきなり来たのですから我慢してください」

「それではクルーザーで少し沖に出ましょう」


 アリス達はプライベートビーチの波止場に留まっているクルーザーに乗り込んだ。

 綱が外されクルーザーは静かに動き始める。

 中ではエルシアとファルト以外はウェットスーツに着替えている。


「ファルトは防御魔法使えないから私と一緒に潜るよ。生活魔法も私が使うからファルトは私を掴んでてね」

「おう」

「変な所掴まないでね」

「俺はへんたいおおかみさんじゃないぞ……」


 そこへもう1人のインストラクターがやって来た。

 必要な器材の説明を受ける。

 が、生活魔法と防御魔法を併用するためスクーバタンク、コンパス、時計しか使用しない。

 フィンの代わりにウインドの生活魔法で移動する。

 使わないと重力に引かれそのまま海の底へと落ちてしまう。


「以上だ。質問はあるかい?」

「大丈夫です」

「同じく」


 器材を背負うと、アリス達もスクーバ器材を背負って出てきた。


「はふー! はふーはふぁいふぃんふやふそー!」

「ゲルトラウド、スノーケルを外せ」

「ほお! はほーはは」


 スノーケルを外すと、バカでかい声で騒ぎ始める。


「初めてスキューバーダイビングするぜ! 楽しみだなァおい!」


 ワイワイ騒いでいる中、クルーザーが止まり最初に説明してくれたインストラクターが出てきた。


「私ども2人が引率します。先程説明した通り機材を使用してください」


 そう言うとインストラクターとエルシア達は海へとダイブしたのだった。

 

 海はどこまでも青く透き通っていて初めて海に潜るエルシアとファルトは思わず見とれてしまった。

 ガラス細工の様に綺麗な魚、色とりどりの珊瑚。

 何もかもが初めての光景だ。


(ふわ~綺麗―!)


 エルシアは器用に生活魔法を行使し移動していく。

 常時3つの魔法を行使している。

 体温を維持する生活魔法、体を保護する防御魔法、推進力を得る為の生活魔法だ。


 インストラクターがハンドサインで合図を出し近くの穴場を案内する。

 案内された場所は海に縦穴が空いており、色とりどりの魚の住処になっている。

 エルシア達は穴場を優雅に泳ぐと次の場所へと移動していった。





 その頃別荘にて留守番になっていたリンネ達はある作戦(・・・・)の計画を立てていた。

 それはミルキーの魔導書を使った計画だ。


「ミルキー。やはり夏と言ったら肝試しだと思わんかね?」

「そうですね。この季節には丁度いいと思います」

「俺の携帯型ゾンビ君も使うか?」


 トラヴィスが空気を入れてふくらませるバルーンを取り出した。

 それを見たリンネは頷くと、それも計画の一部に組み込んだ


「後は協力者だね。別荘の管理人を巻き込もうか」

「賛成です。アリスさんの身内を引き入れることは心理戦的にも効果が高いです」

「ではオカルト研究部早速行動開始だ!」


 リンネとミルキーはフローレンスを仲間に取り入れ今夜の計画を伝えようとする。

 困った顔をしていたが、夏休みの思い出つくりと言う名目でフローレンスはリンネ達の計画に乗ったのであった。


 そしてオカルト研究部の魔の手はゲート建屋にまで忍び寄っていた。

 コンコンっと扉を叩く音がする。


「はい。……貴方達ですか。なんでしょうか?」

「ぐがー。すぅー。ぐがー」


 アレスがいびきを立てながら寝ていた。

 カレンの機嫌も若干悪そうだ。


「ぜひ夏休みの思い出作りに貴方も協力していただきたい」

「私もです?」

「後ろで寝ている男性にも協力を仰ぎたい」

「さっき寝たばかりだから起きないわよ?」

「いえ、やるのは夜なのでお気になさらずに」


 夜と聞いて花火でもやるのかと想像したカレンだったが、トラヴィスが放った言葉で顔色が曇る。

 実は幽霊やアンデットの類が大の苦手であるのだ。

 カレンいわく、斬った時の感覚が気持ち悪いのである。


「私はゲートの守衛があるから参加できないわね! アレスなら参加するから伝えとくわね! それじゃ」


 バタンっと勢いよく扉を閉めてしまった。

 扉の前に立っていたリンネ達はキョトンとする。

 だが次の瞬間には口元を緩ませ悪い顔をしていた。


「さて、カレン守衛を巻き込むのは止めるとして、後は夜になるまで待機だね。我々の動きを悟られないように気をつけるんだ」

「もちろんです」

「携帯型ゾンビ君も設置してきたし大丈夫」

「フフフ。我々を置いていったことを心底恐怖させ後悔させてやろう!」

「おー!」「おー!」





 スキューバーダイビングを終え帰ってきたエルシア達。

 別荘に戻り風呂に入る。

 その際にリンネ達から感想を聞かれたが、皆なれていない事をしたのか疲れ果てていた。

 風呂の後は宿題の時間だ。

 リンネ達も持ってきており一緒にやることとなった。


「……で。なぜリンネ部長も私に教わろうとしているのですか?」

「この宿題難しくてね。頭のいい人に教わろうと思ってね」

「私はわからなくはありませんが、夜な夜な見たいビデオがありまして宿題が進まなくて困っていたところです。男と男の話は進むのですが! その先の展開も!」

「あー。ミルキーは病気なんだ。気にしないでくれ」


 一人で興奮してトラヴィスに止められるミルキー。

 ミルキーにひどい目に合わされたファルトとリュドミラは”相変わらず変わらない人だ”と思考していた。


 アリスは2学年分の勉強を教え、エルシアとゲルトラウドがめちゃくちゃな答えを出す。

 そして進むアリスのストレス。


(これは帰ったらエルシアさん成分を補給しなくてはいけませんね)

「アリスちゃんこれわからないー」

「はい。それは――」


 この時だけはのんびりとした空気が流れていた。

 夜、悲惨なことになるとは知らずに。







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