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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
4沈黙の夕焼け
72/113

72噂




 闇を見たゲルトラウドは尻を押さえながら逃げ出していた。

 ミルキーが持っていた本はそれほど恐ろしかった様だ。


「リュドミラちゃん! それはビーチボールだね? 我々を入れて8人、良い人数じゃないか!」

「丁度いいな。ゲルトラウド、俺たちのチームに入れ」

「な、何もしないよなぁ?」

「俺はミルキーじゃないから安心しろ。部長はどうだか知らないが」

「ひぃ」


 ビーチボールの組み合わせは4対4、エルシア、ファルト、アリス、リュドミラとリンネ、ミルキー、トラヴィス、ゲルトラウドとなった。

 若干ルールを知らないのも居るが、そこはやりながら覚える事となる。


「それじゃ行くぜ? 我の威を示せ、アルティメットフィジカルバースト。我の威を示せ、エンチャントハードコーティング! オラァ!」

(え!? 魔法使った競技なの?)


 身体強化を施しビーチボールに硬化の魔法を掛けた。

 エルシアはファルトが飛ばしたビーチボールを見て魔法を使った競技と錯覚していた。


「ファルト君! いきなり魔法か。いいだろう! 我の威を示せ、エンチャントファイアプロジェンション。我の威を示せ、フレアブラスト!」


 空中に魔法陣が展開され炎の暴風がビーチボールを押し返す。


「エルシアさんブロックを!」

「我の威を示せ、プロテクション! みらみら!」

「え?」


 アリスはエルシアまでもが魔法を使って競技しているのに唖然とした。

 いくらルールがわからないとは言え、こうも魔法が連続して行使されるとビーチボールのルールがゲシュタルト崩壊する。


「我の威を示せ、エンチャントエレクトリックレジスタンス。我の威を示せ、エレクトロスマッシュ!」

「ほらゲルトラウド、ブロックだ!」

「へ、へい! ――ブッ!?」


 魔法で強化されたビーチボールに触れた瞬間体に硬い衝撃と電気が流れた。

 ビーチボールは硬直したゲルトラウドの腕でバウンドすると空へと上がった。

 そこにミルキーがスマッシュを打つ。


「我の威を示せ、エンチャントナイトメア!」


 弱々しい一撃だがビーチボールからおどろおどろしい気が立ち込めている。

 それをトスしたファルトは思考が何十倍にも引き伸ばされた感覚に陥っていた。


『おう……ダーリン。今日は離さないぜ?』

『うほ! いい男!』

『アッー!』

「うわあぁぁぁ!?」


 ファルトに精神的恐怖が植え付けられ行動不能に陥った。

 すかさずエルシアがビーチボールを浄化の聖歌にて浄化する。


「〈聖なる言霊よ、我が歌を以って浄化の聖歌となれ。私は貴方の悲しみを感じ、大切なあなたを救いたい。穢れし魂よ、原初の海へとおかえりなさい。そして全てに救いを与えられん〉それ! アリスちゃん!」

「もうどうにでもなれですね。セイッ!」


 幾重にも魔法で強化されたビーチボールを限界まで身体強化したままのアリスが打つ。

 ビーチボールはトラヴィスめがけ高速で飛来する。

 

「我の威を示――フガッ!?」


 魔法を詠唱させる暇なくトラヴィスを沈め、得点を取ることに成功する。

 これで3対2である。

 もはや脱落者が出るビーチボールはビーチボールと言えず、魔法を使ったボール遊びに変わっていたのだった。


「やるねアリス君。男どもは全滅だ。ここから女の勝負と行こうじゃないか!」

「リンネ部長……もはやビーチボールとは言えない試合ですが負ける気は有りません」


 2人はそんな事を言っているが、まだ1セットも終わっていない。

 もっと言うならばまだ1点目である。


「ミルキー! エルシア君の聖歌は長い、もう一度やるんだ!」

「はい、部長。我の威を示せ、エンチャントナイトメア! それっ!」

「わわわ! 我の威を示せ、プロテクション!」


 防御魔法で弾いたビーチボールは空を舞いリュドミラの元へと落ちていく。


「はわわ~!こっち来ないで~!」


 リュドミラがコート内から逃げ出すが、それを追いかけるかのようにビーチボールの落下先が重なっていく。

 そして頭にビーチボールが当たる。


「あっ」

『今夜は離さないぜ? ショタ?』

『あっ。駄目です。僕には――』

『アッー!』

「ひゃふん……」

「みらみらー!」


 リュドミラは鼻血を流しながら倒れ込んだ。

 少し刺激が強かったようだ。

 これで2対2の同点である。

 

 ビーチボールを浄化すると再び試合が始まった。

 どちらも譲らない試合が続いたが体力差が途中から顕著に現れた。


「ぜぇぜぇ……。やるねアリス君。我々も……体力の限界……が、来たようだ」

「当然です。鍛え方が違いますから」

「だが、もうエルシア君は動けない様子。この勝負は貰ったよ! ミルキー、アリス君を落とすんだ!」

「わかりました。これでとどめです! 我の威を示せ、エンチャントナイトメアーズ!」


 アリス目掛けて呪われたビーチボールが飛んでくる。

 すでにエルシアは大の字で倒れている。

 

「くっ! 覚悟を決めるしかないですね……!」

「どちらにしてもそっちは実質1人! もう勝負は決まったものだよ! アリス君!」

「(こうなればビーチボールのルールに縛られていられない! 一撃で2人をノックダウンさせる!)我の威を示せ、ライトニングバーストエレメント=リコネクト。我の威を示せ、エレクトロン=リコネクト。我の威を示せ! カドルエレメントフォーム! ヤアッ!」


 雷撃がビーチボールへ向けられ軌道が反れる。

 呪われたビーチボールはリンネ目掛け落下を始めた。


「え? ちょ、まっ! ミルキー! 早く魔法を解くんだ! はや――あっ」


 リンネはその場に倒れ伏した。

 アリスは雷撃と砂鉄を組み合わせミルキーにもボールを飛ばす。


「へっ? はふん、最っ高!」


 ミルキーは夢心地になり、倒れていった。

 これで相手チームは全滅したのだった。





 昼過ぎ、一同は焼き肉を始めていた。

 突如加わったリンネ達3人分の肉が無いため全体的に少なくなってしまう。

 肉を焼くのは先日に引き続きゲルトラウドが行っている。

 

「いや~流石アリス君の別荘だ。こんなに美味しい肉を食べられるとは! 我々もいい後輩を持ったものだ」

「全くだ。この肉うめー」

「俺の肉がぁ……」


 ゲルトラウドは焼き肉をたらふく食べるつもりだったのだろう。

 3人も増えて肉は減るばかり。

 

「美味しいね~」

「美味しいねー」

「いい肉使ってんな」

「クソォ! 俺の肉がねぇ!」


 焼いても焼いても焼いたそばから肉がなくなっていく。

 そして残りの肉も徐々に無くなる。

 

「そう言えばアリス君。巷で噂になってる事を教えておこうと思うぞ」

「なんでしょうか?」

「最近エルデガーデンで行方不明の人が増加しているそうだ。調べた結果アリス君が蘇った日からだ」

「私は何も知りませんよ?」


 事実アリスがこの噂話を知ったのはリンネに今聞かされたからだ。

 テレビ、ラジオ、父アンソニーからも何も聞いていない。

 

「そもそも行方不明ってなんでしょうか」

「いわく、家族の目の前で突如消えたとかお手洗いに行ったきり戻ってこなかったとか。噂が一人歩きしちゃっててね。辿るの大変だったのだよ」

「まず消えるとは何でしょうか。短距離転移なら魔道具で再現出来ますが、長距離転移は膨大すぎる魔力量で実用化されていないでしょう? 魔道具で家出でもしたのでは?」

「それはありえないね。家族の目の前で消えたのは母子家庭の家族だよ。とても短距離転移の魔道具は買えない。それに消えた子は5才児だ」


 5才児では魔力操作など魔法に関することはまだ教わらない。

 魔道具の起動など普通は出来ない。

 それ故に行方不明とは扱え切れず噂程度に留まっているのだ。


「難しいですね。何が起こったのでしょうか……」


 アリスは難しい表情を浮かべて悩むのだった。






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