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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
4沈黙の夕焼け
71/113

71予定外の来客




 翌朝、エルシアが珍しく一番に目を覚ました。

 寝ぼけた頭で状況を整理する。


「んあ~。ん~? 確か昨日肝試しに出て……そこから記憶がない……。疲れて寝ちゃったのかな? まあいいや。トイレ……」


 欠伸をしながら部屋を出ると1階のトイレへと向かった。

 階段を降りるとフローレンスが朝食の準備をしていた。


「ん~。フローレンスさんおはようございます」

「エルシア様おはようございます。まだ朝も早い時間です。もうお起きになったのですか?」

「目が冷めちゃって。そっちのタオル掛かってるご飯は?」

「アレス様とカレン様の朝食です」

「よかったら持っていく?」


 エルシアは自ら手伝いを申し出た。

 フローレンスは自分の仕事なのでやんわりと断るが、エルシアがどうしても持っていきたいと粘る。

 根負けしたのかフローレンスは苦笑いをしながら朝食が乗った食器をおぼんで渡したのであった。


「別荘入り口のゲート建屋にいらっしゃいますので、すぐに分かると思います」

「はーい。行ってきますー!」


 おぼんを持つと玄関の扉を開け外に出る。

 別荘の入り口ゲートまで歩いていくと扉をノックした。

 中からは眠そうなアレスの声が聞こえてきた。


「ふ~い。お、エルシアじゃねーか。どうした?」

「これ朝食です」

「うっしゃ! 飯か! カレンを起きないうちに食べて――」

「誰が起きないうちにですって?」

「げえ……起きちまった」


 アレスは心底残念そうにしていた。


「エルシアちゃん。持ってきてくれてありがとね。アレスにはきつーく言っておくから」

「あはは……」


 おぼんをカレン渡すと別荘に戻った。

 後ろから騒ぐ声が聞こえてきていたが気にしないことにしたのだった。

 別荘の中に入るとフローレンスがリビングのテーブルに朝食を並べている。


「あ、もうご飯になりますか?」

「そうですね。後は飲み物を注ぐだけですので、エルシア様はお席にお座りください」

「はーい(ご飯おいしそう)」


 フローレンスは5人分の飲み物を注ぐと2階に上がっていった。

 程なくしてアリス、リュドミラが起きてきた。

 それに続いて1分程経った後ファルトとゲルトラウドが降りてくる。


「それでは食べますか。いただきます」

「いただきまーす!」


 朝食は軽めの物を中心にした物で出来ており、デザートにプリンが用意されていた。

 もちろん手作りで、昨晩のうちに仕込んでいた物だ。

 甘さ控えめで糖質にも気をつけている。

 これには一同舌を唸らせる。


「美味しすぎてほっぺたが落ちそう……」

「確かに美味しいな」


 朝食を終えると、ゲルトラウドとリュドミラは先に海へと向かった。

 エルシア、ファルト、アリスは魔力探知の練習を少ししてから行くことになっていた。


「魔力を薄く広げてください。魔力が空白の場所が探知位置です」

「難しい……」

「ねー」


 2人は魔力を辺りに流すことは出来ている。

 しかしやはり空白を知る事ができない。

 魔力を広げるのに(むら)があるのか、思うように出来ていないのだ。

 アリス自身もそれに気がついており、手本をもう一度見せることにした。


「エルシアさん、ファルトさん。お手本見せてあげます。感覚で覚えてください」

「感覚って言われてもなあ」


 アリスは魔力探知を使うと、わざとエルシアとファルトに魔力をまとわりつかせる。


「なんかモヤモヤする」

「とりあえず対象に魔力をまとわりつかせると良いかもしれません」

「どうしてだ?」

「魔力探知は空白を知ることです。つまり言うと空白の空間を魔力で囲ってしまえば明確な目印ができる訳です」


 エルシアはアリスに言われた通り魔力を薄く広げ、自分にエモート防御魔法を掛ける要領で魔力探知を発動させた。

 範囲は別荘内部だけに限定し、全員に魔力をまとわリつかせた。

 

「あ! なんとなくわかりやすいかも」

「そうか? 俺もやってみるか」


 ファルトも魔力探知を発動させると別荘にいるフローレンス、アリス、エルシアが感じ取る事ができた。


「出来ましたね? 後は徐々にまとわリつかせている魔力を消していきましょう。今のままでは相手に知れてしまいますので」


 アリスの指示の元魔力探知の精度を上げていく練習になった。

 始めてから20分ほど経つとフローレンスが訪ねてきた。


「アリスお嬢様。少しお話が」

「はい。なんでしょうか?」


 フローレンスがアリスに耳打ちする。

 それを聞いて苦笑いをするのであった。


「エルシアさん、ファルトさん、少し席を外します。すぐ戻るので先に海行っていてください」

「うん。わかった」


 そう言うとアリスは別荘からゲート建屋に向かった。





 ゲート建屋前まで来ると、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。


「だから我々はアリス君の先輩だと言っているじゃないか!」

「そうです! アリスさんとは海より腐かーい仲なんです!」

「本当か~? そこのお前今言葉が変じゃなかったか?」


 扉をノックするとカレンが扉を開けた。

 カレンも来客の対応に困っていたところだった。


「あ、アリスお嬢様。今アリスお嬢様の先輩と名乗る方々が押しかけてきまして……」

「先輩?」

「中へどうぞ」


 中に入ると、鉄格子の付いたカウンターを通してアレスが話していた。

 そこには海を満喫する気満々のリンネ、ミルキー、トラヴィスが居たのだ。

 アリスはこの3人を今回の海旅行に誘ったつもりはなく、なぜこの別荘を知っているのかが気になった。

 リンネ達がアリスに気がつくと手を振っている。


「リンネ部長! ミルキー先輩にトラヴィス先輩もどうしてここに?」

「アリス君! 我々を置いていくなんて酷いじゃないか! 仮にも学園の先輩じゃないか」

「いえ、今回は仲が良い御学友と……」

「私達は御学友じゃないのですか!?」

「い、いえ。そんなことは――」

「だったらここのゲートを開けるんだ! 今すぐ海に入りたい!」

「……はい……」


 ゲートが開けられリンネ達が別荘の中に入る。

 アレスとカレンはなんとも言えない顔をしているが、アリス自身もなんとも言えない気持ちだった。

 




「ファルト、海いくよー」

「はいよ」


 水着に着替えリュドミラとゲルトラウドが待つプライベートビーチへ向かった。

 ビーチではリュドミラがボールに空気を入れていた。


「みらみら何してるの~?」

「あ、えるえる~。今ね~ビーチボール用の柔らかいボールに空気入れてるの~」


 足で踏みながら空気を入れるフットエアーポンプを使っていた。

 ゲルトラウドはビーチにネットを刺している。


「ところでアリスさんは~?」

「なんかねー、フローレンスさんが来てどっかに行っちゃった」

「どこに行ったんだろ~ね」


 空気を入れ終えたリュドミラはビーチボールを持ち上げた。

 

「空気満タン~」

「アリスちゃんが来たら始めようね~」


 すべての準備が終わった後、アリスがやって来た。

 その後ろには水着に着替えたリンネ達も居る。


「あれ~? リンネ部長達なんで居るんですか~?」

「リュドミラちゃん! 我々を置いていくなんて酷いじゃないか! オカルト研究部の絆はどうした!」

「俺たちってそこまであったっけかぁ?」

「ゲルトラウドさん。あなたにはこのBL本と同じめにあってもらいますか」

「いぃ!? それは勘弁してくれ!」


 ミルキーがBL本を開くとそのページをゲルトラウドに見せた。

 そこにはとても言い表せないかのような闇を見たのだった。






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