70食後は肝試し
リビングに行くとそこには綺麗に捌かれた魚と白米が置いてあった。
それにリュドミラが反応した。
「これって~生魚?」
リュドミラの質問にフローレンスが答える。
「はい。生魚を捌いた物になります」
「……前、生魚食べてお腹壊したんだよね~。それになんか生臭かったし」
「それには及びません。今回の魚を仕入れた先はここより東にある王国の端にあるデイブック諸島で採れた魚です。寄生虫はすべて確認し入っていないことを確認しています」
「う~ん」
「リュドミラさん。食べてみましょう。美味しいかもしれませんよ」
そう言うとアリスは席についた。
続いてエルシア達も席についていく。
「では食べる前に1つ注意を。この緑色の薬味を切り身の片側につけ、醤油を反対側につけます。これで食べてください」
「この緑の薬味ってなんだろ~」
リュドミラは恐る恐る言われた通りに薬味をつけると口に入れた。
次の瞬間鼻に抜ける様なツーンっとした味がした。
「ふえぇぇ~何今の~」
「これはわさびと言います。わさびには抗菌作用が有り食中毒の原因となる細菌から寄生虫を抑制する効果があります。ツーンとした風味は魚の生臭さを消す役目が有り、アリルカラシ油……わかりやすく言うとマスタードと同じですね。この成分がわさび特有の風味を出します」
「へえ~。わさびってすご~い」
「白米も合うのでそちらもぜひ」
リュドミラはすっかりわさびの虜になり魚の切り身を堪能するのであった。
夕食の後、待ちに待った肝試しの時間がやって来た。
リュドミラは先程から冷や汗をかいている。
「よぉし! クジで組決めるぞ!」
「おー!」
(しめしめ……クジなんてはなからねぇんだよ。俺が決めた組になるんだよぉ!)
ゲルトラウドが作ったクジで引いた結果次のようになった。
1組目エルシア、アリス。
2組目ゲルトラウド、ファルト。
3組目リュドミラ。
「ちょっと~! なんで私だけ1人なの~!?」
「だってしょうがないだろぉ? 俺たち奇数だし」
「そんなこと言ったって~!」
「リュドミラさん。頑張りましょう」
「そんな~」
ゲルトラウドがわざとらしく咳払いするとルール説明を始めた。
「この棒きれに名前を書いたやつをこのプライベートビーチの奥に置いてくる。それを持って帰ってくるだけの簡単なルールだ。待機組は脅かし役。出発組は待機組が出て10分したらスタートだぞ」
「ふふ。この私を脅かせられますか?」
「上等! やってやるぜぇ!」
ゲルトラウドは名前の書いた棒きれをビーチの奥にわかりやすい様に突き刺して戻る途中、始まってからでは準備ができないような脅かしトラップを設置して帰るのであった。
「遅かったですね。そんなに設置するのに時間がかかったのですか?」
「はて、なんのことだぁ? 棒きれはビーチの奥だぜ。おーい、ファルト、リュドミラいくぞー!」
「エルシアさん。今回は私の後ろに隠れておいてください」
「え? どうして?」
「決着をつけなければならないようです」
「??」
ルール通り10分が経過し、エルシアとアリスがビーチの奥へと進みだした。
言われたとおりアリスの後ろにエルシアが歩いている。
「――脅かしトラップ発動! 空飛ぶシーツ丸太!」
エルシアもアリスのどちらも堂々としている。
リュドミラの様に怯えたりはしていない。
ビーチへと出る門を通過した時、アリスに影が降りた。
「! そこッ!」
「え?」
エルシアは反応する暇なく鈍い音が3回鳴った。
常時発動している身体強化により超反射で空から降ってきていたシーツが被った丸太を3つ連続で蹴り打ち抜いていたのだ。
「ひぇ」
「大したことないですね。エルシアさん大丈夫でしたか?」
「う、うん……大丈夫」
一瞬のことで呆けてしまったが、気を取り直して奥に進む。
「チッ! 失敗か」
道中ファルト、リュドミラによる脅かしが有ったが、最初ほど呆気にとられる脅かし
では無いので動じず進む。
リュドミラの場合逆に笑ってしまっていた。
「大したこと無いねー」
「えぇ。所詮虚仮威しです」
「アリスちゃん強いねー」
「日頃の鍛錬のおかげですよ。エルシアさんも鍛えますか?」
「え、遠慮しておく……」
海辺に出た2人。
遠くに棒切れが5本突き刺さっているのが見えた。
それを見たエルシアがアリスを抜いて走り出す。
「み~っけ!」
「あ! エルシアさんいけません!」
アリスが叫んだ瞬間エルシアがアリスの視界から消えた。
「脅かしトラップその2発動! 蠢く虫の落とし穴」
アリスが急いで近づくと、エルシアの悲鳴が響き渡る。
「ひぎゃあああぁぁぁ!」
「エルシアさん!?」
アリスが見たのは落とし穴の中で大量の虫に突っ込んでいるエルシアだった。
これには流石にアリスも引く。
落とし穴からエルシアを助け出すが、ショックで気絶してしまっていた。
「……これは流石に気絶しますよね」
エルシアから虫を払うとそのまま背負い2人分の棒きれを回収し、別荘に戻るのであった。
出発地点の別荘にはすでに3人が戻ってきていた。
「チッ! アリスじゃなくてエルシアが引っかかるなんて」
「えるえる大丈夫~? ……大丈夫じゃないよね……」
「エルシアはリタイアか」
ファルトがアリスの代わりに背負って行きベッドに寝かせてきたのだった。
次の出発組はファルトとゲルトラウドだ。
脅かし役はアリスとリュドミラだけ。
そしてリュドミラは使い物にならない。
(私が一発大きいのを見せつけるしか無いですね……。どうしましょうか。やはり私の強みを生かして行くしか無いでしょうね)
「アリスさん、よ、よろしくね?」
「えぇ。よろしくおねがいします」
2組目が始まり、ファルトゲルトラウド行く。
リュドミラは驚かせようと果敢に攻める。
が、逆に笑われ涙目になって帰ってくる。
「アリスさ~ん。なんで私笑われるの~!」
「まあまあ……フフ」
「アリスさ~ん!」
ファルトとゲルトラウドは余裕の一言で棒きれを回収する。
2人で笑いながら振り返るとシーツを被った人がいた。
またリュドミラかと思い笑いながら近づくと、突然雷が発生し周囲に黒い粉のような物が漂い始めた。
「りゅ、リュドミラじゃない!? アリスか!この黒いのは……いてぇ!」
今2人の周りに漂っているのは海から浜辺に溜まった砂鉄である。
それがアリスの雷から発する電気を通電し電気の砂鉄結界を構成しているのだ。
ゲルトラウドはそれに触れ電撃が体に流れた。
「ま、魔法なんて卑怯だぞォ!」
「オオオオオォォォ」
アリスは身体強化された拳をゲルトラウドの顔面横に突き出した。
衝撃波が発生し、拳の射線上にいたファルトがよろけ倒れた。
「ひ、あ、あああアリスぅ~? 今のはあたってたら死んでるぞぉ……」
ゲルトラウドは腰を抜かし地面に座り込んだのだった。
2人が戻るとニコニコ笑顔なアリスの姿があった。
「エルシアさん。敵は取りましたよ」
「だぁー! 次はリュドミラだ! 脅かし役行くぞ!」
無理やり場を進ませると、そそくさと行ってしまった。
これにはファルトも苦笑い。
脅かし役が出発してから10分。
リュドミラは顔を青くしながら立ち尽くしていた。
「やだよ~。行きたくないよ~。でも行かなきゃ……」
リュドミラが一歩歩き始めた瞬間それは起きた。
「脅かしトラップ速攻発動! ひんやり保冷剤」
冷凍庫で冷え固まった保冷剤がリュドミラに飛んできたのだ。
それはたまたま服の中に入りリュドミラは混乱した。
「ひやぁああ~! あばぶひぎや! 何々! ちゅめたい! あひゃああ」
「ぶっ! 効いてる効いてる」
影でゲルトラウドが笑っている中混乱したリュドミラは叫び続けていた。
手足をバタバタさせながら涙目になり、ついには地面に倒れ込んでしまった。
その後2,3度体をビクつかせると動かなくなる。
「ん? 動かなくなったぞ? ゲルトラウドやりすぎたんじゃ」
「まだ1手しかやってねぇーよ。気絶でもしたんじゃねぇ?」
「リュドミラさん怖がりですし、限界だったのではないでしょうか」
「しょうがねぇ。起こしてくるわ」
肝試しは気絶2人と言うなんとも言えない結果に終わったのであった。
「☆☆☆☆☆」を押して応援していただけると嬉しいです!




