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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
1出会い
7/113

7結界を越えた先





 翌朝コクリコクリとしているとエルシアが起き出した。

 その音に体が反応し目を開ける。


「うー。おはよーファルト」

「あぁ、おはよう。朝食無くて悪いな。朝のうちに森を抜けようと思ってな」

「うん。大丈夫。……? ファルト、どこか悪いところがある?」


 そう言われて体に若干怠さや節々に痛みが有ることに気がついた。

 しかし行動に支障をきたさないレベルだったため”なんでもない”の一言で片付けてしまった。


「そっかぁ。じゃ! 行こう! 魔法は結界の端で使う必要があるから少し歩くね」

「分かった。さっさと街に降りて飯でも食おうぜ」

「お金あるの?」

「タダ食いだ、タダ食い」

「そんなのだめだよー!」


 などとやり取りをしながらどこかわからない結界の端に向かって歩いていく。

 3時間ほど歩き、2人が無言になった頃エルシアが立ち止まった。


「うん! ここかな?」

「そんなものか? 頼むぜ」

「任せて! 我の威を示せ! アン・シィーマ・バンダ!」


 森の空間が目に見えて歪み始め、やがて限界まで空間が歪んだ時ガラスにヒビが入る音が森全体に響き渡り、結界が砕けた。


「ハァハァ……ファルトやったよ!」

「すごいな……よくやったぞ」


 頭を撫でる。

 嬉しそうに目を細め、顔を赤らめる。


「街に行って飯でも食おうぜ!」

「無銭飲食は駄目だよ!」


 街へと出る喜びに胸が躍る2人。

 再び森の中を歩き出し始めた。


 しばらく歩くと霧がかかり始める。

 霧はどんどんと濃くなり視野が3メートルほどになってしまった。


「はぁはぁ……霧濃いね。ケホケホ」

「そうだな。それよりさっきから息苦しそうだな? 大丈夫か?」

「だいじょ――」


 エルシアは口に手を押さえ、喉から込み上がってきたものを手に吐いた。


「……手が赤い? え? これ……私の、血?」

「お。おい!」


 その瞬間エルシアは崩れ落ち意識を失ってしまった。

 ファルトが抱き上げ、揺さぶるが反応がない。

 急いで街まで降りようとエルシアを持ち上げようとしたが、あんなに軽かったエルシアの体を持ち上げただけで体が悲鳴を上げた。


「くっ……。共倒れだけは避けないとな!」


 ゆっくりと歩き倒れないように進んでいく。


 何分過ぎただろうか。

 1分それとも10分か。

 すでにファルトも限界が来ていた。


 少し開けた場所に出ると霧が晴れてきた。

 そこには森には似合わぬレンガ作りの家が1軒立っていた。


「はぁはぁ……あの、家に。誰か居な、いか?」


 玄関口まで行くと扉を叩いた。

 すでに体力の限界を超え、扉が開いたのを見て体から力が抜け、崩れ落ちてしまった。

 そして家から出てきた男性はそれを見て言葉を発した。


「これは……そう言うことかのぅ」


 男性は2人を家の中へ運び入れると玄関の扉を締めた。





「さて、今日は何をしようかの」


 そんな言葉を漏らしながら紅茶を飲む老人、ネルガン・ソニトンが家の中に居た。

 ネルガンは森に住まう賢者であり、森を守っている人である。

 そんな緩やかな時間の時森の結界が破壊された気配がしたのだ。


「森の結界が破壊されたじゃと!? 内側からか! こうしてはおれん、すぐに準備を……杖どこにやったかの? はて?」


 家の中を探し回り続け、杖をやっと見つけた。

 さて行くぞと思いきや火を消したか心配になりキッチンに行ったりと右往左往しているうちに数分が経っていた。


「よし! 今度こそ行けるぞい」


 ドンドンと扉が叩かれた。


「今度は何じゃ! 今儂はいそがしい!」


 扉を開けると玄関で倒れている右片翼の天使と左片翼の悪魔が倒れていた。

 それを見て長年の勘がピコーンと反応した。


「これは……そう言うことかのぅ」


 ネルガンは2人を家の中に引っ張り込む。


「男の方は重い……腰に悪いわ! 女の方は……これはいいスタイルじゃのぅ。む? コヤツ魔力性重度身体障害もちじゃな? 結界を壊した魔力で体がやられたか。男はインフルエンザかのぅ」


 2人は別々の部屋に移された。

 別々の部屋にしたのは病気が伝染らないように隔離の目的が有る

 ファルトには薬を飲ませ、エルシアには回復魔法を掛ける。

 今1番危ないのはエルシアだ。


「この手の障害は最初が肝心。まずは回復魔法を掛けてから、魔力を安定させるのじゃ」

 

 処置をされてからのエルシアは先程まで荒かった息も落ち着きを取り戻し、今は寝息を立てている。

 しばらく様子を見て大丈夫だと確信したのち、次はファルトの方へ向かった。

 マスクを着け部屋にはいる。


「この時期流行る病気じゃからのぅ。先程薬を飲ませたが……」


 ファルトの額に手を当てる。


「ふむ。高熱じゃな。この薬も飲ませておこう」


 ネルガンは追加で薬を飲ます。

 ゆっくりと水を飲ませ、疲労した体に水分与える。

 そして汗を拭う。


「これで大丈夫かの。さて、紅茶でも飲もうか……」




「うう……ん……。あ、れ? ここはどこだろう」


 エルシアは目を覚ました。

 窓の外を見ると夜のようだ。


「たしか私息苦しくて……血を吐いちゃって……あっ! ファルトは!」


 ベッドから立ち上がろうとして胸が苦しくなり蹲ってしまった。

 胸を押さえ荒い呼吸をする。

 その音を聞いてか扉の外から足音が聞こえてきた。


「はぁはぁはぁ! くる、しい……ゴホゴホ! 誰か――」

「どうしたんじゃ! まだ起きてならん! 寝ておれ。我の威を示せ、ボディーカルテ。……我の威を示せ、ヒール」

「はぁはぁ……あ、ありがとう、ございます……」


 エルシアは老人の手当を受け、荒い呼吸を整えていく。

 深く息を吸い、深く息を吐く。

 それを繰り返していくうちに胸の苦しさが和らいできた。


「はーふー。はーふー。だいぶ良くなりました。ありがとうございます!」

「よいよい。面白いものも見れたしの」

「面白いもの? あ、私エルシア・エル・シフォーニといいます」

「儂はネルガン・ソニトンじゃ。今日はもう寝たほうがいい。体がまだ治ってないからの」

「はい。でもファルトが」


 エルシアはネルガンにファルトのことを伝える。

 するとネルガンはすでに治療中と伝えた。

 それを聞いて安心したのかベッドに吸い込まれるかのように意識を手放した。



 翌朝、小鳥の囀りと共にいい匂いが漂ってきた。


「んー。スープの匂い……。スープ!?」


 ベッドから起き上がると、匂いの元へと鼻を利かせ歩いていく。

 匂いの元にたどり着くと、昨晩の老人ネルガンが料理を作っていた。


「おお、起きたかの。ただし! 走ったり魔力を使ったりしたら駄目だぞ」

「あ、はい! わかりました! いい匂いですね、それスープですよね!」

「そうじゃ。たまに買いに行く街で買ってきたのだ」


 エルシアはキッチンに入ると鍋の中を覗き込んだ。

 中は赤く説明ではトマトを使っているらしい。

 そこに玉ねぎ塩ニンニクのすりおろしが入っていて良い香りがしていた。


「この季節は冷たいトマトスープより温かいほうが良いと思っての。こうやって温めておる」

「いいですね! ファルトを起こしてきます!」


 そう言ってキッチンから出ようとしたがネルガンに止められた。


「駄目じゃ。ファルトは今感染力が高い病にかかっておる。部屋は結界で塞いでおる。食事とトイレは自分でしてもらうがそれ以外は隔離だな」

「そ、そんなぁ」

「とりあえず朝食にするかの。ほれ、リビングに行くが良い。朝食はトマトスープとパンじゃ。エルシアの恋人にも渡してくるからの」

「ここここ、恋人!? ち、違うんです! そんなものじゃ」


 そんな事を言われ顔がトマトの様に真っ赤になるエルシアだった。







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