68バーベキューをする
エルシア達が海に入りビーチボールを投げあいながら遊んでいる中、ファルトとゲルトラウドは地面からの脱出に挑んでいた。
2人は首まで埋められているため砂浜とは言え力を込めてもびくともしない。
しかし魔法による身体強化がある。
「我の威を示せ、アルティメットフィジカルブースト」
「ふんぬうぅぅ! ここでただ見ているだけなんて男として恥ずかしい! なんとしても脱出してみせるぜぇ!」
ゲルトラウドが唸り声を上げてる隣、ファルトは片腕が砂から出た。
「よし良いぞ! その調子で脱出しろ! ふんぬうぅぅ!」
ゲルトラウドは身体強化された体で必死に抜けようとするがびくともしない。
ファルトとゲルトラウドでは身体能力に差がある。
片翼と言えど純粋な人間より力はあるのだ。
もう片腕が砂から出ると、そのまま砂浜に両手を付き力を込めた。
「ふん!」
「お、抜けたな。 さぁ俺を引っ張ってくれ!」
「ちょっと待て、片腕も出てないから少し掘る」
砂を手で掘り進める。
肩が見えた辺りで脇下に手を入れると思いっきり引き上げた。
無事砂の中から脱出した2人はエルシア達が居る海へと向かっていく。
「おーい! 俺たちも混ぜてくれぇ!」
「来たね変態~」
「来ましたね」
「なんだよぉ! きちんと反省したって! な? な?」
ゲルトラウドが建前で話す。
それを怪しんでいるエルシア達はファルトに問いただした。
「ファルト? 本当に反省したの?」
「本当だぞ。俺は嘘をついてない」
「”俺は”ですか……」
ファルトの言い方に引っかかりを覚えたアリス。
当然エルシア達の視線はゲルトラウドに集中する。
「な、なんだよ?」
「私、実はこの間の事件から常に身体強化を限界まで掛けてるんですよ」
「そ、それで?」
「こうやって足で水を蹴ると――」
アリスが海水を全力で蹴り上げる。
蹴り上げられた海水は大波の様に水しぶきを上げゲルトラウドを飲み込んだ。
「ぬわー!」
(おお、こわいこわい)
「それじゃ~変態も沈んだことだし、遊ぼう~」
ゲルトラウドは少し離れた位置で浜辺に打ち上げられたのだった。
エルシアは人一倍海を堪能していた。
2時間ほど休憩もなしに遊んでいると徐々に体が重たくなってきた。
翼が海水に濡れ重くなっているのだ。
「翼重い……。今ほどこれが邪魔になるなんて思わなかった」
「エルシアさんとファルトさんは翼がある分、体が重たくなってしまう。しかも片翼で重心も変わるので大変というわけですね」
「そうそう、それそれ!」
「大変だね~」
「そろそろお昼にしましょうか。カレンも帰ってきてるでしょう。バーベキューの準備です」
アリスの言葉が聞こえていたゲルトラウドは信用回復のためいち早くバーベキューの準備を始めていた。
別荘倉庫からバーベキューコンロと鉄板、燃料炭を持ち出しプライベートビーチに設置した。
食材まで運ぶのは出来なかったため、そちらはエルシア達に任せる。
エルシア達が戻ってくる間に炭バサミで燃料炭を掴みバーベキューコンロへ入れていく
「よし! こんなもんだろ」
「あ、へん……ゲルトラウド~準備してたんだ~」
「道理で探してもないはずだ」
ファルトは折りたたみテーブルを抱え、エルシア達は紙皿と食材を載せたトレイを持っている。
テーブルを設置するとそこに食材が乗ったトレイを置く。
「我の威を示せ、ファイア」
網を一旦外し生活魔法で燃料炭に火を付ける。
そして網を戻すと食材を焼き始めた。
「肉……!」
「エルシアさん、肉だけではなく野菜も食べるんですよ」
「はーい」
ゲルトラウドが食材をコンロに移し、箸で焼き加減を見る。
どんどん食材を載せ焼いていく。
「よぉーし! 肉焼けたぞ!」
それぞれが焼けた肉や野菜を箸で摘んでいく。
「あっ!」
「もーらい」
リュドミラが食べようとして育てていた肉をゲルトラウドに食べられたのだ。
それに対してリュドミラは頬を膨らませた。
「それ私の~!」
「早いもん勝ちだよ」
「ぐぬぬ! ……! これも~らい!」
「みらみら……それ私の……」
「えっ?」
リュドミラが取った肉はエルシアの育てていた肉であった。
それにポカーンとしているとゲルトラウドが残りの肉を取っていく。
「ゲルトラウドさん、野菜も食べましょう」
「わかってらぁ!」
焼き加減が良い野菜を取る。
ゲルトラウドは以外にも料理が得意なようだ。
慣れた手付きで肉と野菜を焼いていく。
「ん~? そろそろ食材も少なくなってきたなぁ。よし! 残った食材で焼きそば作るか!」
「それで麺があるんですね。カレンさんもバーベキューやったことあるのかしら」
カレンの事で妄想を膨らませているアリス達。
黙々と焼きそばを作るゲルトラウド。
辺りに焼きそばの良い匂いが立ち上る。
「いい匂い~焼きそば美味しそう~」
「だろぉ~? 俺のは美味いぜぇ!」
5人はバーベキューを存分に楽しんだ後、後片付けをしていた。
エルシア達女性陣3人は使った箸、紙コップ、紙皿などを片付けている。
ファルトとゲルトラウドは重いコンロや鉄板類を片し始めていた。
「アリスー! ちと水バケツ持ってきてくれねぇ?」
「いいですよ」
「サンキュー」
ゲルトラウドが炭の後片付けをしている所にファルトが横から声をかけた。
「ゲルトラウド、炭なんてそこら辺に埋めれば良くね? 元々木だろ?」
「おめぇ馬鹿か! 炭は炭素だ! 土に埋めても自然に還るわけねーだろ!」
「そ、そうなのか……。灰はどうすんだ?」
「炭は少量ならその辺の土に巻いておけばいい。肥料になるからな」
「その辺に捨てられないから水バケツで火を消すんだな」
「そうだぞ。炭はなぁ、使い終わった後も丸一日以上残り火が残るからな。水バケツで炭中心まで鎮火させる必要がある」
炭を扱う知識をゲルトラウドは持っていた。
確かに炭は火が消えたと思っていても消えておらず火事になることが暫しある。
使用した炭は火消し壷で酸素を無くし火を消すか、水バケツで10分から20分つけておく必要があるのだ。
「水バケツ持ってきましたよ」
「お、来たか」
炭バサミで赤く赤熱している炭を水バケツに入れていく。
じゅうっと言う音とともに炭が水に沈む。
すべての炭を水バケツに沈めると、コンロの灰を片付ける。
「よぉし、後は明日にでも燃えるゴミに出せばいいだろ」
「じゃ、俺は鉄板洗っとくからコンロと炭の処理任せた」
ファルトはそう言うと鉄板を持ち別荘まで戻っていく。
別荘にはすでにエルシア達女性陣が戻っており、厨房で箸や肉を摘んだトングなどを洗っている。
特にエルシアは若干濡れている翼と海で遊んだ疲労により気だるそうにしていた。
「早くお風呂入りたーい」
「エルシアさん、洗い物が終わったら入りましょう」
「おっふろ~おっふろ~」
「その後宿題ですからね」
「うえ~」
アリスが手早く洗い物を済ますと、エルシアとリュドミラの物まで洗っていく。
普段家事をしていない事がバレるエルシアとリュドミラであった。
洗い物が終わり、ファルト男性陣も戻ってきた。
アリスは先に風呂に入る事を告げる。
すでに着替えが手元にある。
「ファルトー。今度は覗きとか聞き耳はだめだからね?」
「ははは……。わかってるぞ(目が笑ってないぞ)」
「ゲルトラウドもだからね~」
「チッ、あ、なんでも無い。わかってるって!」
半信半疑で洗面所の扉に手をかける。
最後までファルトとゲルトラウドを信用していない目だった。
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