65その会話筒抜け
「それにしてもその力は危険だな。リンネとミルキーもそう思うだろ?」
「そうですね。とても危険な力です」
「アリス君この事は君のご家族にも話さないほうがいい」
「どこから漏れるかわかりませんからその方が良さそうですね」
エルシアとファルトの力はここに居る6人の心の内に留めておくことになった。
しかしその会話を盗み聞きしている人物が居た。
(なるほど。片翼が対象を蘇らせたのは確定。そして神の奇跡が行使できると)
その人物は病室の前で聞き耳を立てており、話が終わるやいなや直ぐに病院を後にしたのだった。
よもや話を聞かれているなど誰もが思ってなかった。
★
「旦那様、例の情報を仕入れてきました」
「話せ」
「はい。アリス・シルヒハッセを蘇生させたのは片翼で間違いないようです。その方法は片翼が使う寿命と引き換えに神の奇跡を起こす事だそうです」
「神の奇跡? ニュースのVTRにいた奴か。まぁいい。使えそうな力だ、女王陛下に報告しておく。下がっていいぞ」
そう言われると男は扉から出ていった。
偉そうな人物は書類を2つ作った。
1つは女王陛下宛、もう1つはレジスタンスに潜入している職員宛だった。
「神の力を制御できれば女王陛下の念願が成就する。そのためにも実験先は多いに越したことはない」
★
8日目、エルシアとファルトは看護師と共に軽いストレッチを行っていた。
寝たきりだった体は簡単に固まってしまっていてストレッチで体を動かす度に悲鳴が上がる。
「あたたたたた! そんなに体曲がらないよ~」
「いででで! ちょ、押し過ぎだって!」
「大丈夫ですよー。はい、息吸ってー」
そばで見ていた老人達もその光景に微笑んでいた。
「いやー、若いって良いねぇ」
「そうですねぇ。私も若い頃はブイブイ言わせてたもんですよ」
「儂だって若い頃は……」
等々老人の若かれし頃の話が花開いている中、エルシアとファルトとストレッチを終え歩行訓練へと移っていた。
幸いな事に7日と言う短い期間であったためストレッチだけである程度は体が動く用になった。
「俺は歩けるぞ!」
「凄いです! でも安全に行きましょうね」
「ぐぎぎ」
9日目。
既に8日目のリハビリで歩けるようになったため、ファルトは筋トレをしていた。
看護師はこんなに機能復帰が早いのは見たことがないと言っているのであった。
「ひ~ま~だ~よ~」
「エルシアも筋トレするか?」
「やだ」
「即答だな……。そんじゃ腹筋するから足押さえててくれ」
「それならいいよ」
ベッドからベッドへ移動するとファルトの足を掴んだ。
ガッチリ掴むと、それを確認して腹筋を始める。
「よっしゃ、1、2、3、4、5」
「6、7、8、9、10~」
そこまで数えていると病室の扉が開いた。
入ってきたのはリュドミラとゲルトラウドだ。
入ってそうそう2人で何をしているのかと問う。
リュドミラは少し赤面し、ゲルトラウドはニヤニヤした表情を浮かべていた。
「2人でベッドの上、そして何も起こるはずもな~く」
「ファルトやるな。ここ病院だぜぇ?」
「違う! これは筋トレだ!」
「何のこと~?」
そんな3人の事にさっぱりなエルシアである。
話しているとアリスとアンソニーが入ってきた。
アンソニーは忙しい政務の合間を縫ってやって来たのだ。
「エルシア、ファルト。済まなかった、アリスを助けてもらってありがとう……!」
そう言うと頭を下げた。
それには流石に焦り頭を上げてもらう。
決してエルシアもファルトも頭を下げてもらう事はしていない。
アリスを蘇生させたのは2人の意思だったのだから。
「元はと言えば私達が騙されちゃったのが悪いのでアンソニーさんが謝る必要もないんですよ」
「そうだぞ、俺たちが悪いのもあるが、俺たちの意思でやっただけだからな」
2人がそう言うとアンソニーはそれでも頭を下げるのであった。
ここでリュドミラとゲルトラウドが置いてけぼりと言うことに気がついた。
アリスは2人の秘密を話していないため、蚊帳の外なのだ。
「え~と、私達って実は居ちゃいけないのかな~?」
「詳しい事は言えません。すみません」
そう言うとアリスは頭を下げた。
「アリスさん、頭を上げてください~」
「家庭の事情もあるし俺たちに話せないのもうなずけるぜ」
「お二人共ありがとうございます」
ここで病室の外から声がかかった。
ソフィアの声だ。
「アンソニー官僚そろそろお時間です」
「分かったよ。……ちなみに代償は何を払ったんだ?」
「あ、私も聞いていませんでした。いくつ払ったんですか?」
「……寿命をちょっとだよ。ちょっと!」
「ああ。ほんの少しだ」
「……まぁ良いでしょう。お父さん車まで送ります」
アリスとアンソニーは病室から出ていった。
残されたリュドミラとゲルトラウドは場の雰囲気が悪く、居づらくなっていた。
「あ~。私達帰ろうか~な~?」
「ごめんね~。今度お詫びするから!」
「お? エルシアのお礼に期待だぜ」
またねーと言いながら病室を出ていったのだった。
2人しか居ない病室にエルシアの呟きがこだました。
「私達って後何年生きれるんだろうね」
「……。さあな」
10日目がやって来た。
エルシアとファルトは異例の速さで退院したのである。
病院前にはアリスが迎えに来ていた。
「退院おめでとうございます」
「ありがとー! アリスちゃん」
「おう」
「渡したいものがあります。こちらをどうぞ」
リボンで結ばれている箱を受け取った。
早速リボンを解くと中には魔石とダイアモンドをあしらったネックレスが入っていた。
ファルトには手首に着けるバンド型の物が。
「おお! きれ~い」
「また高そうなもんだな」
「それはブランド物の装飾品ですが個人を認識する機能があります。試しに魔力を流してみてください」
言われた通りに魔力を流す。
すると一瞬魔石が光った。
「なんか光ったよ?」
「そうだな」
「それで認証完了です。これはオートマタ対策でもあります。魔力を放出していなくても、そのネックレスとバンドが常にエルシアさんとファルトさんの魔力を出していますので識別できるのです」
「魔法か何かで探知するのか?」
「魔力波探知といいます。個人の魔力は同じものは無く、唯一無二のものです。これは習いましたね」
「お、おう」
「ファルと分かってなーい」
魔力探知では探知するだけで、それが誰のものか分からないが、魔力波探知であれば魔力と個人を紐付ける事ができるのだ。
「家のトレーニング施設でやり方をお教えします。帰りましょう」
「早速着けちゃうもんね~」
「俺も着けとくか」
家に帰ると早速トレーニング施設へと入った。
「ではお教えします。魔力探知は使えますか?」
「そう言えば使ったことないな」
「私もー」
「魔力を薄く周りに放出し、その空白を知るのです」
アリスは簡単に言うが、2人には難しいようだ。
特に空白を知るという事が課題だ。
その後2時間ほど練習を続け、昼食を摂る。
夏休みの宿題をしつつ魔力探知の練習も続けた。
「……。だあー! さっぱり感覚つかめん!」
「ファルトうるさい!」
「す、すまん」
うっかり大声を出してしまいエルシアに怒られるファルトだった。
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