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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
3動き出す悪意
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64戻りし2人

 




 魂呼ばいが行われて1時間。

 ミルキーの魔力が尽きようとしていた。


「はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか? 少し休みますか?」

「アリス君の言う通りだぞ。少し休みたまえ」

「後少しだけ頑張ります……」


 更に20分呼びかけ続け、ミルキーの魔力が尽きてしまった。

 魔法陣の制御をアリスが引き継ぎ、1人で呼びかけを続ける。


「エルシアさん、ファルトさん……! どうか戻ってきてください!」





「暇だなぁ~。噂話聞くのも飽きたしなぁ~」


 休憩用スペースのソファーに堂々と横になっている彼女。

 1週間の間に何度か病院から出ようとしたが、本能に訴えかけてくる思いで外に出ることはなかった。

 

「よーし! 今日こそは外に出るぞ~!」


 病院のロビーに向かい出口の前に立った。

 そして本能を抑え外へ向かおうとしていた。

 その時何か声が聞こえてきた。


『戻り給え! エルシア・エル・シフォーニ! 戻り給え! ファルト・ニール!』

「何……?」


 周りを見渡すが病院のロビーにいる人は何も反応を示さない。

 つまり彼女だけに聞こえていることとなる。


「エルシア・エル・シフォーニ……? っ! 頭が痛い……」

『エルシア・エル・シフォーニ! ファルト・ニール! 聞こえたら戻ってきてください! エルシア! ファルト! 早く戻ってきてください!』

「うぅ……。 どこに戻れば良いっていうの」


 痛む頭を触りながらゆらゆらと歩き出す。

 時折聞こえてくる声に惹かれながら。


「エルシア……エルシア……。もしかして、私がエルシア……? っうう! 頭が、割れ……そう……!」


 思わず床に手を着いてしまう程の痛みが頭を駆け巡る。

 すると、どこか懐かしい記憶が蘇ってきた。

 5分程記憶の整理と頭痛を堪えると、立ち上がる事が出来た。


「そうだ……私はエルシアだ。声の方へ行かないと」

『エルシアさん! ファルトさん! 私のために犠牲にならないでください! 早く戻ってきてください!』

「アリスちゃん。今行くからね!」





「これで7日目か……。依然記憶が戻る気配は無いな。てっきり死んだのかと思ったが霊安室にこの翼と同じ特徴の遺体は無かったしな」


 この7日間で身の回りの事を調べていた彼は徐々に真相に迫りつつあった。


『戻り給え! エルシア・エル・シフォーニ! 戻り給え! ファルト・ニール!』

「何だ? どこから聞こえてくるんだ? 周りの人は反応してないから俺だけに聞こえてるんだろうな」


 声の聞こえる方へ移動を始める。

 1つ1つの病室を覗きながら場所を特定していく。


「っうぅ! 何……だ? 頭が痛い」

『エルシア・エル・シフォーニ! ファルト・ニール! 聞こえたら戻ってきてください! エルシア! ファルト! 早く戻ってきてください!』

「エルシア? ファルト? ……クソ、声が頭から離れん」


 声の聞こえる方へ近づく度、頭痛が酷くなっていく。

 なんとかそれを耐えつつ病室を回る。

 そして3階のとある病室の前までやって来た。


「はぁ……はぁ……。ここは? 名前はエルシア・エル・シフォーニ、ファルト・ニール? さっきから呼んでる声はここか。」


 扉を擦り抜けると中では魔法陣が敷かれ魔法を発動している者の姿があった。

 どうやらここから声が聞こえてきていたらしい。

 ベッドに寝ている人物に近寄ると、キーンっと言う耳鳴りと同時に記憶が濁流の様に蘇ってきた。


『エルシアさん! ファルトさん! 私のために犠牲にならないでください! 早く戻ってきてください!』

「そうか。俺は……おわ!? す、吸い込まれる!?」


 ファルトは自分自身の体に吸い込まれていった。





 魂呼ばいを続けて2時間。

 身体強化も付与し続けているためアリスと言え流石に厳しい物がある。

 

「エルシアさん……。ファルトさん……。戻ってきてください」

「アリス君キツそうだね。私が変わろうか?」

「ええ。ですが最後に大きな叫びを響かせます」


 アリスは息を吸うと、魔力を全開に魔法陣に込める。

 それと同時に大きな声で叫んだのだ。

 魔法陣が音を立てながらひび割れていく。

 アリスが全開で魔力を込めた結果古い紙に描かれていた魔法陣は紙が千切れ飛び、その機能を失った。


「ああ!」

「あちゃ~。やってしまったなアリス君」

「すみません、ミルキー先輩」

「いえ、別に気にしないでください。古い物でしたから耐えられなかったのでしょう」


 ミルキーはそう言うがアリスにとっては2人を呼び戻すチャンスなだけ有って自身の行った行動に後悔をしていた。

 

「私が焦ったばかりに2人を呼び戻すチャンスを……」


 そこまで言うとアリスの言葉を遮るように声がかかった。


「そこまで言うなって無事戻れたんだしよ」

「ファルトさん!? 目が覚めたんですね! エルシアさんは!?」

「エルシア君はまだ目を覚ましていないな」


 アリスは千切れ飛んだ紙を拾い集め魔法陣を再構成しようとした。

 ミルキーがそれを止めに入るが無我夢中で集めまわる。


「私の! 私のせいでエルシアさんが犠牲になる必要は無いんです!」

「アリス!」


 ファルトが固まった体を無理やり動かしつつ声を発した。

 

「思ったより体が動かないな……。アリス、別に俺たちはアリスの為に犠牲になったわけではない。俺たちがアリスを助けたかったからだ」

「でも、結局エルシアさんが――」

「ん。私がどうかした?」

「エルシアさん!?」


 アリスがエルシアの胸に飛び込む。

 苦笑いしつつアリスの頭を撫でてやるのだった。


 しばらくアリスを撫でてやると冷静さを取り戻した。


「お父さんに電話を掛けてきます。少し待っていてください」


 アリスが病室から出ていくとリンネ達3人がここぞとばかりに話しかけてきた。

 話題はズバリ幽体離脱、魂が離れていたときのことだ。

 特にリンネの食いつきが強い。


「エルシア君! ファルト君! 魂呼ばいで呼ばれる前はどんな事をしていたんだい!? やっぱり魂の状態だと壁とか擦り抜けられるのか!?」

「え、ええっと……」


 エルシアがファルトにチラチラと目配せをしている。

 リンネのテンションが苦手なようだ。


「で! どうなんだい!」

「リンネ先輩勘弁してくれ。 あの空間は辛いものがある」

「死の空間のことかね!? そこを詳しく!」

「ああ、もう駄目だこれは」


 リンネの勢いに負けたファルト。

 質問の嵐が襲いかかる。

 それを捌きつつエルシアにも振る。

 突然質問を振られたエルシアは困惑したが、死の空間で有ったことを話つつミルキーの解説入りで話を終えた。


 20分程経ちアリスが医者を連れて戻ってきた。

 医者はエルシアとファルトをもう一度精密検査を実施したが、数値は以前と同じで意識が戻る要因は考えられないという。

 精密検査が終わるとエルシアとファルトは病室に戻され軽いリハビリを明日から行うことを告げられた。


「では明日から頑張りましょう」

「ありがとうございました」


 アリスが挨拶をすると医者は病室から出ていった。

 扉が閉まると同時に鍵を掛ける。


「アリスちゃん?」

「話してもらいますよ。エルシアさんとファルトさんに宿っている力に関して」

「お? 我々も是非聴きたい所だ」

「ええっと、どこまで知ってるの?」


 アリスが知っていることを説明する。


「あーあ。結構知っちゃってるんだね」

「だな。知らないのは渡守だけだな」

「渡守? テレビで見た方かしら」

「あの方は現世(うつしよ)幽世(かくりよ)の渡守で大御神が一柱たるなんちゃら様の代行者だ」

「なんちゃらてなんだい?」

「そう言われてもなぁ」

「そこの部分だけ聞き取れなかったの。アリスちゃんは前有ったでしょ?」

「有りましたね」


 以前エルシアが伊邪那岐の事を言ったときである。

 リンネ達にも以前学校でのエルシアの一言が聞き取れなかったことを思い出した。


「で、具体的に何ができるんだ?」

「寿命と言う代償を支払って神の奇跡が行使出来ます」

「神と来たか。テンション上がるな」


 トラヴィスはそんな事を言っているが表情は真面目だった。







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