63魂呼ばい
アリスがエントランスに戻ると、リンネ、ミルキー、トラヴィスが揃って座っていた。
3人で何をしているのかと思えば、アリスを見るなり目を輝かせてすり寄ってきたのだ。
「アリス君! ニュース見たよ! ASとか言われていたけど我々にかかれば特定は余裕だったよ」
「で、本当なのか? 死んでから蘇ったって言う話は!」
「どこでそれを……」
「ニュースと病院への取材よ」
アンソニーが箝口令を敷いたはずだが、やはり人の口に戸は立てられないのだろうか。
「……誰にも言わないと約束してくれますか?」
「良いとも! だが言った所でオカルト研究部の話なんて聞いてももらえないけど」
「我ながら悲しい事実だ……」
「悲しいですね」
そんな3人の話を聞いていてオカルト研究部に入ったことを改めて後悔した。
「(オカルト研究部にそんなに信用がないなんて……)で、では説明しますね。と、言ってもあまり話せることはないですけど」
3人に自分の身に合ったことを話す。
リンネとトラヴィスは耳で、ミルキーはメモ書きしていた。
「むむむ。では蘇りの真相はエルシア君とファルト君が握っているのか。しかも意識が戻らないとは……」
「代償とやらは一体何なんだ?」
「ニュースの映像に有ったあの尻尾がたくさん生えてる人が鍵を握ってそうね。明日でも良いから2人の様子見せてもらっても?」
「ええ。いいですよ」
「では我々は帰らせてもらうぞ!」
「ではまた明日病院で」
次の日に病院で合う約束をすると3人は帰っていった。
自室に戻ると調査部から戻って来ていた天羽々斬が置かれていた。
書類に目を通すと以下の事が書かれていた。
「なになに? 刀身は僅かに魔力を纏っており、先端が折れた形跡がある。歴史資料上に出現した事実あり。統一歴前英雄アレクシード・レイ・ヴァレフォルが使ったとされるが用途不明」
布を取ると、柄が修繕された天羽々斬が出てきた。
手に取り鞘から引き抜く。
刀身は長い年月を経て錆びついているが、どこか不思議な力を感じ取れる。
「英雄が使った剣ね。今じゃボロボロ。なぜあんなに守られてたのかしら」
剣を掲げてみると刀身が震えた気がした。
「え? きゃ!」
剣から光が溢れアリスを包み込んだ。
目を開けると見知らぬ男性が立っていた。
だがアリスはその姿に驚く。
「天使と悪魔の翼……? あなたは片翼ではないの?」
「俺は両翼だ。今回はお前に話があったから呼ばせてもらった」
「両翼? 話とは何でしょうか?」
「話とは……失礼。名を名乗ってなかったな。俺はアレクシード・レイ・ヴァレフォルだ」
アリスは先程見た資料に書かれていた名前だと気がついた。
しかしそれは統一歴前の人物である。
「アリス・シルヒハッセです。失礼ですがあなたは統一歴以前の方ですよね? それがなぜ今になって私の前に現れるのですか?」
「アリスよ。貴殿の原罪は神の力により洗い流された。天羽々斬を使うに値する」
「原罪? 何を言って――」
「もう持たないか。良いか? いつの日か必ず天羽々斬を使う時が来るだろう。その時になったら迷わず抜け。それが困難に打ち勝つ切り札に――」
再び光りに包まれ、元の部屋に戻っていた。
もう一度剣を掲げてみるが何も起きず、今のは幻覚と思っているのだった。
「? 取り敢えずしまっておきますか」
天羽々斬を鞘に収め布を巻く。
それを勉強机に置くとベッドに横になった。
「疲れた……。夕食まで一眠り……」
★
夜、アンソニーは執務室で電話を掛けていた。
掛けている先は当然調査部である。
『はい、調査部です』
「アンソニーだ。調べてほしいことがある」
『要件を』
「憲兵が逮捕した片翼迫害派の裏にいる真犯人を探してほしい」
『それは憲兵の領分じゃないですか?』
「憲兵は駄目だ。私が直々に動かせる貴殿達に任せたい」
『わかりました。ただ、我々が動けば痕跡が残ります。逆に利用されないとも限りませんがよろしいでしょうか』
「いいぞ」
調査部に依頼したアンソニーは受話器を置くと握りしめていたペンを圧し折った。
静かだが強い怒りを抱いているのである。
「絶対に許さん。レジスタンスとアリスを毒殺した真の首謀者諸共絶対に地獄を見せてやる」
★
翌朝。
アリスは病院に行く準備を始めていた。
事件のこともあるので予め身体強化を掛けておくことにした。
「我の威を示せ、フィジカルブースト=リコネクト。我の威を示せ、フォースバーストエレメント=リコネクト。我の威を示せ、シュプリームフィジカルバースト。よし。これで金属の拘束具でも外せる」
家の外に出るとエデルガーデン総合病院まで走っていく。
身体強化を掛けている為移動速度はかなり早い。
車道を走る車を追い越し、歩みを進める。
10時過ぎにエデルガーデン総合病院に到着するとロビーにてリンネ達を待つ。
20分ほど待つと騒がしくリンネ達が入ってきた。
「ミルキーが夜遅くまで変なビデオ見てるのが悪い」
「でもあの場面であの人がまさかの受けで攻めがライバルの人とかマジヤバ! うへ、うへへ」
「ミルキー、トラヴィス静かにしたまえ。院内だぞ」
「リンネ部長、ミルキー先輩、トラヴィス先輩おはようございます」
「おはよう。アリス君」
「早速エルシアさんとファルトさんの病室に案内しますね」
そう言うとリンネ達を2人の病室に案内する。
礼儀として反応しないことが分かってるがノックする。
部屋に入ると窓を開け換気を行う。
「おーい。エルシア君起きろ~」
「起きないな」
「?」
「ファルト君起きろ~」
「こっちも起きないな」
「??」
「ミルキーさっきからどうした?」
部屋に入ってからミルキーの様子がおかしかった。
2人の様子を見て更におかしくなった。
アリスもミルキーの変化に気が付き様子をうかがう。
「どうしました?」
「この状態が続いているですか?」
「ええ。どこも異常無いのですが……」
「これは……おそらくですが魂が離れてますね。呼び戻せば元に戻ると思います」
ミルキーはいつも持っている魔導書を開いた。
そこには魂呼ばいと呼ばれる呪術が書かれている。
「この呪術は死者の魂を呼び蘇生させるものです。本来死者に使うものですが、魂が抜けている2人もあまり変わらない状態なので呼び戻せる可能性があります」
「試してみる価値はあるか」
「ミルキー先輩。是非試してください。お願いします」
「よし! ミルキー! 魂呼ばいを命ずる!」
ミルキーは魔導書に挟まれていた魔法陣が描かれた紙を広げた。
そこに魔力を注ぎ込む。
魔法陣が淡い色を発しつつ、当たりを薄い霧が包んでいく。
「戻り給え! エルシア・エル・シフォーニ! 戻り給え! ファルト・ニール!」
「口パク?」
トラヴィスがミルキーを見てそう答える。
それにミルキーが答える。
「今魔法陣を通して死の世界に語りかけてます。声が聞こえないのは世界が違うからです」
「なるほど」
「続けます」
再びミルキーが叫ぶ。
「エルシア・エル・シフォーニ! ファルト・ニール! 聞こえたら戻ってきてください! エルシア! ファルト! 早く戻ってきてください!」
ミルキーの必死の呼びかけが続く。
アリスも呼びかけを始めた。
「エルシアさん! ファルトさん! 私のために犠牲にならないでください! 早く戻ってきてください!」
アリスとミルキーが叫び、エルシアとファルトを呼び戻そうと必死に呼びかけるのであった。
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