62その奇跡ニュースになる
『臨時ニュースです。先程エデルガーデン総合病院から光の柱と門、鐘の音が鳴り響いた件。現場のキャスターを呼んでみましょう』
『はい! こちらはエデルガーデン総合病院前です。現在病院には入れず、多くの人が押し寄せています! あ、今憲兵達が病院に入っていきました! やはり先程の現象と関係あるのでしょうか。スタジオに戻します!』
『ここで続報です。市民が撮影した映像を入手しました。こちらを御覧ください』
マンションから取られたのだろうか高い位置からの撮影だ。
映像には空高く光の柱がそびえたていた。
そしてカメラがズームすると空に浮かんでいる人物を映し出す。
九尾の尾、耳を持つ神聖な礼装を纏った女性だ。
映像の中に撮影者の声が入る。
『何だ……あれ……。目が合って……うわ!?』
そこで映像が途切れた。
『この映像を提供してくれた方は何らかの方法でビデオカメラを破壊され、このビデオテープと撮影者は無事だったそうです』
「お父さん、テレビで言っていることは私と関係あるのでしょうか?」
「実はね。エルシアとファルトの事ちょっと調べててね。調査部から情報を仕入れてた」
「何で黙っていたんですか?」
「アリス落ち着いてな?」
秘密裏に2人を調査していたことに腹を立て、少し強くアンソニーに当たっていた。
それを咎められ冷静さを取り戻した。
「どうもエルシアとファルトは何らかの力を持っているようなんだ。それが今回アリスの四肢の再生と蘇りの方法だ」
「そんな人知を超えた力なんて行使できるなんて一度も聞いたことは……。もしかして隠してた?」
「そうだろう。その力は代償を伴うようなんだ」
「え……」
アリスは絶句してしまった。
その力は自分に注がれたのだから。
「じゃ、じゃあエルシアさんとファルトさんが寝込んでいるのは代償のせい? 私が不甲斐ないばかりに!」
「アリスのせいじゃない。全部レジスタンスが――」
「それは結果論! 私が捕まったから! ……捕まったから……!」
「アリス……」
話が暗い方向へと向いていた時扉がノックされた。
アンソニーが扉を開けると憲兵が立っていた。
「失礼。お話中でしたかね」
「いえ。それより何か?」
「話というのは娘さんに使われた輸血用の血液パックから毒を検出しました」
「何!? 場所を移しましょう」
病室から場所を休憩用スペースに変える。
そこで憲兵と話の続きを始めた。
「血液バッグの出どころは?」
「はい。まず調べた所、毒は途中で入れられた物ではなく最初から入っていた様です。製造元はとある企業で、そこの筆頭株主が面白いことに片翼迫害派の一派なんですよね」
「それは本当か?」
アンソニーが真顔になった。
憲兵も開いた手帳を読みながらしっかりと言う。
しかし疑問にも思ったことがある。
特定が早すぎるのだ。
「随分仕事が早いようだがどんな手を使ったんだ?」
「実はこの毒血液バッグですが、前にも同じ死亡例が有りまして調査をしていた所なんですよ」
「そうか……」
「今回は証拠も残ったので逮捕に踏み切れそうです」
憲兵は嬉しそうに話しているが、アンソニーは違う考えを巡らせていた。
(おそらく今回仕向けてきた奴はトカゲの尻尾だろうな。こんな手の着くような事を片翼迫害派がやるはずない)
「では我々はまだ別件の調査が残っているので失礼します」
「えぇ。ご苦労さまでした」
憲兵が休憩用スペースから出ていくとアンソニーは1人で考え込んでいた。
エルシアとファルトが起こした奇跡の件だ。
四肢を再生し、失われた命を呼び戻すと言う行為がいかに重大なファクターだと言うことを。
「これは知られるとめんどくさい事になりそうだな。だが、院内の一部では既に知れ渡ってしまっているしな。どうするか……」
一層のこと病院に居る全員に箝口令をだす事を考えている。
しかし、それをあざ笑うかのようにニュースが流れた。
『今入った情報です。エデルガーデン総合病院に入院し、死去されたASさんが光の柱の真下で見つかり息を吹き返したそうです。病院関係者は天からの使いが舞い降りたと話しています』
「は? おいおいおい! 情報出るの早すぎだろ……。箝口令は意味ないな……」
★
エデルガーデンのとある屋敷。
夜も深くなりつつあるなか1つの部屋の明かりが点いていた。
そこにはワイングラスを片手に偉そうに椅子に座っている人物が居る。
「そうか、失敗したか」
「はい」
「レジスタンスもやり方が甘い奴らだ。こうして一手加えなければならないとは」
ワインを一口飲む。
そしてワイングラスをぐるぐると回しつつ話を続ける。
「だが、面白い現象だな。死人が生き返るなんてな」
「レジスタンスにより切断された四肢も再生した模様です」
「やはりあの片翼か?」
「いえ、まだわかりません。早急に調べてまいります」
頼んだと一言だけ言うと側に居た人間は静かに退室していく。
残された偉そうな人物は立ち上がり窓ガラスを開け放った。
バルコニーに出ると月をみながらワインを嗜むのであった。
★
日が変わり事件から7日経った。
この頃にはリュドミラ、ゲルトラウドにも事件のことが伝わり病院に来ていた。
「えるえるとファルトさんも起きませんね~」
だが屋上で起きた奇跡の事は伏せられている。
アンソニーがテレビ、ラジオ、新聞に箝口令を敷いたのだ。
最初の動画だけが公開されてしまったが、現在お茶の間にはいつもどおりの番組が流れている。
「それにしても何で2人が寝込んでるんだぁ?」
「アリスさんが怪我したのは知ってるんだけど……アリスさんは見た目何とも無いし~」
そこへアリスがやってきた。
手には緑茶のペットボトルが握られていた。
「あら? リュドミラさん、ゲルトラウドさんこんにちは」
「やっほーアリスさん~」
「おっす」
「私が居ない間にお二人に何か変化は有りましたか?」
「全然ないよ~」
「これで1週間ですか……」
エルシアとファルトは1週間眠り続けている。
精密検査をしたがどこにも異常は無く、なぜ起きないのかが謎である。
「なぜ起きないんでしょうか……。やはり代償が……」
「? アリスさん今なにか言いました~?」
「いえ、なんでもありませんよ」
リュドミラがお見舞いに持ってきた花をナースセンターから花瓶を借りてきて窓際に飾る。
その後世間話をしてリュドミラとゲルトラウドは帰っていった。
アリスも2人の事を見つめた後、家に戻った。
そのままトレーニング施設へと向かう。
「不甲斐ない……不甲斐ない……! 我の威を示せ、ライトニングバーストエレメント=リコネクト。我の威を示せ、エレクトロン=リコネクト。我の威を示せ! カドルエレメントフォーム!」
魔力が膨れ上がり可視化する。
更に魔力が込められ魔法が発動する。
「我の威を示せ、フィジカルブースト=リコネクト。我の威を示せ、フォースバーストエレメント=リコネクト。我の威を示せ、シュプリームフィジカルバースト! ……ううう!」
人体の限界を超えた身体強化に体がついてこれず、激しい痛みが全身を駆け巡った。
床に手を着く、だがアリスは強化を解かなかった。
「私が不甲斐ないばかりで! エルシアさんとファルトさんに代償を払わさせてしまった!」
両手で床を殴りつける。
その衝撃で床の石材は砕け、魔力が迸る。
そこにルルが入ってきた。
「アリスお客さんよ……部活の部長さんだそうよ」
「……今行きます。少し待っててください」
ルルに顔を見せずに言い放つ。
涙を拭い、トレーニング施設を後にした。
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