61反魂と離魂
夜の街に鐘の鳴る音が響き渡る。
ICUで死亡時刻が読み上げられている中、アリスの遺体から光が溢れ始める。
切り落とされ冷凍処置していた四肢からも光が溢れ何処かへと消えていった。
これには医師や看護師も困惑しているが、事は淡々と進みアリスの遺体も光りに包まれ何処かへと消えたのだ。
鐘の鳴る音が響き渡る。
屋上では光が溢れ神代文字で構築された理解の範囲を超えた魔法陣が展開されていた。
その真中にアリスの遺体と四肢が配置され、体の修復が始まった。
エルシアとファルトはそれを見つめる。
魔法陣から溢れ出た光が失われた肉や骨を修復していき、傷一つ残さずアリスの四肢と体が繋がった。
鐘の鳴る音が響き渡る。
もう一つ魔法陣が展開される。
それはアリスの体を上から下まで通過すると黒い塊をはじき出した。
「これは毒か?」
「ううん。毒だけじゃないよ。もっと根本的なものの塊だよ」
「わかるのか?」
「****様の加護を通してだけどなんとなくわかるの」
黒い塊は周りの光に浄化されるように消えていく。
「肉体の再生終了」
鐘の鳴る音が何度も何度も心臓の鼓動の様に響き渡る。
「これより反魂の儀を始める」
神代文字で構成された複雑な魔法陣が更に展開されアリスを包む。
光がアリスの胸上に収束して行き、光の玉が現れた。
それがゆっくりとアリスの胸の中に吸い込まれていく。
「アリスちゃん……!」
「アリス!」
光が宿り血色、心拍がもとに戻る。
そしてゆっくりと屋上に降ろされた。
「了。反魂の儀は終わった。時期に目を覚ますだろう」
エルシアがアリスに駆け寄り、手を握る。
「温かい……生き返ったんだね……」
「では代償を払ってもらう」
「で? 何年だ?」
「700年だ。お前達の元々の寿命半分だ」
「700年……か。わかった」
アリスから手を話すともう一度ファルトと手を繋ぐ。
ぎゅっと握ると渡守に目を向けた。
それは覚悟の現れだ。
「良い目だ。では700年貰い受ける」
「っ……!」
「う……」
『代償は払われた。膨大な寿命の反動でしばらく昏睡するだろうが気にすることはない。さらばだ』
渡守の言う言葉を途切れそうな意識の中聞き届ける。
同時に意識を失うのだった。
★
屋上の入り口に居たアンソニーはドアノブを回しているが一向に開かず、下から上がってきたルルにアリスの遺体が無くなったことを説明していた。
「何? アリスが光になって消えた? そんなバカな!」
「本当なのよアンソニー」
「なら一体どこに……」
ふっと暫く前に交わした言葉が思い出された。
”儂は最後の最後であの子らに大いなる力と大いなる代償を背負わせてしまった。これを発見した国の人間はあの子らを守って欲しい”
「まさか本当に大いなる力とやらを行使したのか……?」
「アンソニー?」
ガチャという音とともに屋上の扉が自然と開く。
屋上に出ると桜の花びらの中に3人が倒れていた。
アンソニーが3人に近づくと、真っ先にアリスへと向かっていった。
「アリス! この手足は……! 呼吸もしてる……。良かった……!」
「アンソニー! どうしたの! ……嘘……アリス!」
「……ん……。お父さん? お母さん?」
体を揺すられアリスが目を覚ました。
当の本人も手足があることに驚いている。
アンソニーの後ろを見るとエルシアとファルトが手を繋いだまま倒れていた。
「エルシアさん? ファルトさん? どうしたのですか!?」
立ち上がると2人の元へ駆け寄る。
「起きてください! エルシアさん! ファルトさん! どうしてこんな事に……?」
「ルル、アリスを医者の元へ。私はエルシアとファルトをどうにかして行く」
「わかったわ。アリス来なさい」
ルルとアリスは医者の元へと歩いていった。
アンソニーはエルシアとファルトを病院に入院させることにした。
なにせ先程までは元気に動き回っていたのに、いきなり呼びかけにも答えず倒れたままなのだから。
★
医者がアリスを診断していた。
その医者はあり得ないこと見たと言った表情を浮かべている。
「信じられない。手足が繋ぎ目無くくっついている。それに脈拍正常。脳波も正常だ。まるで奇跡でも起きたかのようだ」
「私も信じられません。あの時確かにアリスは……」
「ですがこれは事実です。お嬢さんは生き返って手足も繋がっている」
検査を終えたアリスがルルの元へ戻ってきた。
医者ももう一度まじまじと見るが、やはりあり得ないという事。
そこにエルシアとファルトが担架で運び込まれたのだ。
「先生! 急患です!」
「あっちに回して! すぐ行く。シルヒハッセさん、そういうことなので失礼します」
「えぇ。ありがとうございました」
医者は直ぐに運び込まれた2人の元へと駆けつけた。
直ぐに脈拍の検査をし、瞳孔を確認した。
そして呼びかけもしたが反応はない。
「脈拍呼吸よし。……意識がないか。患者はどこで意識を失ったんだ?」
「先生、それが病院の屋上らしいです」
「屋上? さっきの騒ぎと関係あるのか? いや、今大切なのは患者の命だ。ベッドと点滴の用意を」
★
「ここはどこだ? 俺は何をして――」
そこまで考えた時にふっとある事を思う
「俺って誰だ?」
幸い近くに居た人に話しかける。
「なぁ、ここってどこ……っておい! 無視は無いだろ」
次にあった人にも話しかけるが目も合わせず無視される。
話しかけ続けて分かった事が有った。
それはここが病院という事だ。
「どうして俺は病院に居るんだ? 分からない……」
彷徨い歩き、病院の入口までやって来た。
病院から出ようとしたその時、強烈な感覚が襲ってきた。
「病院から出てはいけない……。出てはいけないんだ」
病院から出てはいけないっと言う感覚に襲われ、入り口から離れた。
それからと言うと病院のあちらこちらを歩きもう一つの事実が分かった。
鏡に自身の姿が映らないという事。
それ故に自身の姿が分からない。
「俺は一体誰なんだ……」
★
「ここどこだろう……。あ、そうだ! ……あれ? 何がそうなんだろう? 大事なこと忘れてる気がする。さてどこか行こうか……な……? あ、あれ? そういえば私って誰?」
彼女もまた記憶を失っていた。
「ここどこー? 私だれー? 誰か居ないの~?」
どこかの部屋から出ると、人影を見つけた。
彼女は直ぐに追いかけるが扉を通り部屋の中へ入ってしまった。
閉まった扉を開けようとドアノブに手をかけるが……。
「え!? 触れない!? なになにどうなってるの?」
ドアノブを掴もうとするが手で触れることが出来ないのである。
暫く掴もうと努力するが、ここで1つ思いついてしまう。
「ドアノブ触れられないなら扉も触れない、つまり通り抜けられるのだ~。……今までの努力は一体……」
中へ入るとナースの姿が有った。
すぐさま話しかけるが、無視される。
どんなに叫ぼうが前に出ようが触ろうとしようが一切無駄である。
「何でなの~? 無視しないでよ! もう!」
部屋の扉から通り抜けると、再び人を見つけた。
今度は初めからふざけて話しかけた。
「ベロベロバー! 変な顔! うふ、ふふふふ」
だがしかし無視である。
それと同じことを何人にも繰り返すが意味が無い故に気持ちが折れたのだった。
椅子に座りながらナース達が話しているのを聞き耳を立てた。
『ねぇねぇ聞いた?』
『え? なになに?』
『さっき屋上で何か有ったでしょ。ここだけの話、死んだ患者さんがそこで生き返ったらしいよ』
『なにそれ、屋上で生き返ったってこと?』
『うん。なんでも切断されていた手足も繋がったとか』
そこまで話を聞いていると突然頭痛が彼女を襲った。
まるで何かを思い出そうとしているかのように頭に少し浮かんでこようとしている。
しかしそこまでで肝心な記憶は思い出せないのだった。
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