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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
3動き出す悪意
60/113

60緊急入院





 アリスの行方が分からなくなってから4時間。

 シルヒハッセ家では憲兵がエントランスにて黒電話を睨めつけていた。

 

「身代金目的ならば電話が掛かってくるはずです。なるべく会話を引き伸ばしてくだい。逆探知までには時間がかかります」

「はい……。アリス……」

「ルルさん……」


 更に1時間、黒電話の前で待機していると電話が鳴った。

 憲兵が目配せするとルルが受話器を取る。


「……もしもし、シルヒハッセです」

『あ、どうもー。レジスタンスでーす。お荷物のお届けがあります。家の外に置いておいたので早めに受け取ってくださいね。じゃ!』

「あ、ちょっとまって!」


 ブツっと電話が切れる音がした。

 憲兵は首を左右に振る。


「逆探知出来ませんでした。どうやら外に荷物が送られてきているらしいですね。爆発物である可能性があるので専門の部署から人員を派遣させます」

「はい……」

「ルルさん顔色悪いよ。我の威を示せ、ヒール」

「ありがとうエルシア」


 15分ほどするとフルアーマー仕様の人員が派遣されてきた。

 家の門前には大きな箱が置かれており、アーマーを着た憲兵が箱の取っ手に指を掛ける。

 ゆっくりと箱の蓋が開いていく。

 するとアーマーを着た憲兵が尻もちをついた。


「う、うわ!」

「どうした!」

「ひ、人です! 人が入ってます!」


 ルルの顔色が更に悪くなっていく。

 幽鬼の様にルルが箱へと向かう。

 途中憲兵に止められたが歩むことを止めなかった。

 そして箱の中を覗き込んだ。


「ひっ!? あ、アリス……? はわぁ……」


 ルルはその場に倒れ込むと、エルシアとファルトが駆け寄った。

 エルシアがルルを看病している間にファルトと憲兵が箱の中を覗き込んだ。

 そこには手紙と四肢を切断されたアリスときれいに梱包された四肢が入っていた。

 憲兵は直ぐに救急車を呼ぶのだった。





「アンソニー官僚秘書ソフィアです」

『エデルガーデン総合病院です。アンソニー様に緊急のご連絡が有り、電話をしました』

「今アンソニー官僚は会議にお出になられてます。要件を承ります」

『ご子息のアリス・シルヒハッセ様が事件に巻き込まれ重体になられています』

「なんですって!? ……失礼しました。早急にお伝えします」

『なるべく早く病院に来てください。失礼します』


 受話器を置くと、時計を確認した。

 会議の終了時刻まで10分を切っている。

 だが、アリスの事を直ぐに伝えなければならず、直ぐに会議室へと向かった。

 会議室前まで着くと、ノックをしようとした時扉が開いたのだ。


「ん? ソフィアどうした?」

「アンソニー官僚、アリスお嬢さんが!」

「アリスがどうかしたのかな?」

「エデルガーデン総合病院からの連絡が有りまして、アリスお嬢さんが……重体との事です」

「なんだって!? 直ぐに向かう。車を回してくれ!」

「はい!」


 直ぐに車が表に手配され、大急ぎでエデルガーデン総合病院へ向かう。

 信号に車が止められた時は1分1秒が惜しいと言う気持ちだった。

 

 病院の入り口に車を横付けし、アンソニーが走りながら院内に入る。

 受付で名前を言うとICU(集中治療室)に案内された。

 そこにはルル、ロナルド、エルシア、ファルトが既に居た。


「ルル! アリスは!? アリスの容体は!?」

「アンソニー! アリスはまだ中よ」

「アリスは大丈夫なのか……?」

「……」

「なんとか言ってくれ。頼む」


 そこまで話しているとICU(集中治療室)から1人の医師が出てきた。


「アリスさんのお父様でしょうか?」

「はい。アンソニーといいます。アリスの容体はどうなんですか!?」

「……中へどうぞ」


 アンソニーは中にはいると窓越しにアリスを見た。

 そこには四肢を無くした姿のアリスが寝かされていた。

 傷には包帯が巻かれ、ところどころ出血しているのが見て取れる。


「ど、どうして……」

「残念ながら切り落とされた四肢ですが、回復魔法でも繋げることは出来ません」

「そ、そんな……どうにかならないんですか!」

「おそらくノコギリのような物で切られたんでしょうか。簡単にいいますと傷がグチャグチャ過ぎて手のつけようもないのです」


 事実を告げられ絶望する。

 しかし直ぐに考えが変わる。


「エルシア、ファルトはどうした……」


 ICU(集中治療室)から出てきたアンソニーは椅子に座っていたエルシアとファルトに詰め寄った。


「どうしてアリスがこうなった! お前達が守っていたんじゃなかったのか! なぜアリスなんだ……」

「アンソニーさ――」

「言い訳なんて聞きたくない! 聞きたくないんだ……」


 その場に崩れ落ちる。

 

「くそ……。アリス……」

「……」


 エルシアとファルトは椅子から立ち上がると病院の屋上へと去っていった。





「アリスについてだ」

「うん。私達の責任だしね」

「使おう。代償を払ってな」


 エルシアとファルトはお互いに手を繋ぐと詠唱を始めた。


「我らの威を世界の軛から解き放て」

「呼び奉る神威御霊」


 夜の街に一条の光が立ち上る。

 それは人々の視線を釘付けにさせた。

 病院内でも騒ぎになってくる

 一部の職員は屋上で何かが起きているのを察しているようで屋上入り口のドアノブを捻っている。


 夜空に巨大な門が現界し、扉が開いた。

 季節外れの桜の花びらがひらりひらりと降り注ぐ。


『久しいな。今回は私に何を願おうと呼び出した?』

「アリスちゃん、友達を助けてほしいんです!」

「俺たちのせいでそいつがひどい目にあったんだ。その怪我を治してほしい」

『その友達とやらはどこに居る?』

「集中治療室です」

『……そのものは先程死んだようだ』


 その言葉に耳を疑った。

 アリスが死んだ、とても受け入れられる事ではない。


「なんで……どうして……」

『原因は毒物のようだ』

「糞が! 彼奴等希望を持たせておいてこれかよ!」


 2人が絶望する中、屋上入り口から声が聞こえてきた。

 入り口は不思議な力により施錠されており開けることは出来ないが声なら届くようだ。


「エルシア! ファルト! 何をやってる! アリスが! アリスが!」

『死んだ人の子の親か』


 アンソニーが扉を叩いている。

 だが扉はびくともしない。

 それがこの場のルール(・・・)だからだ。


『願いは叶えられずに終わった。これ以上願いがなければ帰る事になる』

「願いはあります!」

『ほう。言ってみろ』

「毒の解毒、四肢の再生、魂の再定着をお願いします」


 渡守は目を細めた。

 なぜなら願いの中に死者蘇生が入っていたからである。


『私を現世(うつしよ)幽世(かくりよ)の渡守だと知っていながら言っているのか?』

「はい。それなりの代償は払います。だからどうか!」

「今回は寿命じゃない。魂さえ再定着すれば生き返るだろ?」

『是。その考えで間違いはない。だが代償は高く付くぞ』


 渡守は死者蘇生と言う奇跡の代償を払う覚悟を問うていた。


『……分かった。これより再生反魂の儀を始める』

「お願いします」

「たのむ」


 今世界の摂理を超えた神の奇跡が行われようとしていたのだった。






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