6ファルトの体験講座
エルシアが泣き止むのを待ちつつ頭を撫でる。
悪い気持ちはしない、むしろ尊いほどだ。
「もう大丈夫か?」
「うん」
「さて、食べ物でも探しに行くか」
「ちょっとまって」
「げ。な、何かな?」
逃げるように立ち上がったが服の裾を捕まれ動きが止まった。
エルシアを見ると目線が合った。
「教えてくれるって言ったよね?」
「うっ……。本当にいいのか?」
「え? 何か困ることあるの?」
「本当に常識ないんだな」
しぶしぶ座ると、エルシアと向き合った。
真剣な目をしているファルト。
好奇心旺盛なエルシア。
「いいか? 卑猥と言うのは下品な言葉使いだ。例えば人前でおしっこおしっことか言わないだろ?」
「うん。それは言わないよ」
「それでだ。さっきの発言……なにか覚えてるか?」
さっきと言われしばらく考え込む。
そして思い出し口にした。
「中に――」
「それが卑猥だと言ってるんだ」
「どこが卑猥なの?」
言うか言わないか迷ったが、言い方を変えて言うことにした。
「赤ちゃんを作る種を……そうだな、エルシアのお腹の中に出すんだ」
「赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくるんじゃないの?」
「そんなわけ無いだろ」
そっかーと首を振り、うんうんとファルトに言われた事を理解していく。
そして更に踏み込んだ知識を教える。
今度は実体験込だ。
「今から体を触るがいいか?」
「うん。いいよ」
そう言うとファルトはエルシアの胸を揉んだ。
当の本人は擽ったそうに体をくねらせていた。
「ファルトくすぐったい!」
「そこの反応が違う! そこは恥じらいを持って、イヤとかヘンタイとか顔を赤くして後ずさるのが普通なんだ。エルシアみたいに受け入れてくすぐったいって言うのがおかしい」
キョトンとした顔をして、少し考えた結果ファルトに言い放った。
「ヘンタイオオカミさんのファルト!」
「違う! 断じて俺はヘンタイオオカミ……では……ない」
あの日頭をよぎった考えが今になって蘇ってきた。
そう思うたび声が小さくなっていく。
そんな考えを捨て話題を戻す。
「んん。いいか? 今教えたとおり変人に体を触られたらそう言う反応をするんだぞ? わかったか? 絶対だぞ」
「はーい!」
これで街に出たときも大丈夫かと思い、一段落ついたと思った。
が、ここまで来てエルシアが更に追撃を言い放つ。
「ねー、ファルト~?」
「なんだ? 腹でも減ったか?」
「違うんだけど、赤ちゃんを作る種ってどこから出るの?」
「んな!?」
そしてトドメの一撃と言わんばかりに好奇心旺盛にファルトに迫る。
「赤ちゃんを作る種ってどうすればでるの?」
「お、おま……」
好奇心の塊に狭まれ、後ずさる。
後ずさったところに更に迫る。
トンっと背中に木が当たり、これ以上後ずされなくなった。
「ねえねえ! ファルト教えて!」
「ひ、卑猥な内容だ! さっき教えただろ、恥じらいを持てと」
「えー! やっぱりファルトはヘンタイオオカミさんだね!」
「俺に言わせればエルシアのほうがそうなんだが……」
獲物に這い寄るエルシアの様は狼のようだ。
なんとか話題を逸らそうと、先程の話題を持ち出した。
「よ、よし! この後から抜き打ちでエルシアが恥じらいを持てているか確かめるからな! 覚悟しておけ!」
「え、う、うん。わかった」
うまく話題が逸らせて内心ガッツポーズを決める。
それと同時に今後のエルシア教育をどうするか考え始めた。
★
「エルシア、頭洗うからお湯頼む」
「はーい! 我の威を示せ、ウォーター。我の威を示せ、ファイア……このぐらいかな?」
ファルトの方を振り向くとパンツに指をかけている光景が飛び込んできた。
しかし、何も思わず手のひらに浮かばせたお湯をファルトの頭の側まで持ってきたのだ。
「そこ! 普通男がパンツを脱ごうとしていたら目を背けるかお湯を投げつけ叫ぶ等の恥じらいを持て!」
「そうなの?」
「そうだ!」
★
「飯だぞ、起きろ」
「後5分……」
起きないエルシアを横に向けると、思いっきり尻を叩いた。
「いたーい! あ、おはよーファルト」
「違う……。そこはセクハラ!とかヘンタイ!と言うんだ」
「そうなの?」
「そうだ!」
★
「おーい、エルシアどこだー」
棒読みの声が森に響く。
「あ、ファルト? 今体洗ってるのー」
「あー? なんだってー?」
チラっと木の陰からエルシアを覗く。
そこには全裸の天使がいた。
「ファルトも一緒に洗う?」
「ち、違う! こういうときはヘンタイ! 覗かないで! とか言ってビンタするところだ!」
「そうなの?」
「そ、そうだ!」
森に平手打ちの音が木霊した。
★
「あー。お前って全然成長しないな……」
「そう? 私は日々成長してるもん!」
胸を張って言い張る。
確かに胸は育っているが、それでも育っているようだ。
「そうかそうか。もっと育つ方法があるぞ」
その言葉に目を輝かせて乗ってくる。
ファルトはそれを待っていた。
「それは……」
「それは!」
ギリギリまで言わずにエルシアを焦らし、興味を煽る。
焦らせば焦らすほどエルシアの鼻息が荒くなっていく。
そろそろ頃合いかと思ったファルトは行動に移した。
「こうするんだよ!」
ふに、ふにふに。
胸を揉み砕く。
突然のことに驚き固まる。
そしてファルトの苦労が実を結ぶ。
「ファルトのヘンタイオオカミさん!」
「それだぁぁああぁあ……ぶへぇ!」
大声とともにエルシアの平手打ちが飛んできたのだった。
その夜、平手打ちされた頬を赤くしながら魔獣を狩ってきたファルト。
この頃肉ばかりでエルシアも声には出さないが少々食が進んでいない。
「なぁ。そろそろこの森を出ようかと思ってるんだ」
「そうだね……。そろそろ疲れてきた」
「そのためには森にかかっている魔法をどうにかしないといけないんだが……」
「結界ってやつかな? 私お母さんから教わってるよ!」
1つの突破口がここに来て見つかった。
ファルト自身は攻撃魔法しか使えないため防御魔法、回復魔法、生活魔法には困っていたのである。
そこにエルシアが加わりその欠点も補えた。
防御魔法の派生に結界魔法と言うものがある。
その名の通り対象を隔離、隠蔽の役割を持っている。
結界の強度は術者の絶対魔力量に比例し、たとえ魔力が残り少なくなっても砕けない。
「なら明日の朝行動しようか。今日はもう夜だ。火は見ておくから寝てろ」
「うん。おやすみ」
そうして腫れた頬を触りつつ、エルシアの事を体の隅々まで知れたことを満足気に火の番をするのであった。
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