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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
3動き出す悪意
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59ライン超え





「もしかして帰りの教室で入れ替わってたの?」

「良い感してるね。その通りだよ、エルシア」

「っ!」


 アリスA(Automata)は身体強化されたファルトを振り払うと距離を置いた。

 そして手を向けた瞬間ファルトとエルシアは無詠唱の攻撃魔法によりリビングから外まで吹き飛ばされた。

 今の攻撃魔法により家の一角は完全に破壊され煙が立ち込め始めたのだ。

 門の前に居た警備員も庭から入ってくる


「どうしました!?」

「これは……!」

「いってぇ……。こいつもあの機械式魔道具と搭載なのか」

「この魔法では威力が低いですかね。確殺できないとは」


 警備員は突然起こったことに混乱していた。

 そんな中アリスAは淡々と話を続ける。


「確殺できないならば放出量を上げるだけですね。手っ取り早く死んで欲しいんで抵抗しないでくださる?」


 再びアリスAが手を向けた瞬間目の前で攻撃魔法が炸裂した。

 エルシアが咄嗟に機械式魔道具を抜いていたのだ。

 防御魔法が即時展開され攻撃魔法を防いでいた。


「ザックの機械式魔道具ですか……。まだ残っていたの」

「ファルト! 今!」

「我の威を示せ、イノセンスアビリティ=リコネクト。我の威を示せ、アントニムビースト=リコネクト。我の威を示せ! ビーストフォームアクティベート!」


 ファルトがアリスAに襲いかかるタイミングに合わせ機械式魔道具のトリガーを引いた。

 アリスAの付近に着弾し体制を崩した所にファルトが魔力の爪で胸に突き刺す。


「ふ、ふふ。負けてしまいました。ですが、予定通りです……」

「どういうことだ!」

「入れ替わった本物はどうなってると思います……? そう、本物のアリ、スのこと……です。今頃……は、既、に」


 魔力の低下と共にアリスAの機能が停止し、魔力の爪を引き抜くとその場に崩れ落ちた。

 警備員が倒れたアリスAに駆け寄り、本当にオートマタという事を確認して憲兵に通報する。

 エルシアとファルトは入れ替わってしまった本物のアリスに危機感を募らせていた。


「アリス!」


 静かになった為かロナルドが家の奥から出てきた。

 庭で横になっているアリスAに近寄ると、ホッとした表情を浮かべた。

 しかしそれもつかの間。

 ファルトとエルシアに本物のアリスの居場所を問うてきた。


「それは……」

「アリス! アリスはどこに居るんだ……。アリス……」

「エルシア、アリスを探しに行くぞ」

「うん」


 2人はすぐに家を出ると学園へ向かった。

 学園に戻ってくると直ぐに校内を探し、まだ下校していない生徒に声掛けをした。


「くそ。見つからねぇ」

「もう学園には居ないのかな」

「あれ? そこにいるのはエルシア君とファルト君じゃないか! 部活サボって何をしてるんだ?」

「あ、リンネ部長」

「アリスを見なかったか!?」

「? 何を言ってるんだ? アリス君ならさっき私を無視して君たちと帰ったじゃないか」


 リンネからの情報によりアリスは既に学園から出ていることを確認できた。

 なぜなら2人は帰るときにリンネに会ってないからだ。

 そして貴重な情報がもう一つ。

 自分たちのオートマタも居るということ。


「リンネ部長ありがとうございました」


 そう言うとエルシアとファルトは学園を出ていった。

 行き先はシルヒハッセ家方面。

 それ以外はアリスが行かないだろうと予想したからだ。

 しかし学園からの帰り道で発見することは出来ず、シルヒハッセ家に戻ることになったのだった。


 家に戻ると既に憲兵が多数来ており、現場検証を行っていた。

 エルシアとファルトも話を聞かれ、ありのままを話す。

 エントランスのソファーには項垂れたロナルドの姿が有り、エルシアが声を掛けに行く。


「ロナウドさん大丈夫ですか?」

「何だ……片翼(ハーフ)か。アリスは見つかったのか?」

「アリスちゃんは私達のオートマタと一緒に下校したらしく行方不明です」

「何でだ! 私達が何をした!」

「相手はレジスタンスです。こちらが何をしなくても仕掛けてきます。でも、アリスちゃんだけは助けます! 自分の命も代償にして!」





 時はエルシア達が職員室に行っている時まで戻る。


(エルシアさん、ファルトさん遅いですね)


 アリスは1人教室で待っていた。

 それから5分ほど待つと、エルシアとファルトが帰ってきた。


「ただいまー」

「おかえりなさい。エルシアさん、ファルトさん」

「じゃ、帰ろうか」

「ええ。帰りましょう」


 教室の鍵を閉め職員室のロッカーに鍵を戻すと、正門から学園から出る。

 その時リンネの声が後ろから掛かったがエルシアとファルトはそれを無視し、アリスを連れ帰路に着くのだった。


 途中にスイーツ店に寄ろうとエルシアがはしゃぎ始めたのだ。


「しょうがないな今日だけだぞ。アリスはそれでいいか? もちろんエルシアのおごりで」

「夕食もあるので少しだけですよ」

「やったー!」


 3人はスイーツ店に入ると席についた。

 テーブルにはメニュー表が置かれており、今日のイチオシと書かれていた。

 エルシアは何にしようか笑顔で決めている。


「私はシュークリームで結構です」

「私は今日のイチオシ!」

「俺はコーヒーでいいわ」


 3点注文すると店員は奥へと戻っていった。

 しばらくすると店員が2回に分けてスイーツを持ってきた。


「わー! 美味しそう……じゅるり」

「そんなに食うと太るぞ」

「太らないもーん」

「それではエルシアさんごちそうさまです」


 アリスはシュークリームに口をつける。

 甘いカスタードクリームと大人の苦味があるチョコレートクリームが口の中に広がった。


「アリスちゃん美味しい?」

「ええ。美味しいですね。チョコレートクリームがいい味を出してますね」

「やった! 美味しくてよかった!」


 シュークリームを食べ終わった後コクリと眠気に誘われた。

 眠気を払おうにも払えず、立ち上がる。

 しかしエルシアとファルトがそれを止める。


「眠気に負けちゃおうよ!」

「さあ寝るんだ」

「エルシアさん? ファルト……さん? 一体……何を……?」


 意識が落ちようとした時店の外からエルシアとファルトの声が聞こえる。

 その瞬間に自分が罠に掛かったことを察したが眠気に耐えきれず意識は闇の中へ落ちていったのだった。





 町外れの廃倉庫に男女4人が居た。

 その内の1人はアリスだ。

 

「良……出来て……オートマ……な。私も…………欲し……わ~」

「ん……(声が聞こえますね……あれ、私どうして……)」


 アリスの意識が徐々に覚醒してくる。

 それに気がついた大柄な女がアリスに声を掛ける。


「おーい。聞こえてる~? 起きろ~!」

「っ! んん! んー!」


 声を出そうとしたが布で口を塞がれており喋ることもできない。

 更に四肢を金属の拘束具で拘束されており動かせない。

 身体強化で脱出しようにも口を塞がれ詠唱することも出来ないのだ。


「起きたね。寝てる間にささっとやってしまう手も有ったんだけどさー。それだとツマンナイからね」

「……」

「そんなに睨まなくてもいいでしょ。とりあえず今からやること説明するね。まずこのチェーンソーで四肢を切断しまーす」


 それを聞いたアリスはどうすることも出来ない現実に覚悟を決めていた。

 

「あら? 反応が薄いわね。もっと泣きわめいてもいいのよ? じゃ、記憶に残るようにオートマタにやってもらおうか」

「アリスちゃん。おはよう!」

「アリスおはよう」

「……」


 チェーンソーのエンジンが唸る音が廃倉庫に響き渡る。

 大柄な女は何やら薬品を準備していた。


「はい、これ馬用の痛み止めね。予め射っとくから。痛みで失神とかショック死されたら興ざめだからね」


 そう言ってアリスに注射器で薬剤を注射する。

 既に覚悟を決めていたアリスには注射如きで心を乱されない。


「いいねいいね。その澄まし顔が崩れる所見た~い! 2人ともやっちゃって!


 チェーンソーが更に唸りを上げ、チェーンソーの刃がアリスの太ももを引き裂く。

 肉が裂ける音と骨が削れる音が廃倉庫に木霊する。


「っ! っ!」

「へ~。足落とされたのに声もあげないんだ。次腕ね」


 再びチェーンソーが唸りをあげる。

 腕が切断され四肢から大量の血が流れる。

 それを大柄な女は焼いて塞ぎ、再び注射器を用意していた。


「残念。澄ました顔が崩れるの見れなかった」


 アリスに再び注射すると、再び眠気が襲ってくる。

 

「この後ちゃんとメッセージ付きで家に送ってあげるから、そのまま寝ちゃってね」


 眠りにつくまで大柄な女の顔を睨めつけるのであった。






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