58ニセモノ
今日は修業式が行われるに当たって全生徒が体育館に集まっていた。
教員から学園長まで色々な人に夏休みの過ごし方を言われる日だ。
(明日から夏休み~! 海~初めての海~! 楽しみだ!)
エルシアはすでに夏休みに計画されている海旅行に気分が染まっていた。
もはや教員の言っている事など耳に入っていないのだ。
そしてもう1人エルシアと同じく気分が染まっているものが居る。
(ぐふふ。俺が計画した海旅行! 今から女性陣の水着が楽しみだぜぇ!)
そうゲルトラウドだ。
こちらは若干ゲスな気持ちを抱いているが、エルシアと同じく教員の言っていることは耳に入っていない。
聞いてない人も居たが終業式も終わりホームルームの時間になった。
「委員長! 号令!」
「きりーつ! 気をつけ! 礼!」
「それじゃあ君たちも明日から夏休みだ! 先生も夏休み満喫しちゃうぞ!」
「……」
「でもいいか? 夏休みだからと言って羽目を外すなよ! 先生は羽目、外します!」
「えぇ……」
いつもながらのテンションで語るグルルトにため息が出るA組生徒。
そしてそのままのテンションで教壇にプリントが置かれる。
「これ、先生からの夏休みの宿題だ!」
「ええー!?」
「なんだってー!?」
黙っていたエルシアとゲルトラウドが叫んだ。
実は先程の終業式で宿題の事も話していたのだが、見事に馬の耳に念仏状態で有った2人には衝撃の事実だった。
「おいおい、2人とも。さては終業式の話聞いてなかったな?」
「ギクリ」
「君たち宿題あるんだから夏休みの間勉強をサボるなよ? 先生は旅行でも行こうかな~!」
自慢気に語りながらプリントを配っていくグルルト。
それを意気消沈しながら受け取るエルシアとゲルトラウド。
「よし、全員に配り終えたな! では夏休みも羽目を外すこと無く宿題もやること! じゃ、ホームルーム終わりだ!」
「夏休みだー!!」
「あ、委員長2人職員室に来てくれな! 渡す物がある!」
「あ、はい……アリスちゃんちょっとまっててね」
「わかりました。教室でお待ちしてますね」
エルシアとファルトはグルルトの後を付いていき職員室に行く。
「ちょっとまってな、渡すものは~っと? あれ? どこ行ったかな? すまん! 少し待ってくれ!」
「何探してるんだろ?」
「さあ。俺にもわからん」
「どこだ~。俺どこ置いたっけなぁ」
ガサゴソとデスクの上を漁っているグルルトだが、もとから荷物や書類が多いため余計に散らばっていく。
(グルルト荷物多すぎ。片せよ……)
「あ~、えー。お! 在った! 在ったぞ! ほれ!」
「? これは?」
「夏休み明けにある生徒総会資料だ! 新規会長は2年B組のロビンだ。憲兵の息子らしいが校則をめちゃくちゃ厳しくするらしい! そこで各クラスの委員長から意見を出し合うだと!」
「はぁ……」
「そんじゃ! よろしく!」
プリントを渡され職員室を後にした。
廊下で何を考えればいいのか頭を悩ませて居たが、ひとまずアリスの元へ戻ることにした。
「アリスちゃんに聞けばいいかな?」
「そうだな。それもいいかもな」
教室の扉を開けようと手を掛けるがガタガタと音を立てるだけで扉は鍵がかかっているようだ。
小窓から中を覗くが誰も居ない。
「あれ? アリスちゃんどこ行ったんだろう」
「トイレじゃね?」
「おまたせしまた。ちょっとお手洗いに行ってました」
「じゃ、帰ろうぜ」
いつもの3人で帰路につく。
グルルトから渡されたプリントについてアリスに質問することにした。
プリントの説明をして、アリスの反応を待った。
「そうですね。校則を厳しく……やはりエルシアさんとファルトさんの事が有ったからでしょうか……。抜き打ちの持ち物検査はどうでしょうか? 魔道具やら学業に関係のない物を洗い出せます」
「おー。さすがアリスちゃん!」
「いえいえ。お父様に比べればどうということはないです」
「? それでも私よりいい! あ! ここのスイーツ店閉店してる……。なんで~!」
「この間の店か。あんまり売れなかったんじゃね?」
「そんな~」
エルシアは目を付けていたスイーツ店が潰れてがっかりしていた。
「残念ですが他のお店を探しましょう」
「そうだな。他にもあるって」
エルシアを宥めた所で再び歩き出した。
道を歩いていると女性から話しかけられる。
「シルヒハッセさん。こんばんは」
「こんばんは」
「もう夏休みでしょ? 今年はでないの?」
「え……何にでしょうか?」
「いやねぇ、格闘魔法大会に決まってるでしょ?」
「格闘魔法大会には今年は出ないのですよ」
「あら、残念」
軽い挨拶だけすると女性は去って行く。
エルシアはアリスに今の人の事を聞くが、はぐらかされてしまった。
(なんか今日のアリスちゃん変な感じ)
家の前まで着くとアンソニーが雇った警備員の2人が挨拶をする。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「ご苦労さまです」
「お疲れ様でーす!」
「うぃーす」
無事帰宅した3人はリビングへと入った。
そこにはルルとロナルドがお茶を飲みながらテレビを見ていた。
「ただいまでーす!」
「あら~。3人ともおかえりなさい。手を洗ってね」
「は~い」
エルシアとファルトがキッチンに向かうが、アリスはその場から動こうとしなかった。
不思議に思ったルルはお茶を飲むのを止めアリスの方へ向かった。
どうしたのかと話しかけるが無反応なアリスにルルが手を差し出す。
不意にその差し出した手を捕まれ驚くルルだが、違和感が込み上げてきた。
「え? アリス? 手が……冷たい?」
「私が手を洗うのはあなた達親子の血を流した後でいいかなぁ?」
その瞬間ルルの体がくの字になりながら吹き飛ばされ、リビングの壁へと叩きつけられたのだ。
「かはっ」
「ルル!? アリス! なぜ母親を殴る!? 何か有ったのか? おじいちゃんに話してみな――」
「――死ね、老害」
アリスの手刀がロナルドに食い込む寸前にファルトが割に入り手を掴んだ。
「アリス! 何やってんだ!」
ルルの方にはエルシアが向かった。
「ルルさん大丈夫!? 我の威を示せ、ヒール」
「ゲホゲホ! エルシアありがとう……」
「良かった……。アリスちゃんどうしちゃったの!」
「楽しかったよ、お友達ごっこ。ここで全員死にな」
「おぉ……アリスや。どうしてしまったんだ」
「爺さん下がってな!」
ファルトは掴んでいる手を捻り上げようとしたが、アリスに手を解かれてしまった。
アリスは今までエルシア達の前で出したことがない笑みを浮かべている。
「本気で来ないと死んじゃうよ?」
「冗談……じゃなさそうだな。後悔するなよ」
ファルトとアリスが戦闘に入る。
その間にエルシアはロナルドとルルを家の奥へと避難させた。
家の奥からリビングに戻ってきたときにはリビングは半壊していた。
「ファルト援護するよ! 我の威を示せ、アイギス=エモートハンマー!」
「おう。我の威を示せ、アルティメットフィジカルブースト」
「それが不可視の攻撃ね。でもこの目にかかればそんなものはどうということはないね」
アリスはエルシアの攻撃を躱すとファルトへ迫った。
取っ組み合いになり、2人の力比べに発展しエルシアの援護が無くなった。
「ファルト! ちょっと離れて!」
「分かってる! お前本当にアリス、いや人間か?」
ファルトがそう思ったのも理由がある。
すでに身体強化を発動しているファルトに対し、アリスは身体強化を発動していないのだ。
いくらアリスが強かろうとも人間には限界がある。
それを軽々超えているのが今の状況だ。
「ふふ。どうでしょうか。調べるなりすればいいでしょう」
「させてもらうぞ! エルシア、抑えるから調べてくれ」
「りょーかい。我の威を示せ、ボディーカルテ……!?」
「どうした?」
エルシアはとても驚いた表情を浮かべていた。
魔法での鑑定結果に驚いたのだ。
「そ、その。それアリスちゃんじゃない。むしろ人間でもない」
「おめでとうございます。私は半自律、アリス型オートマタと名乗っておきましょうか」
いつ入れ替わったのかエルシアは考えを巡らせ1つの答えにたどり着いたのだった。
「☆☆☆☆☆」を押して応援していただけると嬉しいです!




