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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
3動き出す悪意
56/113

56襲撃





 学園での暗殺未遂が有ってから数日。

 シルヒハッセ家では家族会議が行われていた。


「憲兵から聞いたよ。シルヒハッセの関係者が狙われているとね。そこで我々の警備も増やそうと思う」

「ふん! バカ息子が片翼(ハーフ)にてを出すから無駄な警備を増やすことになるんだ!」

「父さんそれは関係ないと幾ら言ったら気が済むんですか?」

「ええい、うるさい! アリスだけ守ればいいんだ! アリスに学園送り迎えと警備の要請を出す!」

「お祖父様! 私には護衛や警備の者はいりません!」

「あ、アリス! おじいちゃんはアリスの身を案じて……」


 アリスは身を案じられる事には抵抗は無いが、身を他人に任せるような事が苦手なのだ。

 幼いときからの癖であり、今でも変わらない。


 ファルトがアンソニーに目配せすると、アンソニーから目配せが帰ってきた。


(アリスの護衛にはエルシアとファルトが付いている。先日の件でも実力を見せている。変に周りにアピールするよりいいかもしれない)


 そう考えたアンソニーはロナルドに意見する。


「父さん、アリスにはエルシアやファルトが居る。アリスの事はまだ大丈夫じゃないかな」

「アリスに何か合ってからじゃ遅いんだぞ!」

「お祖父様! 私は大丈夫です! ご自身の心配をなさってください」


 この後もひと悶着有ったが、無事に家族会議終わった。

 結果、家の警備を増やす事となった。





 エデルガーデン廃材施設地下。

 レジスタンスの活動拠点ではちょっとしたことが問題になっていた。

 先日死んだザックが喋った情報によりレジスタンスの拠点の一つが憲兵の摘発が有ったのだ。


「ルーファス! 情報の確認はどうなってる!」

「ちょっとまってくれ! 今確認させてる」


 ルーファスと呼ばれた男、ルーファス・ボールは以前アーノルドの家にちょっかいを指示した男だ。

 無線機を手に持ち外にいる工作員に指示を出していた。


「憲兵内部情報はどうなってる? ……ああ。何? それは本当か? ああ、分かった。一旦切るぞ。フレドリックさん! ここの情報は漏れてないそうだ」


 フレドリック・オスカー。

 エデルガーデン廃材施設地下活動拠点のリーダーだ。


「なら良い! ルーファスの方はどうなっている?」

「あー。それなんだが、もう1人の方へゴーレムを差し向ける手はずになってるぜ」

「それで駄目なら?」

「オートマタを使って対象を拘束するだけだ。ちょっと痛い目見てもらうけどな」


 そう言うと部屋から出ていった。

 通路に出たルーファスは地下2階へ向かった。

 ゴーレムが保管されている階だ。


「おーい。オートマタは準備完了してるか?」

「あ、はーい。準備完了ですよー。音声の方もサンプリングされたのをそのまま採用しているので本人と寸分違わずに喋れますよ。動き方や喋り方も情報提供が有ったのでそれを頭に叩き込んでくださいねー」

「出力の方はどうなってるんだ?」

「ゴーレムの経験を生かして作ったオートマタですが、戦闘用ゴーレム並の出力と魔法を10回使えるようになってますよ」

「それならいい。襲撃用のゴーレムは?」


 次の襲撃に使うゴーレムの話に移った。

 前回はあっという間に破壊されてしまい完敗だった。


「今度のゴーレムは防御魔法を重点的にしました。出力もアップしてますね。自律性も上がってますのであらゆるパターンに対応できます」


 今回は前回のようにはならないと太鼓判を押していた。

 ルーファスにはどこがどう変わっているのかは分からないが、凄いのだろうと思考していた。





「あちぃな……」

「だね~」

「暑いですね」


 季節は夏。

 夏休みが近づいてきた頃、教室では夏休みにどこに行くかが話題になっていた。


「ファルトはよぉ~夏休みどこか行くのか?」

「俺か? エルシアとアリス次第だな」


 ゲルトラウドとファルトが話をしていた。

 ファルトも夏休みにはコレと言った外出予定もなく、エルシアかアリスが何か言い出せば付いていくと言ったスタンスだ。


「そうか~。俺も特に無いんだよなぁ。でもここだけの話」

「なんだ?」

「ちょっと耳貸せって」


 ゲルトラウドがファルトの耳元で話をすすめる。


「ぶっちゃけ見たくね? 女子の水着姿」

「ちょっとその話詳しく」

「いつもマイペースなリュドミラ、天真爛漫なエルシア、お嬢様のアリス。夏の海辺でその水着姿を満喫。いい話じゃないか?」

「海行こうぜ海!」

「ファルトなら乗ってくれると思ったぜ! 今年の夏は海だ! 水着だ!」


 テンションが上りきっている二人組。

 それが気になったのかエルシアがやってきた。


「なになに? 2人で何話してるの~?」

「夏休みになったら海行こうぜ!」

「海ってあの海?」

「そうそう、青くて広いやつだ」

「本当!? みらみらとアリスちゃん誘っても良い?」

「いいぜ!」


 エルシアは笑顔でアリスとリュドミラに話をしに行った。

 その後ろでは男子二人組が悪い笑顔を浮かべているとは知らずに。


「海ですか?」

「海だ~!」

「一緒に夏休みになったら行こうよ!」

「良いですね。ぜひ行きましょう」

「行くよ~!」


 男子達の思惑通りアリスとリュドミラも海に行くことになった。

 そうと決まれば話が早く、早くも水着を何買うかを話し始めていた。

 それをニヤニヤと見ている男2人。

 欲望渦巻く夏休みが始まろうとしている。


 放課後、アリスとエルシアが職員室に呼び出されファルトは正門で待つことになっていた。

 正門では部活の生徒や帰宅の生徒が屯していた。


「全く。2人して呼び出しとは。何したんだ?」


 ファルトは正門にある銅像に寄りかかっていた。

 のんびり空を眺めていると、空の色が変わった気がした。

 不思議に思い、周りを見るが他の生徒は何も騒いでいない。


「何だ……?」


 流石に銅像に寄り掛かるのをやめ、周りにいる生徒に何か違和感がないかを聞き込みすることにした。


「ちょっといいか?」

「はい? 何でしょうか?」

「今何か違和感なかったか?」

「え、そんなの……んー。わかりませんね。すみません」

「そうか」


 その後も3~4人に話しかけるが、違和感はなかったと言われ、ファルトは自身の勘違いかと思っていた。

 しかし、銅像前に戻った所で一番最初に話しかけた女子生徒が走って戻ってきたのだ。


「ん? どうした?」

「はぁはぁ……。あの! 正門を出て少し行ったら見えない壁が有って、帰れないんです!」

「何だって? 結界か何かか? ん? 結界? まさか――」


 そこまで判断が進んだ時、校舎の影から武装したゴーレムの集団が出てきたのだった。

 ゴーレムの集団はまっすぐファルトへ向かっており、直ぐに女子生徒を逃した。

 流石に動揺が走り、周りがざわめく。

 そして一定距離近づくとゴーレムが抜剣した。


「へ。俺と殺ろうってのか。やってやるよ! 我の威を示せ、グレイズスター!」


 攻撃魔法がゴーレムに放たれ、直撃したゴーレムが吹き飛んだ。

 それと同時にゴーレム達が動き出し、周りからは悲鳴が上がった。


「我の威を示せ、アルティメットフィジカルブースト。我の威を示せ、エレメンタルソード!」


 振り下ろされた剣に合わせ魔法剣を振るった。

 安物の剣は切断されゴーレムの頭部に魔法剣が当たり火花が散る。


「まとめて吹き飛ばしてやる! 我の威を示せ、マナ・エクスプロージョン!」


 ゴーレムの集団が吹き飛ばされ当たりに散らばる。

 周りの生徒達は終わったのかとゴーレムに近寄るが、ゴーレムが立ち上がり再び悲鳴が上がった。


「チッ! 防御魔法か。なら壊れるまでやってやる! 我の威を示せ、イノセンスアビリティ=リコネクト。我の威を示せ、アントニムビースト=リコネクト。我の威を示せ! ビーストフォームアクティベート!」


 ファルトは獣の様に魔力の牙、魔力の爪、魔力の毛並み、魔力の尻尾を形作る。

 以前委員長を決める戦闘で使ったファルトの魔法だ。

 それを持ってして防御魔法を貫こうとしたのであった。






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