55後始末
学園上空に大剣を携えた髑髏の巨人が顕現した。
その巨人は携えていた大剣を防御魔法の壁に向け腕を上げた。
そして大剣を振り下ろした。
大剣が防御魔法に触れた途端まるでバターの様に防御魔法が切り裂かれた。
更に一番強度の高い魔道具周りの防御魔法さえもいとも簡単に切断し、魔道具自体も破壊したのだ。
防御魔法を展開する魔道具が破壊されたことにより内部との接触ができるようになった。
「魔法強制終了! エルシア君! ファルト君! 無事か!」
「あ、ハロルドさん。無事ですよ~!」
「俺は無事とも言えないが……大丈夫だ」
無事ハロルドと合流出来たエルシア達は今起きている状況を話し始める。
身代わりの腕輪が機能しなくなった事。
クラスメイトと共に生徒達を気絶させていった事を話した。
「そうか……! ここは危険だ、直ぐに避難するんだ!」
「わかりまし――」
「それは困る。ここでやられてくれないと金が出ねぇんだ」
「誰だ!」
ハロルドが叫ぶと、1人の生徒が出てきた。
その生徒は夜の繁華街に居た3人の生徒のうちの1人であった。
生徒の手には何かの魔道具が握られており興奮状態であることがわかる。
「お前達2人にはわりぃが、これも金の為だ! 身代わりの腕輪強制作動!」
そう言うと魔道具を発動させたのだ。
身代わりの腕輪を着けた全員の腕輪が作動し、魔力が充満している安全地帯に転移が開始される。
「いかん! 止めるんだ!」
ハロルドが直ぐに取り押さえにかかる。
「エルシア! さっき渡した機械式魔道具を使え!」
「う、うん」
そこまで言葉を交わすと安全地帯に参加者全員転移された。
次の瞬間安全地帯方面で爆発が起きたのだ。
ハロルドは魔道具を持った生徒を拘束しているため様子を見に行くことが出来ない。
「くっ! しまった!」
「会長! ご無事ですか!」
「カルメン副会長か! 安全地帯の方に行ってくれ! 魔力が乱れて通信機がつかえん!」
「わかりました。会長もお気をつけて」
そう言うとカルメンは安全地帯だった場所に急ぐ。
爆心地は未だ土埃が舞っており視界が悪い。
駆けつけたカルメンは安否を確認するために声を張った。
「皆さんご無事ですかー!」
「……ケホケホ。無事でケホケホ。でーす!」
土埃が晴れると参加生徒全員の無事が確認された。
その後は生徒会の仕事が始まった。
捕まえた2人の生徒を風紀委員が尋問し、背後関係が調べられ謎の人物から大金を貰って犯行に及んだことがわかった。
生徒総会からの報告で学園側は2人の生徒を退学処分にしたのだった。
一方現在生徒会がエルシアから預かった機械式魔道具を持っていた生徒を尋問に問題が発生していた。
「この人名前はあるけど顔写真が別人ね」
「ルシアリーダーどうしますか?」
「決まっている。身代わりの腕輪細工犯と名前が同じだ。裏に組織が居ないか吐き出させる」
「イエスリーダー」
特別生徒指導室に入ると、椅子に手足を縛り付けられている人物が居た。
部屋には窓一つ無く、入り口は金属製のドアがあるだけだ。
「気分はどうだ?」
「最悪だね。もっと客人を持て成す格好があるのではないかい?」
「口だけは達者だな。ルシアリーダー始めましょう」
「そうだな。まず聞くが、お前は誰だ? アレックス・ダニエルでは無いだろう。アーノルドとエルシア、ファルトの試合で会ったアレックスとも違うな」
「さぁ? 私はアレックス・ダニエルだよ。それ以外の何者でもない」
「やれ」
「はい」
ルシアがそう言うと一緒に入ってきていた風紀委員が鉄の棒を生活魔法で熱し始めた。
それに表情を少し変える。
「そうだな。まず脇腹から行こうか」
「待ちたまえ! その熱した鉄の棒をどうするつもりだい!? まっ――」
肉が焼ける音がし、部屋に悲鳴が響き渡った。
「もう一度聞くが、お前は誰だ」
「アレックスだよ! 信じてくれ!」
「やれ」
「まっ……あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
二度目の肉が焼ける音。
もはや尋問とは言わず拷問である。
「っ……! っ……!」
「答えれば楽になるぞ。お前は誰だ」
「ら、楽に?」
「あぁ。約束しよう」
「わ、私は……。私、は。アレックスじゃない……」
「では誰だ」
観念したかのような表情で話し始めた。
「私は、ザック・テートと言う」
「ザックか。いいだろう。我の威を示せ、ヒール」
「……もしかして飴と鞭ってやつかい?」
「まぁそうだな。壊してしまったら後で怒られるから」
ルシアはそう言うと治療を完了させた。
もちろん火傷の痕はきっちりと残っているが。
「次の質問に行こうか、ザック、お前らの目的は何だ?」
「そ、それは……」
「そうか、なら――」
「答える!答えるからやめてくれないか?」
「なら話して」
言葉が断続的に区切られながらもザックは話す。
しかし、途中から開き直ったかのようにペラペラと話し始めたのだ。
「はは、ははは。どうせ私は組織の裏切り者とされて処分されるんだ。全部話してしまってもいいかな? ははは」
(やはり殺人も厭わない組織か。なら聞けるうちに聞き出しておこう)
ルシアはザックから情報を引き出し始める。
横にいる風紀委員がノートに証言をまとめ上げる。
ザック曰く、これらの行動は全て革命のための前準備に過ぎない
★
「情報漏えいの阻止……情報漏えいの阻止……情報漏えいの阻止……情報漏えいの阻止……」
一人ブツブツと小声で声を漏らしながら特別生徒指導室に向かってくる生徒が居た。
外で見張っていた風紀委員の1人がそれに気がつき声を掛ける。
「おい、お前何をしている?」
「情報漏えいの阻止……」
「何をブツブツと……」
「なぁあいつ変じゃね?」
2人が対処を検討している間に特別生徒指導室前まで来ると、制服の裏ポケットから魔道具を取り出したのだ。
それを見た風紀委員はすぐさま取り押さえに入った。
しかし発動の方が早く、魔道具が起動してしまった。
特別生徒指導室の中から何かの破裂音が聞こえてくる。
「この! 何をした!」
「ハハハ! これで報酬は独占だ! ハハハ!」
「ルシアリーダー扉開けます!」
扉を開けると、部屋一面に血と肉が飛び散り上半身が無いザックの姿と、防御魔法を発動していたルシアの姿が有った。
「何が有った?」
「生徒の1人が魔道具を行使し、取り押さえました」
「で、この有様か」
「すみませんでしたリーダー」
「いや、いいよ」
ルシアはそう言うと、生徒名簿を広げた。
「こいつは生徒ね。写真と同じ顔だ」
「どうしますか?」
「一応尋問して先生に報告。どうせあの2人みたいに金目的だろうけど。さて憲兵呼ばないとね」
いくらなんでも上半身が無い死体を学園内に置いておくことはできない。
憲兵を呼んで然るべき処置を撮って貰う必要がある。
それと同時に先程聞き出した情報も憲兵に流してしまうことにした。
★
「と言うことが今回の出来事だ! わかったか? 魔道具は返しておくぞ」
「は、はぁ」
「兎に角、そのレジスタンスがシルヒハッセの関係者にちょっかいを出してるってことだ……ですね」
「一応アリス君にも説明しておいたぞ! これからも気を引き締めて周りには気をつけるべきだな」
生徒会準備室から出ると、厄介なことに巻き込まれたとファルトが嘆いていた。
エルシアがそれを宥めると教室へと戻ることにした。
「おかえりなさい。エルシアさん、ファルトさん」
「たっだいま~アリスちゃん! 帰ろうか」
「そうですね。帰りましょうか」
2人は色々有った日だったが、わりとのんびりとしていたのであった。
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