54デスマッチ その2
「俺が最初に倒して会長になるんだ!」
「何言ってるの! 私がなるの!」
「我の威を示せ、ファイアボルト!」
「うわ、何すんだてめぇ」
「貴方から失格にしてあげるわ」
参加生徒同士の争いが始まった。
その空気に当てられ、アチラコチラで戦闘が始まったのである。
そんな中1人エルシア達に近づいて来る生徒が居た。
「おい、ファルト、エルシア! どうなってんだ?」
「ゲルトラウド、お前は冷静なんだな? さっき身代わりの腕輪の効果が無くなったんだ。それに機械式魔道具の通信機も外と通じなくなっているんだが……。おそらく外で何か有ったに違いない」
「なんだよそれ……。俺たちどうなるんだ?」
「それは……」
ファルトは言葉を濁したがエルシアが続きを言葉にした。
「参加生徒同士のつぶしあいが今以上に拡大して最後の1人まで続くと思う」
「っ……!」
「そこで! 作戦が有るの。ちょっと2人とも耳貸して?」
ゴニョゴニョと2人に話すと、即顔を縦に振ったのである。
「よし、それで行こう」
「おうよ」
「じゃあいくよー! 我の威を示せ、サイレントミスト!」
ステージ上に霧が立ち込めあっという間に視野が1メートル以下になったのだ。
そして続けてエルシアが魔法を唱える。
「我の威を示せ、サーモアイ」
ファルトとゲルトラウドに生活魔法がかかる。
結界魔法であるサイレントミスト内では魔法強度の低い探査系の生活魔法は効果がないのである。
魔法強度とは相手の使う魔法と自分が使う魔法に込められた魔力の差異を示す言葉だ。
片翼であるエルシアの魔法に込められた魔力量は多く、普通の人間の魔力量ではエルシアの魔法強度には勝てないのである。
霧の中を見通す為にエルシア自ら生活魔法を使い、魔力強度的にプラスマイナスゼロであるため2人の目にはサーモグラフィと同じ赤外線で、世界を見る事ができるのである。
「それじゃ行ってくる」
「いってらっしゃーい」
霧の中を一直線に走っていく2人。
エルシアは一瞬で見えなくなった2人を見送ると、コンテナの影に隠れたのだった。
★
「ファルト、俺は左からやる。右を頼んだぞ」
「任せろ」
小声でやり取りをする2人。
ファルトとゲルトラウドの目には相手を見失って彷徨っている参加生徒が見えていた。
「何なんだよこの霧は! 何も見えねぇ」
「誰かそこにいるの! 我の威を示――くぁ!」
「な、なんだ!? がぁ……」
「よし、次だ」
ファルトとゲルトラウドは視界がない霧の中、相手の背後に周り首に手刀を入れ気絶させたのだ。
ダメージを極力避け行動不能にするのが作戦だ。
2人は次々と不意打ちで気絶させていくと、とある生徒で不意打ちが防がれた。
「おっと、視界不良で不意打ちとは卑怯だね?」
「ちっ」
「おや? また隠れるのかい?」
一旦霧の中に姿を隠し、ゲルトラウドと話す。
「ここは俺に任せろ。お前は先に行って気絶させてこい」
「大丈夫かぁ? 不意打ちを避けた奴だぞ」
「大丈夫だ。とっとと行け」
「わかった。 やられんなよ」
2人はそれぞれの役割を果たしに動く。
ファルトは目の前にいる生徒、ゲルトラウドは霧の中にいる他の生徒へと。
「我の威を示せ、アルティメットフィジカルブースト」
「ん? 来るのかい?」
ファルトは瞬時に生徒の目の前へ肉薄すると、反射神経を活かしそのまま背後へと回り込む。
そして首元へ手刀を叩き込む。
「甘いね」
「なっ!? いつの間に防御魔法を!」
首元へ向けた手刀は防御魔法に阻まれ届かなかったのだ。
しかも詠唱の類はファルトには聞こえなかった。
「ほら、痛いの食らいなよ」
振り向いた生徒の手に何かが握られていた。
それは何か筒の様なものを排出した途端、ファルトの体は空を舞っていた。
「ガ、ハッ……!」
一体何が起きたのかファルトには理解が出来ていなかった。
なぜ詠唱もなく攻撃魔法を受けたのか刹那の時間で頭を巡らせる。
「い、いってぇ……。攻撃魔法の無詠唱? 違う、魔道具だ」
「素晴らしい。考えるだけの脳はあるようだね。でも対抗出来なければ意味ないよね?」
「我の威を――」
「遅い遅いよ」
「ぐはっ!」
再び吹き飛ばされてしまった。
反撃しようとも攻撃魔法の詠唱中に攻撃を受けてしまう。
傷む体を酷使し、再び肉薄する。
「シィッ!」
「無駄だよ? 君も足掻くねぇ……。それ、お返しだよ……!?」
「捕まえたぞこの野郎!」
「くっ!」
ファルトが生徒の使っていた魔道具を掴んだのだ。
無理やり魔道具を使ったせいで魔道具ごとファルトが吹き飛ばされた。
「いてぇ……身代わりの腕輪機能してたら確実に場外だったな。だが収穫は有った!」
ファルトの手には相手が使っていた魔道具、正確には機械式魔道具が握られていた。
それはハンドガンの様な形をしていてトリガーが付いている。
さらにセレクトが有り、ATTACK、DEFENCEと書かれていた。
弾倉には魔法陣らしき物が描かれ、魔力が込められた薬莢だ。
「か、返せ!」
「ケッ! こうすれば良いんだろ!」
「ぐあ!」
トリガーを引き、攻撃魔法を放つ。
それが命中し意識を刈り取った。
「この魔道具エルシアにあげようか……。パクってもバレないだろう。っていうか魔道具の持ち込み禁止だろ! 没収!」
引き続き生徒の意識を刈り取ろうと動こうとするが、先程の戦闘でのダメージが体に来ていた。
「くっそ。体が動かねぇ……。3回も攻撃魔法直撃はキツイな」
後ろからザッっと砂利を踏む音が聞こえた。
瞬間に傷む体を動かし魔道具を向けた。
「誰だ!」
「お、おい。ちょっとまてよ、俺だよ」
「なんだ……ゲルトラウドか。それでどうした?」
「一応全員気絶させたけどよ、そっちは大丈夫なのか?」
「大丈夫とはいい難いが大丈夫だ。無事倒せた。ちょっと攻撃を直撃して動けないがな」
ファルトはその場で大の字で倒れ込むと、ゲルトラウドに頼み事をした。
「すまんがエルシアを連れてきてくれ」
「わかった。そこから動くなよ」
★
「我の威を示せ、エクセリオンカノン」
グラウンドを囲う防御魔法にハロルドが攻撃していた。
内部での激しい戦闘にも耐えられる様に設計されているためその強度は強く、並の攻撃では弾かれるだけだ。
防御魔法を発生させている魔道具はグラウンド内部に有り、それ自体も防御魔法で覆われているため魔道具だけを破壊することは出来ない。
「はは! 硬いな! これならどうだ! 我の威を示せ、エクセリオン=リコネクト! 我の威を示せ、ハイパーノヴァ! 我の威を示せ、ハイパーエクセリオンノヴァ!」
辺りに衝撃波が発生するほどの威力を持った攻撃魔法が炸裂した。
しかし、防御魔法の壁はびくともしない。
「これも駄目か! これは困ったぞ……。高い魔道具は良い性能してるな!」
ハロルドの声は笑っているが、目が笑っていない。
「我の威を示せ、マジックチャージ。我の威を示せ、マジックチャージ。我の威を示せ、マジックチャージ。我の威を示せ……」
以前ファルトがトレーニング中に使用したマジックチャージを何度も何度も重ねがけしていく。
デメリットは重ねがけする度に増していくのがこの魔法だ。
「体が痛む! こんな物殺人地味たこんな状況に比べればどうということはない! 我の威を示せ、マジックチャージ。我の威を示せ、マジックチャージ」
魔力を練り上げ、遂に魔法を発動させる。
前人未到の超大火力攻撃魔法だ。
「我の威を示せ! スターメルター!」
魔力が全身から放出し、吐血する。
ハロルドが会長たる所以の大魔法が今アークホワイト学園のグラウンドに顕現した。
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