53デスマッチ
ハロルドの宣言から3日。
学園に登校した3人は掲示板に人が集まっているのを見つけた。
「何か張り出しているようですね。これは……エルシアさん、ファルトさん。ハロルド会長が集団戦闘の日付を張り出したみたいです」
「なになに? 今日とかマジか」
「発表と実施日が同じって~!」
「もちろん生徒会選挙と同じ扱いになるので午前からありますよ」
教室へと移動した3人。
今日の教室はピリピリとした空気が漂っていた。
「よぉ……ファルト、エルシア。今日は全力で行かせてもらうぜ」
「どうなっても知らないぞ?」
「えるえる~頑張ってね~」
「みらみらありがと~」
朝礼が始まりグルルトが相変わらずハイテンションである。
「今日は生徒会主催の集団戦闘だ! 観客席もあるから皆で盛り上がっていこうぜーい!」
グルルトは耳を傾ける。
しかしクラスの空気は凍ったままだ。
「……よーし! 参加する生徒はグラウンド中央に集合だ! それ以外は観客席にGOだぜ!」
それだけ言い残すとグルルトは教室から出ていった。
「担任毎日ハイテンション過ぎて疲れるんですけどー」
1人のクラスメイトが言った言葉が全員の気持ちを代弁していたのであった。
★
グラウンド中央では旧生徒会役員がルール説明や身代わりの腕輪の配布をしていた。
「参加する生徒は身代わりの腕輪を受け取ってくださーい」
「ルールは簡単! 一番最初にエルシア、ファルトの2人を倒した生徒の勝ちだ。他の生徒を蹴落とすなり妨害も可能だ。これは将来冒険者になった時の演習である」
「尚、倒された生徒は身代わりの腕輪により安全地帯に転移されます」
風紀委員も観客席やグランド周り、校舎影などにツーマンセルで散らばり目を光らせていた。
「各班異状はないか?」
『こちら1班異常なし』
『2班異常なしです』
『3班異常なし』
『4班異常ありません』
「各班徹底的に目を光らせろ。異常があれば即対応しろ」
エルシアとファルトは既にステージ入していた。
準備運動を済まし、胸ポケットに入っている機械式魔道具通信機でハロルドと離している。
『2人とも聞こえているか! こちらで異常があったらすぐに連絡する! 既に全ての身代わりの腕輪に施された細工は新品と交換して対応している!』
「了解。不正が出ても全員倒してしまっても良いのだろ?」
『いいぞ!』
丁度話し終えた頃にスピーカーから臨時学園長からの、参加者ステージ入場挨拶が始まった。
当然エルシア達の居場所は伏せられているが、2人はグランドに置かれた南東コンテナの中に居たのである。
参加した生徒が短距離転移陣でランダムな場所に入場し終え開始の合図が鳴り響く。
「エルシアやるぞ」
「うん。2人一緒なら大丈夫! 我の威を示せ、フォレストラビリンス」
ステージ全体にエルシアの結界魔法が展開される。
それは森となり、内部に居るものを迷わせる結界だ。
たとえギルドランクB相当の強さと言えども連戦が続けば疲労が蓄積する。
それを避けるための結界である。
「鬼さんこちら、手のなる方へってね」
★
「始まった。魔道具を起動させるぞ」
魔道具を起動させるとグラウンド全体に魔力が広がっていく。
ステージをモニターしていた風紀委員が異常に気がついた。
「あれ? 内部がモニター出来ない?」
「どうした? ……直ぐにリーダーを呼べ!」
「わ、分かりました。もしもし! リーダー! 異常事態発生です!」
『どうした?』
「ステージ内部を監視していた魔道具に異常が発生しました! 原因は不明です!」
『了解した。直ぐに調査する』
風紀委員が動き出し、直ぐに調査が行われた。
結果はすぐに出た。
モニター用魔装具は黒く変質し機能が失われていたのだ。
「各班異常の原因を突き止めろ」
『1班了解』
『2班了解です』
『3班了解』
『4班了解しました』
各班が周囲を警戒しながら原因を調べると、2班が不審な生徒を見つけた。
「2班からリーダーへ。不審な生徒を発見」
『確保しろ』「
「了解」
風紀委員が近づくと、それに気がついたのかグラウンドから逃げ出したのだ。
すかさず追いかけると校舎の中に逃げ込んだ。
逃げた生徒に続き風紀委員の2人が校舎に駆け込むと攻撃魔法が放たれた。
「我の威を示せ、ディバインシールド!」
「ちっ! 追いかけてくんじゃねーぞ! 我の威を示せ! マグナムバスター!」
「お前が逃げるからだろ! 我の威を示せ、ファントムカノン」
攻撃魔法同士がぶつかり相殺される。
「居ない?」
攻撃魔法が相殺した際の煙にまぎれて逃げたのだ。
追おうとするが冷静になり考えを張り巡らせる。
ごく短時間でしかない間に校舎の廊下を逃げ切ることは不可能だ。
だとしたら身近な教室に逃げ込んでいる可能性が高いのではないかと推理した2人は、すぐ近くにある保健室に入った。
1人を扉前に待機させ、もうひとりが部屋を調査する。
(ベッドのカーテンが閉まってるな……中に誰か居るのか?)
ゆっくりと近づきカーテンを開ける。
しかしそこには誰も居なかった。
「居ないな……うわ!?」
「どけええええ!」
「ッスー。ハッ!」
「ぐああ!」
走ってきた生徒を背負投で叩きつける。
肺の中の酸素を吐き出し、咳き込んでいた。
「なぜ逃げた?」
「ケッ」
「2班からリーダーへ。不審な生徒を取り押さえました」
『ご苦労。生徒指導室へ連行してくれ』
「了解」
「ほら立て」
★
その頃グラウンドではさらなる異変が起きていた。
ステージとグラウンドを区別している防御魔法の制御が何者かに乗っ取られていた。
「次から次へと!」
「ルシアリーダー!」
「今度は何!」
「安全地帯に巨大な魔力反応です! いつ暴発してもおかしくない魔力です!」
「そんな不安定な場所に転移なんて起こったら大爆発が起きるわね……。ハロルド会長!」
ハロルドに判断を仰ごうとルシアは叫んだ。
直ぐに椅子から立ち上がり指示を飛ばす。
「戦闘の中止を勧告せよ! 生徒たちの避難も忘れるな!」
「戦闘が止まりません! 聞こえていないようです!」
「何? エルシア君、ファルト君聞こえるか? 応答しろ!」
「ハロルド会長」
少し考え込む仕草をすると、命令を下した。
「俺以外避難しろ。俺が防御魔法に穴を開ける」
「わかりました。全員避難! 各班も避難せよ!」
ハロルドは安全地帯と真反対に移動すると乗っ取られた防御魔法に攻撃を開始した。
★
「?」
「エルシアどうした?」
「んー。気のせいかも知らないけど防御魔法に揺らぎが起こってるような起きてないような」
「何だそれ。ハロルド会長聞こえる……ますか? 会長? 駄目だ、繋がらない」
「何かあったのかなぁ」
外の様子を伺おうともハロルドとの連絡は着かず。
また外から何も無いことは問題ないだろうと判断を下そうとした時だった。
「あいたー!」
「おいおい、戦う前からダメージか?」
「だって天井低いんだも……ん?」
「またどうした?」
エルシアにはこの自体には覚えが有った。
それはアーノルドとの戦闘の際身代わりの腕輪が効果を失い、ダメージが直接体に入ってきた事だ。
「ファルト! 身代わりの腕輪が機能してないよ!」
「そんな馬鹿な。細工は既に交換済みと――」
「えい」
「いって! 本当だな。エルシア結界魔法を解け」
「りょ!」
結界魔法を解除すると、ファルトが外に出た。
コンテナの上に登ると声を張り上げる。
「身代わりの腕輪機能してない! 全員戦うのをやめろ!」
「は……? 何いってんだお前。こっちは会長の座を争ってんだよ! そっちが出てきてくれんなら答えはこれだよ! 我の威を示せ、マグナムカノン!」
「我の威を示せ、アイギス」
エルシアがコンテナから魔法を発動させながら出てきた。
だが戦闘を止める気がないものが集まってくる。
エルシア達は同時に多数の生徒を相手することになったのであった。
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