50副学園長にバレた(バラした)
月曜日、学園に少し早く登校してからエルシアが襲撃された場所へ3人が移動していた。
「ここの廊下から職員室の前なんだけど」
「特に何も……魔力の反応も先生方と私達だけですね」
「結界みたいな中での出来事だったから戦闘痕もないからね」
「どうしろっていうんだ」
しばらく考え込むとそこに女性教員が通り掛かった。
「あなた達こんな場所で何しているの?」
「うーん。どこから襲撃されたんだろう……」
「襲撃? ……シルヒハッセさんが答えてください」
「え? あ」
「エルシア! 余計なことを言うな!」
「ふえ!? 何でもありません!」
貴女には聞いていませんっと言われ、アリスは困った顔をしていた。
しかしここは逆に教員を味方につけたほうが良いのではと思い話すことにした。
「実は――」
アリスは事の始まりを話しだした。
話が続くにつれて女性教員の表情が曇っていく。
「待って。ここじゃ何だから学園長室に行きましょう」
場所を学園長室に移すと話の続きを始めた。
「――で、襲われていました」
「なるほどね。謎の結界、ゴーレム……うちの学園には無いものばかりね」
「所で何故に学園長室?」
「私が副学園長だからですよ」
副学園長は入学式に出ておらず、今までも関わらなかったためわからなかったのである。
「そう言えば学園長はどうしたのですか?」
「学園長は先月から学園に来ていないんです。家にも連絡しましたが誰も出なくて」
「家には行ったんですか? もしくは憲兵さんに様子を見に行ってもらったり」
「もちろん行ったわ。インターホン鳴らしても誰も出なくて、憲兵に連絡しても民事には関わらないという答えを貰ったのよね」
ここでファルトは以前エルシアの付き添いで保健室に居た時のことを思い出していた。
それはエルシアがアーノルドに襲われ気絶した時のことだ。
アーノルドの親が学園長に食って掛かった時があったのである。
(……まさかな)
副学園長は話を戻すと、エルシアの身に起きたことを職員会議に掛けると申し出た。
これには3人とも都合が悪いことは無いため是非と答えを返す。
「答えは明日になるけど良いわね?」
「はい。大丈夫です」
「それじゃ、そろそろ朝礼の時間だから教室に戻りなさい」
そう言われるとA組に戻ったのであった。
「よっしゃ! A組の諸君! 元気にしてるかー?」
耳に手を添えると耳を傾けた。
「せんせー朝からテンション高すぎー」
「毎日元気が一番だぞ! 青春の学生時代を輝かないでどうする! 俺には出来なかったね!」
「そんな事いいので朝礼勧めてくださーい」
クラスメイトが的確な指摘を飛ばす。
それには動いていた体も止まり、やっと朝礼が始まったのであった。
朝礼が終わり、午前の授業が始まる。
(歴史の授業退屈だな~)
エルシアはそう思っていた。
別にエルシアは政治や公務員にはなる夢は無いため成績を落とさないように真剣に受けているフリをするだけでいいのだ。
「……であり、王宮軍人、都市警備兵が持つ武器は――エルシアさん分かりますか?」
「ふえ!?」
「その反応は聞いていませんでしたね?」
「ぎ、ぎくぅ……」
「王宮軍人、都市警備兵が持つ武器です。分かりますか?」
「銃です!」
「よろしい」
歴史の教員はなぜ魔法と言う便利な物があるのに質量兵器を持つのか解説していた。
午前の授業が終わり、昼休みになった。
いつもどおり5人で集まり弁当を食べる。
「ねね、ゲルトラウドくんはスイーツ系男子?」
「んん? 俺か。甘いものは好きだぞ?」
「よろしい! 君をスイーツ系男子に任命するよ! ちなみにファルトは違うよ」
「俺はそういう呼ばれ方が嫌いなだけ――」
「違うよね~?」
エルシアの発言に抗議の声を上げようとした時リュドミラの声が被さるように遮った。
リュドミラの顔を見るがいつもどおり“のほほん”とした表情をしている。
(こいつ……あののほほんとした顔で圧を掛けてやがる!)
(ファルトさんなんでこっち睨んでるんだろ~。ふっしぎ~)
昼休みが終わり午後の授業が始まった。
月曜日の午後は格闘術だ。
「魔法使いだって時には近接戦に挑まれる時もある! 前から言っている事だが夢々忘れないことだ!」
「ふぇ……あふん」
「こら! シフォーニ! 伸びてる場合じゃないぞ!」
「ゴニョゴニョ(だって皆身体強化使ってるんだもん。私使えないのに)」
悪態を付きながらも立ち上がり、男子生徒と手合わせする。
体のスペック的には天使とハーフであるエルシアの方が勝つが、それは身体強化をしていない時の話だ。
「へっ! 身体強化してたら怖くないぜ!」
「ちょちょちょ! 待って! あーっ!」
「こらー! シフォーニ!」
午後の授業が終わり放課後になった。
エルシアは先程の授業でボロボロである。
早く帰って風呂に入りたいと思っていた矢先、オカルト研究部の部長リンネ・シルヒードが現れた。
「エルシアくん。最近部活に顔を出してないね? どういうことだい?」
「り、リンネ部長! 最近は忙しくて……今日も疲れたので帰ってお風呂に――」
「エルシアくん!! 今日は逃さないぞ! トラヴィス、ミルキー!」
突然両腕を捉えられた。
「!?」
「今日は川沿いにあると言われるカッパ像の発見だ!」
その後疲れ切ったエルシアがシルヒハッセ邸に帰宅したのは言うまでもない。
★
翌朝職員室には副学園長が全教員を集めていた。
集まった教員達も今日の職員会議は何か違うと思っていたのである。
「全員集まりましたか?」
「学園長以外集まってます」
「今日の職員会議はエルシア・エル・シフォーニさんの周辺で起きた事です」
「ん? 俺の生徒がどうしたんだ!?」
副学園長は事のあらましを説明する。
教員達は驚きの反応を示したが、一部の教員は成長期に見られる精神的ストレスによる幻覚と言い張っていた。
「そんな犯罪が我が学園で起きるなどあってはならない! ここは生徒の虚言として処理するべきだ。でないと学園の品格が落ちる」
「しかし、何かあってからでは遅いぞ! その時の責任は誰が取るんだ」
「だが証拠がないぞ。副学園長の話だと結界内で行われた犯行で証拠のゴーレムも結界ごと持ち去られた」
話が一向に進展を見せないまま時刻が過ぎていく。
そこに生徒会担当の教員が声を上げた。
「そう言えば以前アーノルド君とエルシアさん、ファルト君の試合があったが、その時に使用された身代わりの腕輪が誰かに細工されていた事件があったぞ。もしやそれが失敗した腹いせにゴーレムを送り込んできたのでは?」
「その線が濃いか……?」
「でもどうするか……だ。以前の付喪神事件もある。生徒にはあまり知られないほうが良いのではないか?」
「ではこの件は生徒会にまかせてみるのはどうだ?」
1人の教員が生徒会に一任することを提案した。
生徒会に一任することで最低人数の生徒にだけこの情報を話し、生徒会権限で生徒に調査もできる。
教員が表立って動くより目立たないだろう。
「そうですね……。そうしましょうか」
「なら今日の生徒会会議で通達しておきます。もし生徒の中に犯人が居るのであれば生徒会の動きはかなりの邪魔になりますからね」
教員の動き方も決まり、エルシア達に知らせることになったのだった。
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