5お互いの話(ファルト)
「俺が生まれたのはなんてこと無いデキ婚なんだ」
「できこん?」
★
「そこのねーちゃん、俺と気持ちいいことしない?」
そう悪魔の男が話しかけた。
それに気がつくと、ニヤリとした表情で人間の女が話に乗ってきた。
2人は人気のない路地へと移動すると女が男に抱きついた。
「貴男の名前は? 私はアイリ・ゴードンっていうんだけど」
「俺か? ヴィクダル・ニール。ただの遊び人さ」
「ヴィクダルっていうのね、じゃあ気持ちいい事しましょ?」
アイリは下着をずらすとヴィクダルに身を委ね、人気のない路地に喘ぎ声がこだました。
「もう、中に出すなんて妊娠したらどうするのよ」
「満更じゃない癖に何言ってるんだよ」
「妊娠したら面倒見てよね。じゃないと殺すわよ?」
「おー怖い怖い」
それから6ヶ月後。
アイリが町中を歩いていた。
目的は魔界に召喚された日に知り合ったヴィクダルを探している。
「どこに居るのよ! 見つけたらきっちり責任とって貰うわ!」
結局の所アイリは妊娠してしまった。
生理が来ないと思い、闇医者に調べてもらった所妊娠していることが発覚したのだ。
「そこの彼女~俺といいことしな――」
「見つけた! ヴィクダル! 覚悟しな!」
「あ、アイリ!? 何でここが!」
「いいから来い! 話がある」
そう言うとヴィクダルを無理やりホテルへと連れて行く。
部屋に通すと、闇医者に言われた事をありのまま告げた。
ヴィクダルは唖然としていたが、それも最初のうちだけだった。
「なんだ、妊娠したのかぁ~。じゃ、堕ろしとけ」
「なっ!? 面倒見てくれるはずじゃなかったの!?」
「俺は一言もそんな事をいってないぞ。 確か……”おー怖い怖い”だっけか。ハハハ」
その一言にアイリは切れた。
腰に携帯していたロングソードを引き抜くとヴィクダルの首筋に押し当てたのだ。
それには今まで余裕の表情だったが、今は恐怖の表情だ。
「ひっ! ま、待って! タンマ! 分かった、分かった」
「そう言うやつこそ分かってないんだよぉ!?」
「いっ!? 斬れてる! 血が出てる! すみません、すみません!」
「それは本心か? 嘘でもついてみろ、首を跳ねてやる!」
ヴィクダルは恐怖から失禁し、涙目になっていた。
それほどアイリの迫り方が怖かったのだ。
★
「ってなことがあったらしい」
「んん? ファルト聞いていい?」
「うん? なんだ?」
エルシアが真剣な顔をして言い放った。
「中に出すってなぁに?」
「ぶふぉ! エルシアはまだ知らなくていい……いや、性教育もしないと危ないか?」
最後は小声になりつつもエルシアに欠如している知識を教えようかと迷っていた。
エルシアは真面目な顔で何度も聞いてきてファルトの肩を揺すっている。
「ええい! そんな卑猥な言葉を連呼するんじゃない! 恥じらいを覚えろ!」
「ひわい? はじらい?」
「まさか……お前、そんなこともわからないのか?」
「え? うん」
「ええ……なんてこった」
ファルトは頭を抱えた。
いくらなんでも教育が偏りすぎている。
先程話を聞いたが、親の家事の合間で勉強していたと言っていた。
すなわち、生きていくための一般常識だけを教えられ、その他の余計な知識は後回しにされていたのである。
「ねぇねぇ!」
「分かった! 分かったから! 後で――」
「そう言うやつこそ分かってないんだよぉ!? でしょ」
「……話が終わったら必ず説明してやる」
★
「はぁはぁ……生まれたな」
「ほぉ、元気な男の子ですな。やはり人間と悪魔の子は翼が片方しかない。ほほほ」
赤ん坊を適切に処置すると、外にいたヴィクダルに闇医者が伝える。
「う、生まれたのか?」
「はい、それはそれは元気な男の子です。ほほほ」
それを聞くと腰が抜けてしまった。
今の気持ちは嬉しさと恐怖だ。
自分の子が生まれたのはいいが魔界の規則に歯向かってしまったことになる。
すなわち極刑。
魔王に遊ばれ飽きれば即殺されかねないのだ。
「は、ははは。な、名前どうしよう」
「ヴィクダル~こっち来い!」
「おや、呼んでいますよ?」
「は、はいぃ! 今すぐ行きます!」
ヴィクダルは急いで部屋に入っていった。
そこには赤ん坊を抱いてベッドに横になっているアイリが居た。
「よぅ、お前のパパだぞ。泣いてないでそっち見な」
赤ん坊をヴィクダルの方へ差し出すと抱きしめさせた。
「ぱ、パパだぞー。よーしよしいい子だぞー」
「棒読み」
「お、俺だって緊張してるんだよ」
「そんなことより名前どうする?」
「そ、そうだな。名前か……」
名前をさっぱり決めていなかった2人。
どうしようかと考えていると、闇医者が入ってきた。
「ほほほ。悩んでおられるようで。ここは1つ、私めに任せていただけないかな?」
「それは――」
「いいんじゃない? 私達じゃ思いつかないし」
「わかった」
闇医者は一瞬悩んだ表情を見せたが、すぐに思いついたようで手を叩いた。
「ファルトはどうでしょう? 魔界の言葉で意味は革命です」
「いいなそれ。ヴィクダルもいいよな?」
「いいんじゃないか? ハーフでもいつか偉いやつになるはずだ!」
「お前の偉いはエロいの間違いじゃないか?」
「そ、そんな事言わなくても……」
それから数年の月が流れファルトは雑な教育を受け、立派な親譲りの性格に育っていた。
「いいか? 飯なんて食えればいいんだ。 マナー? そんなのは魔獣にでも食わせておけ」
と、アイリが教え、
「ファルト、女には勢いが大切だ! 好きあれば押し倒せ! 男は皆狼だ!」
ヴィクダルが教えた。
魔法はアイリが攻撃魔法を重点的に教え、回復魔法は甘えと言い教えなかった。
一般常識はヴィクダルが教えたが、その半分は性知識であった。
★
「でな、次に――」
「ファルトはオオカミさんなの?」
「ええい! 黙って聞いてろ!」
★
ファルトが17歳になったある日ヴィクダルが傷を負いながら家へ駆け込んできた。
「アイリ! やばいぞ、ファルトの存在がバレた!」
「なんだって!?」
「すぐに魔王軍が来る逃げ――」
その瞬間黒い槍がヴィクダルの脚を貫いた。
「ぐあああああ!」
「オヤジ!」
「クソ! 魔王軍め! 潰してやる、我の威を示せ、ダークシャドウ!」
ファルトは自分がいると邪魔になると理解し、裏口から逃げ出した。
裏通りを曲がりに曲がり追手を追跡させないように逃げる。
だが、とある裏通りを曲がった瞬間首に強い衝撃を受け、意識が途絶えた。
意識が途絶える寸前に聞こえてきた声はどこか聞いたことがある声だった。
「ほほほ。これで私も安泰ですね」
次に目を覚ましたときは水を頭から掛けられ、手を拘束された状態だった。
「冷た! くそ、ここはどこだ?」
「黙れ!」
「ぐふぅ」
思いっきり腹を蹴られ、悶絶する。
すると女の声が響いた。
「これ、玩具をいたぶるでない。妾が楽しめないではないか」
「はっ! 失礼しました」
「うっ……ぐっ。お前は誰だ?」
「妾か? 妾の名はアレクサンドリア・ミレアニぞ。魔界の魔王じゃ」
ファルトは魔王と聞いて父親の話を思い出していた。
「魔王……。お前が襲わせたのか!」
アレクサンドリアに言い放つ。
それを笑いながら足を組み扇子を口元に当てる。
「そうじゃが? それがなにか問題があるのかえ?」
「オヤジとオフクロはどうした!」
「お主のかえ? これ、もってこい」
「こちらになります」
そう言うと桶を2つ持ってきた。
アレクサンドリアは2つを受け取るとファルトの目の前まで投げた。
その衝撃で桶が割れ中身が出てきた。
それはアイリとヴィクダルの頭だったのだ。
「っ! 殺す! 殺してやる!」
「やってみぃ。 そこの者、拘束を外してやれ」
拘束が外された瞬間攻撃魔法を発動させる。
「我の威を示せ! シャドウ・ウィップ!」
「そんな低位の攻撃魔法でこの妾に通じると思うのかの?」
「うるさい! 我の威を示せ! フィジカルトリプルブースト!」
身体強化を付与し殴りかかった。
だが、あっさりと手を捕まれ放り投げられた。
「ぐっ。我の威を示せ!ライトニング・ボルト!」
「そろそろ飽きてきてもたのぅ。ゴミはゴミ箱へ、玩具は玩具箱へ」
「くそおおおお! シャイニング・スピア!」
「転送」
★
「ってな感じにな」
「うっぐ。ひっぐ。」
「な、何泣いてるんだよ! 泣く要素あったか?」
「ふぁるとぉ……お父さんとお母さん残念だったね……」
「……まぁな」
お互いの話を終え、確かにお互いの絆を確かめあったのだった。
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