48自己強化トレーニング
襲撃から一夜開けた朝。
久しぶりに家に戻っていたアンソニーと共に朝食を摂っていた。
「お父さん、お話が有るのですが」
「ん? 何だい?」
「エルシアさんが先日学園内で襲撃に有りました。何か迫害派などの情報は入っていませんか?」
「何だって……。そうだね、うーん。省内では不穏な動きは報告されてないが、念の為調査部に頼んでおくよ」
ここまで話していると朝食中に声を出してなかったロナルドが口を挟んできたのだった。
「ふん! 片翼なんぞどうなったって構わない! アリスが無事であれば家はいいんだ!」
と、言い始めアリスにまたもや反対され縮こまってしまっていた。
「おじいちゃんわるくないもん。片翼がわるいもん」
「あはは……」
エルシアは乾いた笑いしか出なかった。
今日は土曜日であり、学園は休みである。
エルシア達3人はシルヒハッセ家のトレーニング施設へと足を運んだ。
先日エルシアが襲撃されたばかりで有るため3人共いつ襲われてもいいように力をつけようと言う魂胆である。
「今回は先月仕入れたばかりの魔道具、リルーストと言うものです。これは自分を映し出す鏡のような物でして今の自分と戦えます」
「へー。それは面白そうだな」
「もう一人の自分……。強そう!」
騒いでいると、魔道具を持ったアリスがトレーニング施設の中央に立つと魔力を魔道具に流し込んだ。
すると魔道具が光だし、徐々に光が人の形を成していく。
数秒後にはアリスと瓜二つの人が居た。
「本当に本人そっくりだな」
「ほへー」
「では私から始めてもよろしいですか?」
「いいぜ」
「がんばれアリスちゃん!」
そう言うとエルシア、ファルトは端に寄った。
「では行きます! 我の威を示せ、ライトニングエレメント=リコネクト 我の威を示せ、スパークフィジカルブースト!」
「……我の威を示せ、ライトニングエレメント=リコネクト 我の威を示せ、スパークフィジカルブースト」
「はぁぁあ!」
2人のアリスがぶつかり合うと、髪の毛を揺らす程度の風圧が発生した。
アリスの攻防は凄まじく、一発一発が必殺の威力を持っている。
しかし自分が相手という事もあり、どこに打ち込むか、どこが弱いかが常に読まれているのだ。
「アリスちゃんすごいね~」
「ああ。今日は特に気合入ってるな」
アリスは今までにないほどの速度で拳や蹴りを打ち込んでいるが、一向に有効打が入っていない。
本人自身も魔道具アリスが打ち込んでくる打撃にリソースを割いている状態だ。
「流石私ですね。正確な打ち込みです。全力で行かせてもらいますよ……! 我の威を示せ、ライトニングバーストエレメント=リコネクト。我の威を示せ、エレクトロン=リコネクト。我の威を示せ! カドルエレメントフォーム!」
「……我の威を示せ、ライトニングバーストエレメント=リコネクト。我の威を示せ、エレクトロン=リコネクト。我の威を示せ、カドルエレメントフォーム」
雷鳴が轟。アリスの体が変化する。
それは委員長決定時に周知されたものだ。
目と髪の色は金色に変わり、雷輪が光輝く。
「ファルトさんの時に出しきれなかった全力全開、打たせてもらいます! 収束雷撃拳!」
「収束雷撃拳」
自身が纏っている稲妻を拳に収束し、カドルエレメンタルフォームで強化された体で撃ち抜く必殺の1つだ。
一瞬のうちに打ち出された拳は魔道具アリスとアリスの拳がせめぎ合う。
稲妻がお互いにショートしあい激しく明滅をする。
「我の威を示せ! アルティメットフィジカルブースト!」
「……我の威を示せ、アルティメットフィジカルブースト」
「まだまだですよ! 私はまだ行けます!」
魔道具アリスの収束雷撃拳をパリングすると、直様体を捻り回し蹴りの態勢に入る。
一方相手はパリングされた状態のため胴体が隙だらけになっているのだ。
「瞬足雷神蹴り!」
アリスの放った蹴りは稲妻の尾を引きながら魔道具アリスの胴体に吸い込まれる。
その瞬間雷が落ちたかの音がトレーニング施設に鳴り響き、視界が白く染め上げられた。
「眩しい、目がぁ目がぁ!」
「眩しいな。あんなのを俺に打ち込んでこようとしていたのか……」
目が治るとそこには魔道具アリスだった魔道具リルーストが転がっていた。
アリスは深呼吸をすると魔法を解除した。
「さあ、私は自分を超えました。次は2人のどちらがやりますか?」
「じゃ俺が行かせてもらうぜ」
ファルトは立ち上がるとアリスから魔道具を受け取りトレーニング施設の中央に立った。
魔力を流し魔道具が光を放ち始めた。
「よっしゃ! いっちょやるか! 我の威を示せ、マジックチャージ」
「……我の威を示せ、マジックチャージ」
魔法を放つ時に放出する魔力量は個人で違いがある。
そこで放出魔力量を増やすのがマジックチャージだ。
「我の威を示せ、マジックチャージ」
「……我の威を示せ、マジックチャージ」
重ねがけすることで更に放出できる魔力量が増える。
しかし、体の上限以上に引き出す為重ねがけするごとに魔力を司る臓器が傷む。
一度傷んだ臓器は長い時間を経て回復する。
回復中の状態では魔力放出量が若干下がってしまうデメリットがある。
「流石俺だな。なら食いついてこい! 我の威を示せ、マジックチャージ」
「……我の威を示せ、マジックチャージ」
「ファルト~危ないよ~」
「そうですよ。トレーニングで体を痛めては意味ないですよ」
エルシアとアリスから心配され少し照れくさくなったファルトはマジックチャージを唱えるのを止め攻撃態勢に入った。
「わーったよ。だったら俺の全力で行かせてもらうぜ! 我の威を示せ、グリーティング、我の威を示せ、スターズ、我の威を示せ! スターダストイグニッション!」
「……我の威を示せ、グリーティング、我の威を示せ、スターズ、我の威を示せ、スターダストインパクト」
魔法陣が浮かび上がり、魔力が大量に放出され収束していく。
収束しきった魔力が魔法陣に送られ、魔法陣を循環、加速し撃ちだされる。
お互いの魔法がせめぎ合う中、ファルトの左手が魔法の制御から離れた。
「まだまだ行くぜ……。我の威を示せ、マグナム……グッ……ブレイカー!」
ファルトの表情が一瞬苦痛に歪むが魔法の制御を離した左手で追撃をかけた。
魔道具ファルトの魔法が飲み込まれていき、飲み込まれたのだった。
「ふぅ……。勝ったぜ」
「ファルトー。最後無理したでしょ」
「してないしてない」
「いえ。してましたね。左腕見せてください」
そう言うとアリスはファルトの左腕を掴んだ。
掴んだ瞬間表情が歪んだ事をアリスは見逃さなかった。
袖を捲りあげると腕が腫れ上がっていた。
エルシアが素早く駆け寄るとすぐに回復魔法を掛ける。
「我の威を示せ、ヒール! 無理しすぎだよ~」
「そうですよ。無理は禁物です」
「……悪かったよ」
治療が終わると次はエルシアが中央に立った。
「エルシア行きまーす」
魔力を流すと同時に即エモート防御魔法を行使する。
魔道具エルシアが現れた瞬間にエモート防御魔法が襲いかかる。
「先手必勝~! 勝てばよいのだ!」
しかし防御魔法が展開され防がれた。
ここに来て魔道具の様子がおかしくなる。
「な、何?」
「どうしたんでしょうか?」
「壊れたんじゃね?」
魔道具エルシアにノイズが走り、意味もなく防御魔法を展開し続ける。
「チャンスなのかな? 我の威を示せ、エレキ=リコネクト、我の威を示せ、チャージ=リコネクト、我の威を示せ! アイギス=エモートレール――」
エルシアが魔法を完成しようとした瞬間、トレーニング施設全体に防御魔法の斬撃が無数に走ったのだ。
それに巻き込まれたエルシアはその場に倒れ伏したのだった。
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