47迫りくる脅威
アーノルド達との試合から数日。
エルシア達いつものメンバーは昼休み時に集まって弁当を食べていた。
「でさあ、昨日テレビでこう、ビシィってカマしてたのよ」
「昨日って何かテレビ番組やってましたっけ~」
「私達は夕飯の時しか見ないので知りませんね」
「だね」
「おう」
ゲルトラウドは昨晩見たテレビ番組を熱烈に語っている。
しかし誰もその番組を見ておらず、話題性に欠けていた。
「むむ! なら何の番組を見てるんだ?」
4人に質問を出すと、リュドミラとアリスが答えた。
「私は~動物園の番組ですね~」
「私達はいつも政治の番組を見てます。お祖父様の方針ですね」
もちろんエルシア、ファルトの部屋にはテレビが無い為、リビングで見ているテレビが全てなのだ。
「オウ、シット! 見た目通りの反応ありがとな!」
昼休みも終わり午後の授業が始まった。
武器戦闘講義である。
アークホワイト学園は魔法だけを教える学園ではない。
実戦を想定した武器を使っての戦闘を並行して教えているのだ。
「はい、皆さん自分の武器は持ってきましたか?」
「持ってきました!」
「僕の家に代々伝わる伝説のヒノキの魔法棒が火を吹くぜ」
「個性的で大いによろしい。では模擬武器戦闘を始めましょう。的は機会式魔道具の疑似魔獣です」
そう言うと教員は10個ある機械式魔道具を起動した。
すると機械式魔道具を核に幻影が形作られたのだ。
クラスメイトがそれぞれの武器を使い幻影を攻撃し始める。
「皆さんどんな武器を持ってきましたか?」
「俺はこの青龍偃月刀だ! カッコいいだろ」
「私は~この~ダインスレイブです~。これを抜いちゃうと~血を吸うまで止まらなくなっちゃうんです~」
「みらみら恐ろしい子……!」
リュドミラの性格に似合わず魔剣を持ってきたことにエルシアは少し驚いていた。
「ファルトとアリスは何を持ってきたんだ?」
それを聞かれるとファルトとアリスは武器を出した。
ファルトの武器は身の丈ほどある大剣だ。
身体強化と重さで叩き切るスタイルになっている。
アリスは上着とスカートを少したくし上げるとそこには篭手や鋼鉄が編み込まれたブーツを履いていた。
「私のは至って普通です。リュドミラに比べると目劣りしちゃいますね」
「俺だって普通の大剣だぞ」
「俺の青龍偃月刀もすごいだろ!」
「私はダガーナイフだよー」
ゲルトラウドは武器を掲げ1人で格好つけていたが、誰にも相手されずに流されていた。
リュドミラだけ抜刀せず午後の授業を過ごすのであった。
曰く、ダインスレイブの説明はただの脅し文句ではなく本当らしい。
「おいーす! 帰りのホームルーム始めるぞ! 委員長、号令!」
「きりーつ、気をつけ、礼」
「そんじゃあまあ、連絡事項だ。立入禁止の教室には入らないことを徹底してくれな!」
クラス内は立入禁止の教室になんて入らないけどっと言った話題が持ち上がった。
しかし直ぐにグルルトが静めた。
「静かに! もちろん俺のA組生徒諸君が入ったとは思ってないぜ! 一応注意喚起だ」
アーノルドと試合の時に居たアリスは直ぐに身代わりの腕輪の件だと気がつくことができた。
校内には監視カメラなどの設置物は無く、生徒あるいは教員の目視のみが頼りになる。
誰にも見つからず忍び込むとなると熟練した技術を持っているものに限られるとアリスは推測していた。
「よし、それじゃ委員長。日誌ちゃんと書いて職員室まで持ってきてくれな! 以上、解散!」
それだけ言うとグルルトは教室から出ていった。
続くかのようにクラスメイトも帰り支度を始める。
「エルシア、日誌だけど頼んでいいか? どうしてか俺だと短いとか固いって書かれるんだよな……」
「分かった! 書いとくからアリスちゃんと校門で待ってて」
「ありがとな。アリス帰るぞ」
「エルシアさん頑張ってくださいね」
その後1人で教室に残り今日の日誌を書き上げ、職員室に向かう。
途中1人の生徒と肩がぶつかりお互いに謝っていた。
職員室前までやって来たエルシアは扉をノックし中へ入ろうとした。
しかし、鍵でも掛かっているかのように扉は固く閉ざされていた。
「あれ? 職員会議でもしてるのかな?」
そう思ったのも束の間、直ぐに異変に気がついた。
「……静かすぎるね……。まだこの時間じゃ生徒も残っているのに」
窓から外を見ると、部活動で居る筈の生徒すら見当たらない。
その時階段方面から金属の擦れる音がしてくる。
エルシアは音の方向を注視すると、階段を上がってきたのは5体程のゴーレムだった。
いずれも剣や槍を抜身で持っており警備用とは言い難い。
「我の威を示せ! アイギス=エモートセイバー!」
エルシアの腕が振り上げられ、先頭を走るゴーレムに振り下ろされた。
甲高い金属音と共にゴーレムの肩から斜めに切り裂かれ、その場に転がった。
後続は壊れたゴーレムを避けると更にエルシアとの距離を詰めてくる。
「まだまだ行くよー! 我の威を示せ! アイギス=エモートハンマー!」
廊下の幅ギリギリに不可視のハンマーが作られ叩きつけた。
先程の一撃で学習したのか、前2体の後ろを走っていたゴーレムは直ぐに停止するが、前2体はエモート防御魔法に巻き込まれ頭部を損傷し動作不良を起こす。
ゴーレムは基本時には人間と同じ作りになっており、視覚センサー、聴覚センサー、プロセッサコアが頭部にあるが故に頭部を破壊されては動けない。
「後2体! 我の威を示せ! アイギス=エモートアーチャー!」
流石に防御魔法が飛んでくるとは思ってなかったらしく、残り2体も防御態勢を取れずに吹き飛んだ。
「やった! さて、どこの誰が送り込んできたのかな~?」
破壊したゴーレムを調べようとした時、自分の感覚がズレたかの様な感覚に襲われた。
一瞬の揺らぎを感じた瞬間にはゴーレムの残骸が跡形もなくなり、あれほど静まり返っていた世界は音を取り戻していた。
「あ、れ? ゴーレムは? あれ?」
「おーい! 何やってるんだ委員長! 日誌落ちてるぞ~!」
「あ、はーい! 何だったんだろ?」
日誌をグルルトに渡したエルシアはそのまま校門へと向かう。
「あ、エルシアさん来ましたね」
「来たか。おーい! 遅いじゃないか」
「ごめんねー。ちょっと訳ありで」
ファルトとアリスは不思議そうに顔を見合わせた。
家に帰ると、アリスの部屋で学園の事を話した。
「あのね、白昼夢でも見たような感じだったんだ」
「……?」
「なんかね、うーん。なんて言えばいいんだろう。結界魔法?に入れられたような感じだった」
「ファルトさん結界魔法なんて張られていたかしら?」
「部活動の時間だったからな。魔法の発動なんてわからないな」
部活動にも魔法は使われているため、小さな反応は消えてしまう。
「その中で5体のゴーレムに襲われたんだよね」
「襲われた? 学園内で?」
「うん」
「それでどうしたんですか?」
「5体とも撃退したんだけど、近寄ったら感覚がズレたような感じになって気がついたらゴーレムも消えて普段の学園になってたんだよね」
エルシアの言葉にアリスは1つ考えが浮かんだ。
それは暗殺。
普段政界に身を置いているシルヒハッセであるが、過激派が多い迫害派に過去一度だけ狙われたことが有った。
「……もしもの話ですが、何か特殊な結界で隔離して、そこでエルシアさんを暗殺しようとしたのではないでしょうか」
「なんだと? エルシアが何をしたっていうんだ!」
「もしもの話です。ですがその可能性は高いでしょう」
その話はファルトの気に触れた。
アリスがファルトを宥めると、話の続きを進めるのであった。
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