46いつの間にか実践になってた話
「まったくもって意味がわからん」
「だねー」
放課後のグラウンド、先に来ていたのはエルシア達だった。
宣戦布告をしたアーノルドの取り巻きの1人も居ない。
「アーノルドは迫害派ですから何かしら因縁を付けてくるとは思いますが、今回もその類だと思いますよ」
「俺たちに文句言われても困るんだよ」
「そうだよねー。前にも因縁つけられたし。懲りないよね」
10分程待っていると取り巻きを引き連れアーノルドが現れた。
その中に機会式魔道具を持った女子生徒が居た。
腕には腕章を付けている。
「これより1年A組エルシア・エル・シフォーニ。ファルト・ニール対1年B組アーノルド・ユード、アレックス・ダニエルの試合を始める。先に身代わりの腕輪が鳴った地点で終了し、鳴っている方を敗北とするよ」
「はい! 質問です」
「どうぞ」
「あなたは誰ですか?」
「ルシア・ノーメンだ。風紀委員長をやっている。風紀を乱すやつは殺るぞ」
それだけ言うと身代わりの腕輪をアーノルドとアレックスに渡し、エルシアとファルトにも渡してきた。
早速身代わりの腕輪を腕に着けると一瞬の違和感が有ったがそのままグラウンドに立つ。
「では……始め!」
その瞬間に外野との間に防御魔法が展開された。
「早く終わりにして帰りたいから全力だもんね! 我の威を示せ! シャドウバインド」
エルシアはスカートの下からダガーナイフを取り出すとそれをアーノルドに投擲する。
「ふん。どこを狙って――なに?」
「授業で習ったばかりだもんね。ダガーナイフを媒体に魔法を発動させる。少ない魔力で高威力を出せるからいつも通りに込めれば強力な魔法になるからね」
「アーノルドさん!今外します!」
そう言うとダガーナイフを外そうと近寄ったが、アーノルドの駄目だしが飛んできた。
「お前は馬鹿か! 太陽の位置を見ろ、後数歩で俺の影にお前の影が入り込む! よく見て行動しろ!」
「す、すみません」
「どうやらその真っ赤な顔に似合わず冷静に判断できるようだな」
ファルトが茶々を入れる。
それを聞いたアーノルドは目をこれでもかと言うほど開き、憤りを顕にしていた。
アレックスがそれを抑える。
「アーノルドさん! そこで怒ったら奴らと同じ土俵に立つことになります」
「ぐ、ぬ、……」
「我の威を示せ! アイギス=エモートアーチャー」
初見殺しのエモート防御魔法が放たれた。
アレックスに向かって一直線で飛び、命中するかのように思われたが、ギリギリの所で体をくねらせ回避したのだ。
それには外野に居たアリスも驚いていた。
ルシアは何が起きたのか分かっていないようだ。
(避けられた!? あのアレックスとか言う生徒何者?)
「とっとと。危ない危ない。我の威を示せ、アイスニードル」
アレックスはアーノルドを縛っているダガーナイフを弾き飛ばす。
「よし、動けるぞ。ヒトモドキ風情が調子に乗ってからに! 我の威を示せ、ファントムバスター!」
「我の威を示せ、アイギス」
それなりの実力はあるのか、一発の攻撃魔法でエルシアの防御魔法にヒビをいれた。
ファルトは防いだのを確認すると、アーノルドより先程エモート防御魔法を避けたアレックスに狙いを定めて動く。
「我の威を示せ、フィジカルトリプルブースト!」
「こいつ……俺を無視しやがって! 我の威を示せ、ソニックハウリ――」
「我の威を示せ! アイギス=エモートセイバー!」
攻撃魔法の発動を防ぎ、ファルトとアレックスの一対一を作り出す。
アーノルドはエモートアーチャーを見てから警戒していたため、エモートセイバーの攻撃は単なる時間稼ぎにし過ぎない。
「我の威を示せ、アイギス=エモートハンマー!」
「おのれ、厄介な魔法を発動させて! やはり女のヒトモドキから始末しなければならないな。この間の報復だ。我の威を示せ、サウンド=リコネクト、我の威を示せ! サウンドソニック」
その魔法は音を媒介にした攻撃魔法であり、空気中を進み、乱反射を繰り返し非常に甲高い高周波をエルシアに浴びせる。
「あう! 頭が……痛い」
腕輪を見るとダメージが入っている証拠にメーターが徐々に振れてきた。
足手まといにはなりたくないと言う気持ちで魔法を行使する。
「我の、威、を示せ、スフィアシールド」
「無駄だ無駄! その防御魔法ごと頭まで砕いてやろう」
アーノルドが攻撃魔法の出力を上げると、次第にエルシアの防御魔法が共鳴を始めたのだ。
「し、しまっ!」
音響共鳴により防御魔法の共鳴周波数が合致し砕けた。
再び強い音波にさらされたエルシア。
腕輪を見るとダメージがかなりの勢いで溜まっていくことがわかる。
何とかしないとっと思ったときだった。
身代わりの腕輪のメーターがすっと初期位置まで戻ってしまったのだ。
「――え? ああああああぁぁぁぁぁ!!」
そう、腕輪に施された細工が発動し、ダメージの肩代わりが行われなくなったのだ。
そんなこととはつゆ知らず、風紀委員のルシアは止めにも入らなかったのである。
「ツ!」
ふと耳から出血していることに気がついたエルシアは何とかするために頭をフル回転させる。
普通の防御魔法では共鳴周波数で割れてしまう。
ならどうすればいいか、それは常に共鳴周波数を変えればいい。
「我の威を示せ、スフィアシールド!」
「バカの一つ覚えか? また同じだ」
耳を押さえながら立ち上がると、アーノルドを見た。
「我の威を示せ、エレキ=リコネクト、我の威を示せ、チャージ=リコネクト、我の威を示せ! アイギス=エモートレールガン!」
生活魔法である2つをリコネクトし、生活の範囲内の電圧を上げていく。
10秒ほどのチャージ時間を経て限界まで溜まった電力をエモートアーチャーに流し込みローレンツ力により超高速で撃ち出した。
撃ち出された防御魔法の塊はアーノルドの腹部に直撃し、防御魔法の壁に倒れ込んだ。
「勝ったのかな……」
「アーノルドさん! こりゃマズイな。ここは素直に……」
「何をする気だ!」
「こうするんだよ! 降参します!」
「は?」
突然の降参宣言にファルトはあっけにとられていた。
それを聞き届けたルシアは防御魔法を消し、アーノルドの元まで歩いていった。
身代わりの腕輪がブザーを鳴らし勝敗を表している。
「よし! 勝者エルシア・エル・シフォーニ、ファルト・ニール」
フラフラと歩こうとしているエルシアにルシアの手が伸びた。
「大丈夫か? ん? その血はなんだ?」
「なんて言ってるか聞こえないです。今治すので待ってください。我の威を示せ、ヒール」
ルシアに支えられながら両手を耳に当てながら回復魔法を行使する。
痛みやふらつきも次第に治まってきている。
「……応急処置が終わりました。何か言いましたか?」
「いや、腕輪を見せてな。……これは……ファルト・ニールの腕輪も確認させて頂戴」
「ほらよ」
「やはりそうか」
ルシアだけが納得し、エルシアとファルトは置いてけぼりになっていた。
すぐにルシアが状況の説明をしてくれた。
「君たち専用の身代わりの腕輪に細工が施されているわ。こう見えても機会式魔道具設計専攻だから詳しい。この腕輪には遅延発動型の仕掛けがある」
「もしかして身代わりの腕輪が機能しなくなったのも?」
「ああ。腕輪を機能不全にする細工が施されている」
エルシアはパッとアーノルドを見る。
しかしルシアは直ぐには答えなかった。
「まだこいつが主犯とは決まっていない。早合点しないことね」
そう言うと腕輪を回収して行ってしまった。
おそらく生徒会に提出するのだろう。
エルシア達は少し遅めの下校になったのだった。
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