41学校の怪談 其の壱
学園放課後、資料保管室兼部室に集まっていた5人。
オカルト研究部の先輩3人と話し合いをしている。
「ふっふっふ。君たちも大分学園になれてきた頃だろう。そこでオカルト研究部として本格的に活動してみようと思う。ミルキー、説明を」
「はい。学園設立以来ある時期になると一階女子トイレ一番奥の個室。そこから唸り声が聞こえてくるという実話があります。最初はナニとは言いませんが盛っているのではと噂になったんですけどね! 私としては! そのほうが――」
「と、言う話があるんだよ。そこで我々は長きにわたるこの実話の怪談を証明しようと思うのだ!」
トラヴィスが暴走しているミルキーを抑えつつ、会話に参加してくる。
「実はある時期って今なんだよ。……落ち着けって! でな、実際に個室に入ってもらおうと思ってる」
それを聞いてリュドミラが視線を外した。
しかし、リンネはそれを見逃さなかった。
「リュドミラちゃん、今視線反らしたよね?」
「そ、そそ、そんな事ありませんよ!」
「……そうか。なんて言うか! ミルキー、トラヴィス!」
リンネが叫ぶとリュドミラの両腕を拘束した。
そして叫ばれる前にガムテープで口を塞ぎ、女子トイレへと連行していった。
あまりの早業に一同唖然である。
「さあ、我々も行こうではないかッ!」
ハイテンションなリンネの後ろ姿を見つつ4人は1階女子トイレへと向かった。
1階の女子トイレに到着するとミルキーとトラヴィスが出てきた。
「おいぃ、なんで女子トイレに男が入ってんだぁ?」
当然の疑問にゲルトラウドが反応した。
トラヴィスは当然かのように答え返す。
「そこに怪談があるからだ」
「本当にあるのか?」
ファルトも疑問に思い再確認をする。
「ある。これには……そうだな、俺の財布を賭けてもいい」
「やっすいな」
「トラヴィスの財布は後で貰うとして、中にいるリュドミラちゃんの反応を待とうではないか」
――1時間後。
「ひぃいいいい!」
女子トイレの奥からリュドミラの声が聞こえてきた。
その声にリンネが即反応を示した。
中に入ろうとしたエルシアとアリスがリンネに止められた。
「まだ入ってはいけないよ! ここからが勝負。霊が完全に具現化するまで待つの。中途半端に具現化してても飛散してしまうからね」
「でもみらみらが!」
「そうですよ。リュドミラさんに何かあったらどうするんですか」
「私が説明します」
「ミルキー先輩?」
ミルキーは持っていた本を開くと、あるページで捲るのを止めた。
本はかなりの年代物らしく、表紙などは色あせている。
「この本に依れば霊は実態を持たないスピリチュアル体であり、物理的な干渉は出来ないとされています」
「その本は何?」
「エルシアさん、アレは魔導書です。昔、魔力をもって事象を起こす私達魔法士と、魔力を使って魔獣や霊の類を操ろうとしていた魔道士居ました。その魔道士が持っていた本です。今では全部破棄されたと聞きましたが、持っている人がいたんですね」
「なるほど……。ん? でも霊って精神、魂魄干渉はするよね?」
「あれ? エルシア君は魔導書でも読んだことあるのかい?」
「いえ、実体験です」
エルシアが実体験と聞き、リンネ、ミルキー、トラヴィスの3人が反応を示した。
アリスを跳ね除け、エルシアにビッシリと壁際まで迫る。
「その経験どこで!」
「ぜひ教えて下さい!」
「ちょっと詳しく!」
「ファルト~たーすーけーてー」
「おいおい、先輩らエルシアが困って――」
「うるさいよ! ファルト君!」
「ぬわーっ!」
こうしている間にも女子トイレからは悲鳴が聞こえてくる。
流石に可愛そうになってきた2人はこっそり助けに行くことにした。
幸いなことに、リンネ、ミルキー、トラヴィスはエルシアに夢中だ。
女子トイレの中に入ると、空気が重くなったように感じる。
「何か居ますね」
「そうだな。下がってな」
ゲルトラウドが前に出ると、女子トイレの一番奥の個室へと向かう。
奥に到達する頃には悲鳴は無くなっていた。
扉に手をかけ一気に開く。
「リュドミラ大丈夫か!」
「リュドミラさん!」
そこには気絶し、泡を吹いているリュドミラの姿があった。
それと同時に子犬の様な魔獣の霊が居た。
「ハッハッハ」
「犬……?」
「いや、魔獣? の子供だな」
「ガウガウ!」
子供魔獣の霊は警戒を顕にし、毛を逆立てた。
だがしかし、まだ幼いだけあって魔獣とて可愛いものだ。
「あらあら、可愛いですね。触れるのかしら」
「おいおいおい、お前の頭はどうなってんだ。幽霊だぞ! リュドミラだって気絶してるし、何かされたんじゃねーのかぁ」
「大丈夫です。あれはただ気絶しているだけです。おそらく恐怖で気絶したんでしょうね」
そう言いつつ子供魔獣の霊を撫でている。
触れられているかは分からないが、子供魔獣は警戒をあっさりと解き、されるがままになっていた。
そうこうしている間にリンネ達も女子トイレに入り、子供魔獣の相手をしていたのであった。
★
一応保健室に運び込まれたリュドミラは親が迎えに来ることになったが、それより先に1つの異変に遭遇する。
(……ん~。なんだろう~、頭がぼーっとする~)
「あら? 目が覚めた? 大丈夫? まったくオカルト研究部は困った者ね」
「(なにか言わなくちゃ……あれ? 声が出ない?)……全く困ったものだ。(え?)」
「親御さんが迎えに来るから保健室で待ってていいからね」
「はい。わかりました(え? え? なんで勝手に喋ってるの?)」
リュドミラは自身に何が起きているのか分からずにいた。
「先生少し席外すから、お迎えが来たら電気消していってね」
「はい」
保険の先生が保健室から出ていくと、リュドミラはベッドから起き上がり鏡の前に立った。
「……この体の持ち主よ。体を借りるぞ。(どういうことなの~!? ……ん?)」
鏡には自分の頭の上に何かが乗っている。
リュドミラには覚えがあった。
それは個室で見た幽霊だ。
「(ひぇえええええええ! 幽霊だあああ!)うるさいな」
「少し借りるだけだ。あの場所にいるとまた人間たちが私を撫で回す(ずびまぜん)」
「(その……ひっ、どのくらい~うっ、いるんですか?)私の骨が掘り起こされるまでだ」
曖昧な返答に不安になるが、宿主を死に至らしめる事は無いだろうと思い、天然成分が溢れ出しのほほんとするのであった。
★
リュドミラを保健室に担ぎ込んで直ぐの事。
オカルト研究部は部室で会議していた。
もちろん議題は確認された幽霊をどうするかの件である。
「1つ目の謎はあっさり解かれてしまったから、これをどうするかだね。議題は”あの幽霊の処遇はどうするか”」
部長のリンネが議題を記した。
我先にとミルキーの手が上がった。
若干気分が下がっているよう。
「ナニが何でもなかったのでぶっちゃけオカルト研究部のマスコットにするのはどうですか?」
「マスコットか、それもなかなかいいな。ミルキーの魔導書があれば使役出来るかもしれないな」
ミルキーとトラヴィスが意見を言い、マスコット化の話が出てきた。
「私もいいですか?」
アリスが手を上げた。
「いいぞ」
「私としては原因を究明し、成仏させる事が良いと思います」
「私もそう思います! 流石にマスコットはひどいんじゃないかな?」
エルシアもアリスに続きマスコット化の話を否定する。
ファルト、ゲルトラウドも人道的にアリスの意見に続いた。
意見が割れ長引きそうな気配が漂う中、リンネが口を開く。
「どうやら意見が別れたようだね。ではこうしよう。学園側に報告をし、対処出来なかったらマスコットと」
反対意見が出なかったため一応の処遇が決まった幽霊。
リンネだけでは不安だったためアリスも同行し職員室へと行く。
そこで女子トイレの幽霊を話、対応を求めたのだ。
「オカルト研究部が言ってくるとはまたデタラメかと思ったが、シルヒハッセさんが言うのであれば本当なんだろうな。分かった。以前から噂は合ったんだ、対処しよう」
「ありがとうございます」
「……」
職員室から出るとリンネが愚痴を漏らした。
「これでは私がおまけではないかー! 私が部長なのにー!」
「まぁまぁ、リンネ部長。功績を積み上げていけばいつかは信用される日が来ます」
「後輩にはいわれたくなーい!」
リンネの声は学園に響き渡ったとか言う話だった。
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