40 2人の模擬戦と迫る秘密
家に帰ると真っ先に運動服に着替えると、アリスにトレーニング施設の利用をお願いしていた。
アリスは2人が真面目な顔をしてお願いをしてきたことを何か特別な理由があるのだろうと考えトレーニング施設へと向かった。
「身代わりの腕輪です。くれぐれもやりすぎないようにお願いしますね」
「おう」
「りょーかい」
2人は身代わりの腕輪を着け距離を取った。
アリスが腕を上げ、暫く静寂が包んだ。
「始め!」
腕を振り下ろした。
その瞬間即魔法が行使される。
「我の威を示せ、ディバインカノン!」
「我の威を示せ、アイギス=エモートセイバー!」
ファルトの放った魔砲は直様両断され、エルシアが間合いを詰めてきた。
だがファルトもそれを許さず、再び魔法を行使した。
「我の威を示せ、ウォーター=リコネクト。我の威を示せ、マッドウォール!」
「……!?」
ファルトが行使した魔法にエルシアがエモートを振るうが、極限まで切れ味をましたエモートが壁に阻まれたのだ。
しかも引いたり押したりしているが抜けないのだ。
「我の威を示せ、ファイヤーエレメント=リコネクト。我の威を示せ、ヴォルケーノカノン!」
エルシアは直様エモートを解除すると、結界魔法をファルトが放った魔法に行使する。
すると結界に包まれた魔法はエルシアの手の上で止まり、それを投げ返したのだ。
投げ返すのと同時に自身の魔力を上乗せし結界魔法を解除した。
「っ! 我の威を示せ、キャストブレイク!」
「我の威を示せ! アイギス=エモートハンマー!」
「くっ!」
ファルトは振り下ろされた不可視のハンマーを素手で受け止めた。
身代わりの腕輪にダメージが入る。
「このまま押しつぶしちゃうもんね!」
「まだまだァ! 我の威を示せ! アルティメットフィジカルブースト」
不可視のハンマーが押し返され、エルシアは両手を上げた状態になってしまい無防備の状態にされた。
そこにファルトが一瞬で近づくとエルシアの腹に拳を打ち込んだのだ。
壁際までエルシアは吹き飛び、床に転がった。
「……女の子に腹パンなんて最低ですね」
「はぁ!? アリス今は模擬戦中なんだぞ!」
「本当にさいてーなへんたいおおかみさんのファルトだね……」
エルシアは起き上がり、ファルトに言いがかりをつけた。
当然否定をするが、アリスの目が冷たい。
「あ゛ぁ゛! こっの野郎!」
「うるさいカラスですね。エルシアさんやっちゃいなさい」
「やられる前にやる! 我の威を示せ! ドゥーム=リコネクト! 我の威を示せ! ルイン=リコネクト! 我の威を示せ、カースリストレイント!」
「これは……呪いの類ですね」
エルシアの足元に呪詛を含んだ魔法陣が現れた。
魔法陣から怪しい煙が立ち込める。
「よし! 俺の勝ち! エルシアにはキャストブレイクは使えない」
しかしエルシアは呪いに触れているにも関わらず身代わりの腕輪にダメージが入らない。
その様子にはアリスを含みファルトも驚いていた。
「私に呪いは効かないよ。****様の祝福があるからね」
「何……?」
「〈聖なる言霊よ、我が歌を以って浄化の聖歌となれ。私は貴方の悲しみを感じ、大切なあなたを救いたい。穢れし魂よ、原初の海へとおかえりなさい。そして全てに救いを与えられん〉」
聖歌を口ずさむと魔法陣ごとエルシアを水が包む。
そして次の瞬間には魔法陣が砕け、ファルトの魔法が破綻した。
流石にそれには自然と口から声が漏れた。
「何だそれは……なんなんだ!」
今までのファルトから聞いたことがないような声だ。
アリスを見るが、こちらも目を丸くしている。
つまり、エルシアが起こした現象は魔法理論上ありえない事なのだ。
「ひ・み・つ! 我の威を示せ! ステイシススパイク!」
「しまっ! 我の威を示――」
「遅い! 我の威を示せ! アイギス=エモートアーチャー」
エルシアの手のひらから防御魔法そのものが射出された。
それは驚くべきほどの初速を持ってファルトに向かい、その身を吹き飛ばしたのだ。
身代わりの腕輪の限界を超え勝利はエルシアのものとなった。
喜ぶのもつかの間。
喜び以上に込み上げてくるものがあった。
それは。
「うっぷ……」
「ん?」
エルシアは施設のトイレに駆け込むと、胃のオムライスを吐き出したのであった。
「最悪~」
「これは腹パンのせいですね」
「俺のせいじゃねー!」
★
公共生活省にて。
「アンソニー官僚。そういえば汽車ジャックの件はどうなったんですか?」
「ああ、忘れてたよ。電話でもしてみるか」
アンソニーはハイジャック犯を渡した街の憲兵へ連絡を取ることにした。
数回の発信音の後女性の声が聞こえてきた。
『はい、こちら憲兵です。どうされましたか?』
「公共生活省のアンソニーと言うんだが、汽車のジャック事件の詳細どうなったか聞きたいのですが」
『少々お待ち下さい。担当者に変わります』
電話が保留になり30秒ほど経った時、今度は男性の声が聞こえてきた。
『お電話変わりました。汽車のジャック事件の……詳細ですね』
「嫌に間が有りましたね。何か有りましたか?」
『えぇ。それが預かったゴーレムと犯人ですが、どちらとも爆発してしまいまして、断片的な情報しか捜査出来ませんでした』
「爆……発?」
『はい。現場検証していたところゴーレムが赤熱し、同行していた憲兵2名と犯人がゴーレムの爆発に巻き込まれ死亡しました。事前の調べにより犯人グループはレジスタンスの構成員だったようです。おそらく狙いは貴方だったかと思われます』
アンソニーはレジスタンスに聞き覚えがあった。
(たしか、君主制度に反対する者たちだな。しかしなぜ私を狙って?)
『アンソニー官僚?』
「あ、いや。もう結構。ありがとう」
『いえ、仕事を果たせず申し訳ない』
その後社交辞令な話しをして受話器を置いた。
ソフィアはアンソニーの横で話しを待っている。
事の顛末を話すと、ソフィアが提案を出してきた。
「失礼ですが、護衛を増やしたほうが宜しいのではないでしょうか?」
「税金の無駄だよ」
「そういう意味ではありません。家族が悲しむ事になります。家のセキュリティーの強化や護衛の増員を手配させてもらいます」
「あ、あぁ。わかったよ」
それだけ言うと執務室を出ていった。
残さ得れたアンソニーは頭を掻きむしりながら”面倒なことになった”と独り言を漏らした。
再び受話器を取ると今度は調査部へ連絡をした。
エルシアとファルトの秘密に迫る魔法の件だ。
これだけは妙に頭に引っかかり悩んでいた。
『はい、こちら調査部です』
「片翼の墓守の件について」
『少々お待ち下さい。秘匿回線で繋ぎます』
そう言われると通話が途切れ掛け直された。
「私だ」
『魔法陣の解読が完了しました。秘密裏に呼んだ専門家の意見も聞きましたが、この魔方陣は起動乃至発動は出来ないとの結果が出ました』
「なるほど。終唱は?」
『終唱は”呼び奉る神威御霊”です。終唱から聞いて何かを呼び出す魔法ではないかと』
「その何かが、あの2人には憑いている可能性があると」
『発動出来たのであればその可能性が高いと思われます』
これでエルシアとファルトの秘密の一部を掴んだアンソニー。
しかし、この秘密にはまだ先があると踏んでいるのであった。
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