39くえすととおむらいす
日曜日、今日はファルトと2人でギルドのクエストを受けに来ていた。
「今回は迷わずに来れたね」
「あぁ。前回はエルシアの方向音痴を思い知らされた」
「ファルト!」
ギルドに入ると真っ先に民間のファイルを手にとった。
そもそも民間のほうが新参者には優しい依頼が多いのである。
ペラペラとファイルを見ているとファルトが1つの依頼書を見つけ、エルシアに手渡してきた。
「これなんてどうだ?」
「ん~? これ国からの依頼だよ?」
「民間のは期間が長くてな。俺たち学校あるだろ?」
「あ~。そうだね、それでこの依頼なんだろう……下水道の掃除? 臭そう」
「誰もやってないから溜まってるんだよな」
ファイルを捲ると同じ下水道掃除の依頼が大量に入っていた。
日付を見ると、ところどころ飛んで入るが連日依頼が舞い込んでいるようだ。
「これしかないの?」
「登録したての冒険者に1日で出来る仕事はこれしかないな」
「しょうがない、ファルトが頑張ってくれるなら行こっか」
依頼書を持ち受付へ向かう。
その間に持ってきたギルドカードを取り出しておいた。
「この依頼を受けたい」
「かしこまりました。ギルドカードの確認をしますのでギルドカードを提示してください」
「2人分な」
「受け取りました」
コンピューターにカード情報の照会を掛ける。
2人合わせて60秒ほどで照会が終わり、ハンドセンサーが点灯しだした。
「ハンドセンサーに魔力を流し込んでください……はい、大丈夫です。」
2人は間を開けつつ1つのハンドセンサーに魔力を流し込んだ。
コンピューターがギルドカードに登録された魔力パターンを照合し本人確認が終了した。
依頼書に印字されているバーコードを、手元のバーコードリーダーでコンピューターに読み取らせ、依頼とギルドカードの情報を紐付ける。
「これで依頼の受付は完了です。今回の依頼には硫化水素検知器を貸し出ししています。腰に着け、警告音が鳴ったら直ぐに作業を終了してください。ギルドカードをお返しします」
ギルドカードと硫化水素検知器を受け取ると下水処理施設へと向かった。
道中迷う事無く下水処理施設に到着すると”ギルドの依頼で来た”と警備員に言うと、下水の入り口施設まで案内された。
そこで職員に人が変わった。
貸し出し物と硫化水素検知器の説明の確認を受ける。
「長靴を貸し出しているので履き替えてください。硫化水素検知器について説明を受けましたか?」
「あぁ。腰に着けて警告音が鳴ったら終わりにするんだよな」
「はい。その時決して腰より下にしゃがまないでください」
靴を履き替えるとマスクを着け下水道の中に入っていった。
「臭い!」
「警告音は鳴ってないな」
「そういうことじゃなくて!」
「ん? 違うのか」
下水道の入り口から徐々に進みつつ生活魔法のクリーンアップを行使していく。
薬剤などを伴わない魔法は特に何が混じっているか分からない下水道の掃除には大変便利である。
下手に薬品類を使えば毒ガスが発生してしまう恐れがある。
「硫化水素って確か勉強したよね」
「あぁ、あの地獄の様な勉強で習ったな」
硫化水素とは硫黄と水素の化合物である。
自然界には主に温泉地帯の窪地や火山などの低地に溜まっている。
空気より重いため低地に溜まるのだ。
更に無色と言うこともあって気づくこと無くあの世という場合もある。
ただし臭いは有り、卵の腐った臭いと言われる。
「硫化水素で死ぬと緑色の死斑がでるんだって~。この間映画でやってたゾンビみたいになっちゃうよ」
エルシアは怖いでしょ~と言った風にファルトに言う。
だがファルトはどこ吹く風だ。
テキパキとクリーンアップの生活魔法を床と壁に掛けていく。
そんな姿をみてからかうのをやめ、魔法を掛ける。
時間にして4時間、クリーンアップの生活魔法を掛け続けた2人は入ってきた入り口に戻っていた。
いかに片翼と言えども4時間連続で生活魔法を使っていたら消耗する。
「ふう。疲れたぁ~。レストランに寄って帰ろうよ」
「そうだな。その前に銀行行こうか。金下ろして食いに行こう」
マンホールから出ると、靴を履き替え長靴を戻す。
職員に声をかけ、終わったことを告げた。
「お疲れさまでした。ギルドにはこちらから報告をしておきます。硫化水素検知器も返却しますので預かります」
2人は腰につけていた硫化水素検知器を外すと、職員に手渡した。
「預かりました。今日はこれで終わりです。お疲れさまでした」
「ふい~。我の威を示せ、クリーンアップ」
服に着いた臭いを落とすと下水処理施設を出た。
現在は昼を過ぎた時刻でエルシアは早くレストランに行きたがっていた。
ファルトはそれを抑えると学園の近くにある銀行へ書類とキャッシュカードを持って行くのであった。
「銀行ってここ?」
「ここだな……。なんか俺ら場違いじゃね?」
「アンソニーさんと同じ服着てる人沢山だね~」
中に入ると複数の受付が有り、見るからに金持ちそうな婦人が談笑している姿があった。
「きんぴかぴんだぁ……」
「趣味わりーな」
「ファルト! 金のアクセサリーだよ、銀もある!」
「お前はカラスか」
ファルトにカラス呼ばわりされカチーンと来ていたエルシアだったが、ファルトは番号札を取ると長椅子に腰掛けた。
エルシアも続き長椅子に腰掛けると、ファルトの耳を引っ張った。
「いだだだだだ!」
「カラスの事は断固抗議する!」
「暴力反対だぞ!」
「じゃあ模擬戦でもする?」
「面白そうじゃねーか。そう言えば、エルシアとはやったことがなかったな」
そうしている間に番号を呼ばれ、受付の椅子に腰掛ける。
書類とキャッシュカードを提出すると印鑑の確認や書類の不備がないか確認していく。
何も問題は無かったのか、コンピューターに変更内容を登録していく。
「はい。冒険者専用キャッシュカード受け渡し処理終わりました。こちらが新しいキャッシュカードになります」
「分かった」
「お手続きは以上になります」
「ありがとう。エルシア行くぞ」
ファルトは椅子から立つと50ビル引き下ろし、レストランに向かったのであった。
レストランに入るとテーブルまで向かい、椅子に座った。
メニューを見るとエルシアが1つの料理に目が向いた。
「オムライス! 私オムライス食べたい」
「俺はペペロンチーノでいいか」
横においてあった店員呼び出しボタンを押すと、すぐに店員がやって来た。
「ご注文はお聞きします」
「オムライス1つとペペロンチーノ1つで」
「お飲み物はどうしますか?」
「俺は紅茶。エルシアはどうする?」
「りんごジュース」
「畏まりました。オムライス1つ、ペペロンチーノ1つ、紅茶1つ、りんごジュース1つで作らせてもらいます」
頭を下げると店員は厨房に戻っていった。
料理が来る間にお冷が2人分配膳され、ちょうど喉が乾いていたファルトはお冷を一気飲みしていた。
「フッフッフ。これが最後の晩餐になると思っておけぇ~」
「それ、この間やってた映画のセリフだろ」
「だって、この後模擬戦やるんだから今言うセリフでしょ?」
「お前な……」
「おまたせしました。オムライスとペペロンチーノ、紅茶、りんごジュースです」
エルシアはやって来たオムライスに目をキラキラさせていた。
店員が注文内容を記述した紙を入れ物に入れると去っていく。
それを見届けたエルシアはすかさずスプーンを手に取ると食べ始めた。
「おいしい……。幸せ~」
「おかわり禁止な」
「えー! なんで!?」
「この後動くんだからそれだけにしておけ」
エルシアはあまり納得が行かないようだったが、模擬戦で勝つために我慢するのであった。
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