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天使と悪魔の片翼の輪舞曲~One wing of them~  作者: 白築ノエル
2人間の街と学園
36/113

36心のあり方





 ソフィアが現れた途端アーノルドの親は忌々しそうに攻撃の手を止めた。

 更に後ろには入学式で長々と話していた学園長の姿もあった。


「我の威を示せ、エリアヒール」


 電撃の攻撃魔法で怪我をしていた教員2名をオズウエル学園長が治療する。

 2人をベッドに運ぶと話を切り出した。


「今回のことは生徒の聞き取りから聞いている。先に手を出したのはアーノルド君だそうじゃないか」

「私の息子が先に手を出すわけないだろ!」

「事実だ。そして喧嘩はエスカレートしていき片翼(ハーフ)の1人を殺そうとしていた。」

「ヒトモドキの片翼(ハーフ)を殺して何が悪い、奴らは人間じゃない!人権などないのだ!」


 オズウエルに畳み掛ける。

 しかし冷静に言葉を返した。


「では人間の人権たる証拠とは何か。知性か? 理性か? 感情か? 秩序か? それとも形か? 私には片翼(ハーフ)も全て持っていると思うんだがね」

「う、うるさい! 大体人間に翼などないじゃないか!」


 顎に手を当てると今度は持論を展開し始める。


「ふむ。私の論文ではな、片翼(ハーフ)と呼ばれる存在はその言葉の通り人間と天使、悪魔とのハーフだと思うのだけど、天界、魔界を行き来するための魔法が王国により隠されていると踏んでいる。結局の所人間と変わらない。そうと思わんか? ソフィアさん?」

「私から話す事は御座いません」

「お硬い」

「そ、それはお前の陰謀論だ!」


 オズウエルを陰謀論者で凶弾したいのか、手法を変えてきた。

 国王が絶対のこの人界で陰謀論は国家反逆罪だと言い始めたのだ。


「この話は国に報告してやる。お前の人生は終わりだ。震えて待つがいい」

「学問に携わる者として学を探求して何が悪い。学ぼうとしてない愚か者に言われても怖くないわ」

「くっ。もういい、アーノルドの無事も確認出来た。帰らせてもらう!」


 それだけ言い残すとドスドスとわざと足音を立てながら帰っていった。

 足音が聞こえなくなると、ソフィアは鞄から一枚の紙をオズウエルに手渡した。


「こちらエルシア様が壊した学園の支払い小切手になります」

「おお、話が早くて助かる。アンソニー君は元気にやっとるか?」

「体調に問題もなく公務についておられます」

「そうかそうか!」

「では、私はこれで」

「わかった。アンソニー君に伝えてくれないか? 子供に罪はないとな」

「はい。それでは失礼いたします」


 ソフィアも去り、話せるのはファルトとオズウエルだけになった。

 チラチラとオズウエルに目線を送っていると相手から話しかけてきた。


「エルシア君は大丈夫か?」

「今は寝ているだけだ。問題はない」


 目を合わせようとしないファルトにオズウエルが話を続ける。


「エルシア君は目撃情報とアーノルド君の取り巻きの発言から再接続(リコネクト)の三段階目を行使したようだ。いくらハーフでも精神が持つまい。今は精神が安定してないのだろうな」

「……俺たちはただの片翼(ハーフ)だ。学園長の言うハーフではない」

「そういう事にしておこうか。明日から土日は休みだ。その間に治すがいい」


 オズウエルは保健室を後にした。

 残されたファルトはエルシアに付き添って居ることにした。


 放課後になりアリス、リュドミラ、ゲルトラウドが保健室にやって来た。

 3人揃って保健室が荒れていることに気が付き、何が合ったのか聞いてきたのだ。


「あぁ。アーノルドのクソオヤジが出張ってきた。この通り全滅さ」


 カーテンを開けると横になっている保健室教員の姿があった。

 

「私達が授業受けている間に大変だったみたいですね」

「大丈夫か? 家までエルシアを背負っていってやろうか?」

「折角の申し出だが、大丈夫だ。気持ちだけ受け取っておく」

「じゃぁ、せめて家までえるえるを見送らさせて~」

「そうですね。御二人とも遠回りになってしまいますがよろしいでしょうか?」


 2人とも笑顔で頷くと、ファルトはエルシアを背負い、ゲルトラウドが鞄を持った。

 家に帰る道中、エルシアの事を皆が気がかりにしていたのだった。





「ここはどこだろう……。私どうなったんだっけ」


 エルシアは1人体を丸くし闇に浮いていた。

 今の状態は非常に不安定な精神状態であり、エルシア自身も傷ついている。


「あぁ。そっか。あの時魔法を発現させようとして、最後の最後で制御できなくなって……」


 一つ一つ思い出していく。

 その中には辛い記憶も含まれていた。


「理不尽だ。こんな世界なくなればいいのに」


 心を閉ざし、周囲の闇に侵食されていく。

 そんな時どこからか声が聞こえてきた。

 聞き覚えがある声。

 とても大切な、初めての友達。


『なぁ、……。お前の気……を考えずに……動をして悪……。すまん』

「ファルトの声だ。ノイズが混じってて聞こえにくい」


 ノイズ混じりの声は微かだがエルシアの心に届いていた。

 

『……きはお父さん、お母さんばっかりだ……。お前の全ては両親だけだった。でも……出会って変わったな』

「さっきよりハッキリ聞こえる。確かにお父さんとお母さんだけだった。でも今は」


 侵食していた闇が徐々に引いていく。

 閉ざしていた心が開かれる。

 ふっと手が暖かくなった。


「今は1人じゃない。皆が居る」

『だからさ。エルシアは1人じゃない。目を覚ましてくれ……』

「私から変わらなくちゃ!」


 その瞬間闇に覆われていた空間が真っ白になった。

 そして眩しい光の方へと導かれていった。


 光の先は桜が咲き乱れ、大きな川があった。


「ここはどこ? 見たことない綺麗な風景」


 エルシアは少し歩くと小舟が見えた。

 オールは無く、川を渡るにはどうすれば良いのかわからない。

 すると背後から話しかけられた。


「エルシアと言ったか。なぜこの場にいる? ここは幽世の入り口、私の領域だ」

「え? あ! あの時の!」


 背後にいたのは金色の髪の毛と九尾の尾、耳を持つ現世と幽世の渡守だった。

 神の権能を使い、あらゆる奇跡を起こす神の使い。


「精神体か。何かあったようだな」

「実は……」


 今までの経緯を話した。

 それを聞いていた渡守は1つの答えをだした。


「ハーフオールなどと珍しい存在が奇跡と代償の契約をしているが故、不安定な精神が此方側に引き寄せられたのだろう。エルシア、川を渡ろうとしていなかったか?」

「してたけど、オールが無いからやめました!」

「川の先は輪廻転生を待つ死者の国。一度渡れば二度と戻ることが出来ないものだ」


 それを聞いてオールが無くてよかったと思うエルシアだった。

 そこまで話を聞いていると徐々に自分の体が透けてきたのだ。


「時間か。次に私に会う時はこう唱えるといい”我らの威を世界の軛から解き放て 呼び奉る神威御霊“とな」

「わかりました」

 

 エルシアは光りに包まれその場から姿を消したのであった。





ファルトとアリスは家に入るとルルが急いで向かってきた。


「3人共! 学園から連絡があってびっくりしたのよ! エルシアは大丈夫?」

「あぁ。寝ているだけだ」

「お母さんすいませんでした。私が目を離したばかりにエルシアさんがユード家長男アーノルドと殺し合いになってしまって」

「ユード家……ね。エルシアを部屋に寝かせて2人ともお風呂に入ってね。ご飯待ってるから!」


 ニコニコと笑いながら言っているがアリスには分かっていた。

 ユード家にかなりの怒りを持っていることが。


 エルシアをベッドに寝かすと、着替えをアリスに任せることにした。

 返り血で汚れた制服は生活魔法のクリーンアップで綺麗にする。


「出来ました」

「ありがとな。風呂先にいいぜ」

「ありがとうございます。お先に入らせてもらいます」


 アリスは自分の部屋に戻り寝間着と下着を持つとお風呂へと向かっていったのであった。







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